第四話 華々しい幕開け
元上司のトーンデフと戦うことになったフーガとカノン。はじめは下手な魔法ばかり撃っていたが、カデンツァのアドバイスもあり、無事勝利する。
ごろ、と棍棒が転がる。ミノタウロスが大の字に倒れている。それを見ているスライムと木のゴースト。
「……ふ〜つかれた。やったか?」
「フーガさんなんかそれ嫌な感じがします」
どん、と地面に響く音がした。フーガとカノンがびくっとする。
「クソッタレが……クソ、雑魚どもが……!」
トーンデフがふらつきながらゆっくりと立ち上がる。
「なんなんだこいつ、タフすぎんだろ……!」
棍棒を手に取り、地面に突き立ててかろうじて立ち上がったその姿はまさに満身創痍だった。目の赤色はさらに増している様子だった。
「そこまででいいんじゃないかしら?」
その声の方向をその場にいた皆が見た。竜の尾と二本の角。不敵な笑みを浮かべるカデンツァだった。トーンデフは震えながら情けなく小さな声を出し、さっきまでよろめいていたのが嘘のような素早い逃げ足で森の中へ消えていった。その姿が見えなくなるより前にカデンツァは二体のほうへ振り向いた。
「ずいぶん頑張ったみたいね」
ほんの少し上がった口角を見せる。褒められたらしいので誇らしげにする二体の魔物。ずいぶんとスッキリした顔立ちだ。
「じゃあ、ちょっとだけ会議でもしようかしら?」
「会議?」
カデンツァは聞き返したカノンに何かを言うでもなく、また小屋へ歩いていく。
「作戦会議とかそういうのでしょ。多分」
フーガもカデンツァの後に続くように行った。カノンは少し遅れて、慌てるようにそれに続いた。
「さて、じゃあこれからのことについて話しましょうか」
椅子に足を組んで座ったカデンツァ。テーブルの上の紫色に淡く光る、怪しげな魔石に手を置いている。テーブルの上に、カデンツァに持ち上げられて置かれたカノンとフーガはその魔石の方を見ている。
「そのろくでもなさそうな魔石は?なんですか?」
フーガは後付けに敬語を使いながら聞いた。
「ああ、これは悪魔の魔石。これを持ってる者が誰かと契約を結ぶと、契約不履行に対して遠隔で、攻撃でも弱化でも罰則を与えることができるの」
二体の魔族が数秒考える。
「……つまり、ぼくたちはカデンツァさんと、魔王軍に反逆するっていう口約束をしたから契約が成立してるってことですか?」
「そうよ」
「後出し情報も甚だしいな」
思わず素の言葉が出たフーガにくすくすとカデンツァが笑う。そして、右脚を上に組んでいた足を逆に組み直し、パチンと指を鳴らすと、空洞の多い壁際の木製の棚から何枚かのまとめられた紙をテーブルの上に転送する。
「じゃあ本題に入りましょうか。これから本格的に反逆に動くのだけれど、最初から大きいところにいっても返り討ちにされるだけだから。だんだん強いところに行くようにしましょ」
そうして何かが書かれた紙をぺらぺらとめくりながら、迷う様子を見せる。
「……ずっと前の記憶だわ。ランクってどういう順番だったかしら」
「ちょっとカデンツァさん!?」
カノンがその言動に真っ先に突っ込み、それからフーガの方を見る。
「どんな感じでしたっけ?」
「天丼やめろ」
フーガははぁっとため息を吐く。
「Under、Middle、Top、Over。それぞれに下から1、2、3、4、5。それで、さっきのミノタウロスはランク一番下のUnder-1」
「あなたたちは?」
「それよりも低いランク外。一般モンスターはこんなもん。実際、ランクがつけられるだけでも御の字だからね」
説明をしてから、何かを思い出したかのようにフーガはじっとカデンツァを見つめだす。
「竜人って言うなら、少なくともTopの上位はあると思うんですけど……」
カデンツァはくすりと笑う。そして、何も見えないほどに深く、暗く感じられる真紅の瞳を向ける。
「ランクなんて忘れたわ。そんな過去のものなんてね」
フーガにはそれを嘘か本当かを見分ける術がなかったから、少し呆れたような短い返事をするだけに済ました。少し気になったから聞いただけで、それ以上のことはなかったから。
「じゃあ、そうね。近くで一番ランクが低いところの管轄は……」
それから数秒程度ぺらぺらと紙をめくって、そのうちの一枚をテーブルの上に置いて見せた。
「これはどう?フォスキアという人間の街を管轄するオブリガートというリザードマンよ。ランクはUnder-3」
「Under-3かぁ……Under-1のトーンデフが森の一部だけしか任されてなかったけど、そっちは人間の街を任されてるわけですよね」
「近場だとここが一番弱いのよ。ここに向かって?」
「まあ……無理とか言わせてくれないですよね」
またため息をはぁっと吐き出す。それから体を左右にぷるぷると揺する。
「まあ、もう従うしかないかな。反逆をするなんて契約もしちゃってるみたいだから、もう断れるような立場でもないんでしょうし」
あとに続くようにカノンが言う。
「ちょっとまだ、いろいろなことがよく分かってないですけど、ぼくも行かなきゃなんですよね?望みだって叶えてもらえるわけですし!」
カデンツァは満足気ににこりとして、一枚白紙の紙を手元に転送させる。それからテーブルの上に置いていた紙に重ねる。
「ああ、そういえば。復活草なんてものがあるからと言って、無駄に突っ込んでいったりしないでね。こっちから支給もできるけど持っていける数には限りはあるし、遺体に触れられないか、あっちに持っていかれちゃったらどうしようもないから」
「わかってますよ。復活草の効果出るのは使用する側の使用意思が必要。それで有効なのは死後一時間以内。しっかりわかってます」
「正確に言えば、一時間から大体プラマイ2分の範囲でブレがあるわ。余裕は持つことね」
重ねた白紙をまた手に取ると、そこには写しがされていた。それをくるくると丸めると、カノンの葉っぱの中にぶすっと刺した。
「街のざっくりとした場所も書いてあるわ。よろしくね」
「あ、あの」
そのままカノンが、根を伸ばして手を挙げるようにして見せた。
「カデンツァさんが一緒に来てくれたりとかは……」
「無理なのよ。こっちにもいろいろ事情があってね」
ためらい気味な質問にすぐすっぱりと答えた。
「こっちも質問。魔石は火属性と、木属性の持ってっていいんですか?」
「持っていっていいわよ。現地調達したり、あと私が渡すのは全部あなたたちのでいいわ。他に質問は?」
二体はそわそわと、お互いのことを見て様子を伺った。
「無さそうね。それじゃあ行ってらっしゃい?フォスキアをなんとかできたら、一旦こっちに戻ってきてね」
「はーい。行ってきます」
「生きて帰ってきます!」
二体の小さな魔物は跳ねながら木でできた小屋を飛び出した。森では、トーンデフの管轄していた区画の魔物たちがざわざわとしていた。上司が急にいなくなって、酷い上司がいなくなって嬉しいところもあるだろうが、困惑もしていただろう。フーガはその様子を見て思いついたように言う。
「そうだなぁ……さすがに二体だけじゃ心もとないし、一体ぐらいは仲間が欲しいかもね」




