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第二話 ちょっと特別な力

前回のあらすじ

魔王軍にうんざりしていた一般スライム「フーガ」。ある特に散々な一日を仕事をサボって昼寝をして過ごそうとしていると女の竜人「カデンツァ」に目をつけられる。そこで、フーガは突然に魔王軍への反逆を提案される。

「魔王軍をひっくり返す!?冗談でしょ!」

フーガは思わず大声を出して跳ねた。目の前にいるのは竜人。普通ならこんなふうに逆らったりはできない。だが、提案があまりにも馬鹿げていたためにこうやって大声を出してしまった。

「ねえ、スライムさん?」

「フーガです」

「フーガさん。なんで私があなたを見込んだかわかる?」

「どうして見込んだって……」

フーガはうーんと悩んでみた。自分に何か特別な力があった試しもない。勇敢さもないことはない程度。武器の(たぐい)は扱ったことがない。顔がないからポーカーフェイス?いや、動きに出まくる。人望もそんなに無いし、勉強もそんなに。

「あなた、魔王軍に不満を持ってたと思うんだけど」

「あ、はい。待遇悪いっす」

「それに、特別な力も―――」

カデンツァが言いかけると突然、ばたんとドアが開いた。フーガがびくっとして振り向くと、小さな木の魔族がいた。

「先輩!大丈夫っすか!?」

「カノン!どうして来てんだよ!?」

フーガはあわあわとしながらカデンツァの方に向き直した。

「すみません!こいつすぐ追い出すんで!」

カデンツァはにこりとして、小さな木の魔族の方に体を傾ける。

「ああ、その小さな……トレントでいいかしら?」

「あ、ゴーストです!カノンって言います!」

「カノンさん。あなたにも協力してもらおうかしら」

「えっ、何にですか?」

「魔王軍への反逆」

「えっ!?」

フーガはそのやりとりを、聞くと思わず口汚く反論しようとしてしまったがすぐに押しとどまった。そんな言葉を使ったらかえって危なくなるかもしれないから。

「……カデンツァさん。カノンはまだ若い魔族なんです。さすがに巻き込めないです」

「そう。でも、あなただけじゃ無理だと思うのだけど。私はあの子も込みであなたを見込んだんだし」

思わず無意識に大きなため息を吐いた。自分だけならよかったのに、どうして後輩まで、と。

「じゃあカノンさんもそこにいて」

「あ、はい?」

カノンはあっさりと、カデンツァが目で指したフーガの隣のあたりに行った。

「魔力を操り、魔法を繰り出す力を持つ()()。スライムが魔石を持つとどうなるかしら?」

カデンツァは椅子をきしませて立ち上がりながら二体へ訊いた。二体はその動向を見守る。一般的に、スライムが魔石を持つとどうなるかはほぼ常識だった。魔法を使うとかする前に、その体が魔力に耐えきれず爆散する。だから魔法が使えるスライムは、そういう種、あるいは特別な才があるということ。フーガは当然、カノンも何度か教えられたから知っていた。カデンツァは赤色の淡く輝く魔石を右手に持っていた。

