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「まさかザムザが負けるなんて……」
「せっかく住みやすそうなところを見つけたってのに」
あの後、ムアムに負けたアトの一族は足取り重く移動をしていた。
「しかしあのムアムってのはとんでもない強さだったな、本当に俺達と同じ人か?」
「あのザムザを一瞬でだもんな」
その時後方でドン!! と大きな音が聴こえた。 一同振り返るとそこには大きな化け物が居た。
「な、なんだありゃあ!?」
「で、デカい」
ザムザも大きかった、しかしそれは人である範疇だ。 だが今見ている者はそれよりも遥かに大きかった。
「グオオオオッ!!」
ザムザの倍以上ある体躯に赤黒い肌、人間の姿をしているがとてもそうは見えなかった。
今の人類が誕生する遥か前、この惑星には別の人類種が居た。 その中でも圧倒的な強さを誇ったのが巨人族、その末裔が古代まで生き残りが居たのをアトの一族は知る由もない。
巨人はアトの一族に向かって走り出した、あまりの光景に思考停止状態に陥っていたが彼らとて狩人、何が最善かはすぐに導かれる。
「ひいッ!!」
「女子供、戦えない者は退がれ! いくらデカくても相手は1匹、あれがマンモス以上なんてことはあるか!? たかが人間だ!!」
「おおーッ!! そうだ! 獲物が飛び込んできただけだ! あいつを晩飯にしてやろうぜ!」
大きくてもたかが人間、分厚い皮膚や毛皮で覆われてもいない、爪やツノなど持っていない。 殺し切れると判断したアトの一族の狩人は巨人を獲物と認識した。
しかし……
投げ槍は巨人の腕の一振りで弾かれ刺さっても大したダメージは与えられない。 そうしているうちに集団に突っ込み腕を振り回すと3人ほどが巻き込まれた。
「だ、大丈夫か?!」
「死んでる…」
巨腕の一薙で3人が即死する圧倒的なパワーに戦慄する、それは明らかにムアム以上と思われる。
「ガァァァアッ!!」
「ッ!!?」
槍で突き刺そうとした1人が巨人に噛まれ首から上がなくなる。
「あ、ああッ……」
ガリ、ボギッと咀嚼しながら残った者を巨人は見据え、ニヤリと笑った。
「ガガガッ…… ウ、マ…ソウ」
こうしてアトの一族はあっけなく滅んだ。 一通り人間を食った巨人は目を細める。
そう遠くない場所に大量の獲物が居る、微かに匂う、獲物の匂いが。
◇◇◇
「ん? 俺の体に?」
「はい、ムアムの体から何か力を感じていたんです。 昔から」
「うーむ、俺にはよくわからんが」
「でも父様は誰より強いよね昔から!」
「同じような力をフィーからも感じる」
「え!? わ、私? 弱いよ私!」
そう、フィーは特段優れているわけではない、しかし潜在的には秘めているのかもしれない。 しかしミロクにもそれはわからなかった。
「しかしフィーは俺の子供だからな、そのせいかもしれん」
「つまりフィーがもし子供を産めばその子供にも不思議な力が宿るのかも…… あれ? でも珍しいですね、色んな人と交わっているのにフィーが自分の子供だって」
この時代、誰かれ構わず暇を見つければヤッているのである。 寿命が短い彼らにとって子孫を残すことは食並みに先決なのだ。 一族の間では大体乱交パーティだ、それが普通。
「フィーの母はフィーを産んですぐに死んでしまってな、そして俺以外と交わろうとしなかった、だから俺も奴と以外は交わらん」
「そうだったんですか」
「でもそれって良いよね、私は父様の娘だってハッキリわかるし本当に交わりたい人って居るし……」
フィーはミロクを見詰めるがムアムは溜息を吐いた。
「俺のやり方は非効率だ、子は多い方がいいんだ。 真似しなくてもいいんだぞ? 大体お前はもう16になる。 もう行き遅れてるぞ」
「もぉー! 父様が言えた口じゃないのに! ねぇミロク」
「あ、うん。 じゃあその前に僕らも試してみよっか今夜辺りでも」
「ッ!! うん! やったぁ、私ミロクがいいなってずっと思ってたんだぁ」
そうして夜になりフィーはミロクの元へ向かった。
「ミロク」
「フィー、待ってたよ」
みんなの元から少し離れた場所で2人は落ち合った。 するなら静かな場所が良いとフィーが言ったからだ。
「ミロク、私初めてだから……」
「うん、僕もだよ」
2人が手を取り合った瞬間……
「グフ、グフフフッ……」
笑い声が聴こえた。
「誰?」
「さあ、誰も居なかったと思うけど……」
しかし何かが動いた、それは岩だと思って気にも留めていなかったものだった。
「い、石が動いた…… ?」
「違う、夜だからわからなかったけどあれは石なんかじゃない……」
「エ… モノ…… イッパイ」
巨人の大きさに2人は驚愕しそれを見上げる。