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第三話 音痴野郎でハウ・トゥ・魔石

前回のあらすじ

カデンツァによって特別な力が明らかになったフーガ。そして共に反逆者となることで自分の望みを叶えられると条件を持ち出されたカノンは、魔王軍への反逆の前に、各々魔石を持ちカデンツァの言う「なんとかしたほうがいいもの」の姿を見た。

「集合命令に応じないと思って探してたら……誰が弱そうなミノタウロスだって。あ?」

のそのそと近づいてくる存在。二体の上司であるミノタウロス、トーンデフ。その魔族は今の感情が見て明らかにわかるよう、赤い目をギラつかせ、右手に握られた棍棒をぐっと握りしめていた。簡素な布切れのような衣服、なくもない筋肉が微妙に隆起して、鼻の息が煩わしい。2メートル近くある者が小さな魔族を見下ろしている。

「ど、どうしましょ、あ、すみませんトーンデフさん!これは違くって!」

カノンが焦ってどうにか弁明しようとしている。そしてフーガは、その行為がこんなにもキレている者にはもはや意味がないこと、そして自分たちの身分にとってはもう似つかわしくないことだということを早くに理解していた。

「しょうがない。それが事実だったからね」

「ちょっとフーガさん!?」

「あ゛?」

あまりにも簡単に言ってしまったフーガに、困惑する者、さらにキレる者。そして、当の言ってのけたスライムは、形状を変えて感情をあらわにすることも、怖気づいてすぐ言葉を撤回するでもなく、堂々としていた。

「だって、部下の功績は自分の功績、失敗は大げさ言っていびり倒す。適当に配属して戦闘向きじゃない部下も繰り出させる。そして何より、部下の変化にも気づかないし、才能も見抜けない。そんなんでよくランクなんてつけてもらえたもんだよ!」

威勢よく言い放つとぐっと力み、小さな火球を作って繰り出した。

「うおぉっ、何しやがる!」

身にまとっていたぼろきれに火が燃え移ると、慌ててその部分を叩いて火を消した。それから大きな魔族はようやく気づいたようだった。部下の一体でしかなかったスライムが、なぜだか赤くなっている上に魔石が埋め込まれていることに。

「さっき反逆を持ち込まれて、僕は考えたんだ。ただその場の勢いで乗ったってのもちょっとはあるけど、僕みたいに弱いのがお前みたいな横暴なやつにこき使われるのは納得いかないし、環境が悪いのもどうにかしたいなーって前々から思ってたんだ」

「お前っ……そうか、俺に歯向かう気か、ランク外の雑魚二体が!」

怒りでさらに腕に力が入り、血管が浮き出て来る。

「もう許さねぇからな!雑魚は雑魚らしく俺に従っておけばよかったって、理解させてやるよ!雑魚どもが!」

「雑魚雑魚うっさいなあ。これでやられたら恥ずかしいよー?」

完璧に怒りが頂点に達したトーンデフ。不敵に挑発してみせるフーガ。

「カノン。さっき魔石もらったし、魔法使えるよね」

「フーガさん!落ち着いてください、上司ですよ!強いですよ絶対!」

そしてフーガを静止させようとするカノン。当然、まだ怖いのだ。フーガは落ち着いた口調だった。

「まだ怖いのか?」

「そりゃそうですよ!」

「でも、その恐れがあるままじゃお前の望みは遠のくらしいじゃないか。それでもいいの?」

「……それは、でも」

「お前の望みは、でも、で終わらせることはできるのか?魔王軍への反逆なんていう大きな代償をもってでも望んだものをすぐに諦められるのか?」

「……」

「諦められないのなら、やってみせてほしい。その望みのために、あの竜人の得体のしれない思惑の通り動いてみせてくれ。少しの間、ついさっきできた僕の望みに協力してくれ。魔王軍に染み込んだ邪悪をきれいに取り除き、あまねく暴虐を失墜させる。そして、魔王軍に囚われない、自由の魔族の世界を作る望みに」