「殺す気か?」

その言葉が思わず出た瞬間には、投げられた魔石が目前まで迫っていた。

「へぶっ」

「フーガさーん!?」

べちんと壁に叩きつけられたフーガの中にはもうすでに赤い魔石が埋まっていた。

「フーガさん!それちょっと!フーガさん!」

慌てるカノンに、なんとかしようと無言で暴れてるフーガ。そしてくすくすと笑ってばかりいるカデンツァ。この状況で最初に落ち着きを取り戻したのはフーガのほうだった。

「……死なない?死なないの?」

その声は困惑だった。一般で言われていることから外れたことが起こっている自分の身体に困惑していた。

「あなたの特別な力。一般的なスライムよりも優れた、魔力に対する耐久性。そしてそれの強化係数、分かりやすく言うなら伸びしろね」

「伸びしろ……」

そう復唱した半透明の緑色は、埋められた魔石から、水の中にインクを垂らしたように段々と赤色に染まっていく。内側から熱が湧き出し、炎のイメージが浮かび上がる。

「……ぶしゅっ」

急に多量の魔力がその身体に浸透したためか、一回くしゃみをした。すると、ぼっと小さな火が出た。ほんの一瞬の小さな火だった。

「うおっ」

「わぁっ!」

「ふふっ、いいわね。スライムが魔石由来の魔法を使うのは初めて見た」

ここまで来るとフーガもカノンも、特にフーガは、一般スライムが魔法を使ったということに心が踊るのを隠すことも忘れる様子だった。

「すご!僕こんなことできたんだ!」

顔がなく、表情のないスライムだが、声色とぴょんぴょんと跳ねる姿から何を考えているかは簡単に理解できる。素直に喜んでいる。

「喜ぶのもいいのだけれど、私の提案にも乗ってほしいわ」

「ああ、魔王軍への反乱の話……」

浮ついた感情が一気に引き戻された。だが、これがある種きっかけになったのだろう。フーガは初めのように渋らず、数秒もなく、こくりと頷くような動きをした。

「僕は乗るよ。どうせ逃がしてはくれなさそうですし、こんな能力があることを見抜けなかった上にキツイ仕事に雑用ばかりの魔王軍なんてクソ喰らえだ」

考えが変わったというよりは、その場のハイで言ってしまったようなものだった。こういうものは、自覚していたとしても押し留めるのは難しい。現に、フーガも自覚しながらこう言った。カデンツァがこのタイミングで答えを迫ったのは、これを狙ってやったのだろうという考えもほんの少しよぎったが、それでもだった。

「じゃあ、カノンさん。あなたも反逆の手伝いはしてくれる?」

「え、いや、ぼくは……」

カノンは静かになった。慕っている先輩は嬉しいことがあったが、自分にはまだ何もないのだから当然だった。先輩の独り言を聞いても、現状を見ても魔王軍が酷いのは明らかだ。それでも魔王軍にいたほうが安全だ。死ぬのは痛そうだけど、一時間以内なら復活草で完全に復活できる。種族的に出世のチャンスも十分ある。何より、入っていないと社会的に殺されてしまう。

「あなたの望むものは何?」

急に質問されたカノンは一瞬たじろぐ。竜人の瞳が怪しげに貫く。まるで心のうちを全て見透かすようである。あっという間に気圧された弱々しいゴーストは、ゆっくりと、強大に見える竜人の近くへと寄る。そのまま、小さな声で望みを言ったらしかった。フーガは気になって聞き耳を立てたが聞こえなかった。

「いいわ。調査通りの内容でよかった。あなたのその望みは、必ず叶うわ」

そう言いながら、カデンツァはそのわさわさとした葉の中にさりげなく、緑色の魔石を入れた。カノンはそれについてはそこでは触れなかった。気が気でない様子は見てわかる。不安げに視線を落としていたが、がさがさと身体を横にゆすってからまたまっすぐ正面を見た。

「先輩!ぼくも行きます!」

「そっか。ならちゃんとついてきてもらうからね!」

「ところで、カデンツァさん!ぼくには特別な力って!」

「無いわね」

威勢よく行こうとしたところにこの即答、カデンツァの方を振り向いた状態のままカノンは呆然としている。

「今はそうってだけ。そのうちよ、そのうち」

「ならいいんですけど……」

「それよりも、今ちょうど外にいるのをなんとかしたほうがいいんじゃない?」

カデンツァはくすくすと笑いながらドアを指差す。どういうことかと二体がドアを開けてみる。

「誰かいるな……」

その誰かをしっかり見ようと揃って進む。

「人間じゃないですね。こんなとこにいるのはここに配属されてるか、上司の、えーと、名前は……」

「トーンデフだよ。ランクは僕らランク外の一つ上のunder-1。それなのに自分が世界の全てだと思ってそうなヤバいやつ。ちょうどあんな感じの、体格はでかいけど申し訳程度の筋肉と棍棒の弱そうなミノタウロス」

その遠くにいた弱そうなミノタウロスが、ゆっくりと二体の方に首を回した。なくもない筋肉、こだわりのなさそうで適当な棍棒、尖らせすぎたからか先の欠けた二本の(つの)

「あの人がトーンデフさんじゃないですか?」

「……そうかも」

明らかにムカついた表情の赤目の牛頭がゆっくりと歩いて来ていた。

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