第十一話 せーの、で行くんだからな。せーのっはい、って一拍置くんじゃないからな
カルマンドの店にたどり着いた一行。そこで新たな戦術であるコードの存在を知る。
カノンが三十分ほどたっぷりと昼寝をした後に起きたことを確認してから、三体は店の二階に上がった。二階はカルマンドの部屋と魔法の試し撃ちの部屋があった。試し撃ちの部屋は、壁がきらりと光を反射する金属に覆われていた。扉から入って正面には、的代わりにペンキで円が書かれている。
「すごいなこの部屋」
「高そうですね」
「カルマンドは金属性に適性があるから。こういうのは自前で用意できるの」
「じゃあさっそく一回。フォーコ!」
そうフーガは火球を飛ばした。しかしその壁は、多少の変色があったがすぐに元のとおりになった。確かに、その部屋を覆う金属は少しのことではびくりともしない頑丈さがあるように思えた。
「すごいね、魔石って。こっちの勉強は全然だったから、ここまでできるとは知らなかった」
その小さな部屋を見回してから、カノンの方に振り向く。
「じゃあさっそくやってみる?」
「あ、はい!」
カノンはその隣について、的を見据える。フーガも同じ方向を見つめる。
「いくよ。せーの、でね」
「わかりました!せーので、ですね!」
「あ、ごめん待って。これって同時に魔法やるだけでいいの?」
「それで大丈夫だよ」
「ありがとう。あと詠唱無しでやっても大丈夫な感じ?」
「うン」
「わかった。でも力加減合わせたりとか」
「いいからやったら?」
「はーい。じゃあいくよ。はい、せーの!」
「せーのっ」
二体はその掛け声に合わせて魔法を放ったはずだった。カノンの木属性の魔法が、フーガの火属性の魔法から一拍遅れて放たれた。
「……もう一回やろう。せーの!」
「せーのっ!」
小さな火球が的に当たった少し後に、ぱらぱらと木の葉が当たる。
「カノン。カノン。あれだ。僕のせーのは一、二なんだけどカノンのは一、二、三なんだ」
「なんかそんな感じっぽいですね?」
「ちょ、ちょっと一回打ち合わせするかちゃんと」
二体が協和音の練習をしている間に、カストラータとカルマンドは一階に下りていていた。そこには静かな空気が漂い、木の香りを二体へ運ぶ。階上から漏れ出すあーでもないこーでもないという声も心地よく感じられた。
「ネぇ、カストラータ」
膝の上に乗っていたスライムが、ぴくりと動く。
「おぼエてる?ワたし、が、あなタ、ヲ、ひろっタ、トき」
「ああ、もちろん。あなたが人間に追われてて、偶然、幼い私がそこでうろうろしてた」
「ウん。それ、カら、わたシ、がそだテてた、ね」
カルマンドは笑った。それから数秒の間、ただ時計の針の音が動く音を聞いた。
「ねぇカルマンド」
リザードマンは小さくこくりと頷く。
「魔王軍もだけど、人間も酷いと思うの。私たちだって、生きるためがんばって働いてるだけなのに。確かに人間を傷つけることをするのもいるけど……」
「そう、ダね。でモ、ね、にンげん、さン、モ、いきる、たメ、だカら」
「うーん、そうだけど……」
「きょう、ハ、ね、しゅウかい、ガ、あル、の、じカん、に、おクれたら、ニんげん、でモ、まゾく、でモ、ころさレる、の」
「え?そんなバカみたいなことあるの?」
「オブリガート、さん……この、マち、の、とウちしゃ、が、してル、コと。みンな、いきル、タめ、に、あつマる、ノ。まぞく、も、にんげん、も」
視線は遠い。
「誰も、なんとかしようとはしないの?」
「そういウ、かツどう、モ、だめ、ダった、の。みンな、つかマって」
時計の音が響く。
「……大丈夫。私たちがなんとかするよ!」
カルマンドはびっくりしたふうの目でカストラータを見る。そしてすぐに、柔らかい目で見つめた。
「はんギゃくしゃ、さん、だもンね。この、まチ、を、かえテ、クれる、カな」
「もちろん。多分、あの二体も協力してくれるし」
「お!いったいった!」
突然、二階から大きな声が聞こえた。
「多分これですよ!やりましたね!」
「成功したみたいだね」
二体の魔族はくすりと笑った。