「……あーもう!迷ったってしょうがないんですねもう!」

吹っ切れたカノンはやけくそ気味にがさがさと葉っぱを揺らすと、緑色の木の葉がぶわっと巻き起こってトーンデフへ飛んでゆく。

「うおっ!?」

慌てて顔を隠すように腕をクロスし、襲い来る葉から身を守ろうとした。ただの木の葉のようにも見えたが、魔力によって作られたそれは普通のものより鋭かった。浅い切り傷をミノタウロスの肉体に多くつける。

「勇気出したんですから!先輩も逃げないでくださいよ!」

「もう先輩呼びはやめてくれ。反逆者の同期でしょ?」

もうカノンもノリノリになっている。フーガは満足げに火を纏う。トーンデフは怒りに震え、皮膚を真っ赤にする。

「くそったれが!お前らみたいな雑魚が!俺に歯向かいやがって!」

叫びながら巨大な魔族は棍棒を振り上げ、力任せにスライムに振り下ろす。スライムは少しも動かない。そして、棍棒の狙いは怒りにブレて外れた。

「馬鹿だなあ。もっと冷静にならないと」

言葉の通りに落ち着いた様子のフーガは、次にカノンへ言った。

「カノン!バラけるぞ!」

「わかりました!」

フーガは走り出して距離を取り、カノンは根を伸ばして手頃な木の枝に乗り移った。弱い魔族であるからそんなに速いというわけでもないが、少し強いぐらいの身体の大きな魔族には追いかけることのできない速度だった。

「とりあえず、魔法!遠距離で魔法をぶつけて近づいてきたら逃げる!」

魔法を使い始めた二体だったから、まだ使い方もよくわかっていない。フーガは数秒ぐっと溜めて火球を投げ飛ばし、カノンは度々休憩しつつ鋭い木の葉を飛ばす。命中精度も低く、見えない程度に浅い傷と少し暑い程度の影響しか与えられていない。トーンデフはその攻撃の中、わなわなと震えだす。

「……この程度で俺をどうにかできるって思ってんなら……ナメられたもんだなぁ!あ゛ぁ゛!?」

トーンデフはさらに激昂し、どすどすと走り出し、フーガの方へと走り出した。その動きは緩慢、フーガも走れば十分に逃げられるほどだった。だが今の少しの間の攻撃でも、十分にこの後起こることが容易に想像される。

「カノン!ダメだ!僕たちの魔法が弱すぎてまるで通じない!」

「ですよね!?じゃあどうするんですか!」

「詠唱」

その声が二体の思考の中に響いた。その声の主を探すために木造の小屋に目をやる。カーテン越しに角の生えた人型の影が見える。

「火属性はフォーコ。木属性はフォリア。詠唱は魔力を増幅させる。しっかり狙って、やってみてちょうだい」

カノンは突然言われたことにまごついていたが、フーガは冷静だった。そこに立ち止まり、どっすどっすと距離を詰めてくるミノタウロスをじっと見つめる。さっきまではただがむしゃらに数撃っていただけだった。呼吸を整え、対象をしっかり見据え、火球を作り出す。逃げ出そうともせず、その場でじっと。

「くたばりやがれえぇぇ!!!」

棍棒の射程圏内。トーンデフがそれを振りかぶった。

「フォリア!」

突然、大量の木の葉がトーンデフを襲う。フーガに夢中になってる隙にカノンは近くまで来ていた。急ぎではあったが、詠唱を伴った木属性の魔法は肉を切り裂き、血が出る程度には傷をつけることができた。トーンデフはあっさりと注意を惹かれ、振り上げた棍棒は手から滑り落ちた。

「ありがとう!カノン!」

「あぁっ!クソっ!」

間抜けな叫びを上げたトーンデフを見上げ、自分と同じだけに大きくなった火球を掲げる。それからばっと、巨体の顔面間近まで跳ね上がる。ぐるんとその身を横に一回転させて勢いをつけ、叫ぶ。

「フォーコ!!!」

叫ぶとぐんっと火球が一回り大きくなり、そのまま大きな火球がトーンデフの顔面を包みこんだ。魔法製の炎は数秒燃え盛ってからふっと消え、黒くぷすぷすと煙を上げる頭部をあらわにしたミノタウロスは、後ろ向きにどすんと倒れた。

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