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フィーや、ムアムの部族はティムトという。 総勢52名、それが多いのか少ないのかはミロクにはわからない。 もう30歳を超える年寄りが15人、族長に限っては40歳を超えている。
ムアムも30歳になっていて高齢に差し掛かっている、しかし彼だけはどんな若者よりも強靭でティムトの支えとなっていた。
ミロクやフィーも15歳となれば人生の半分を過ぎた立派な大人だ。
「よし、そのまま追い込め!」
「ヴォルフ行くぞ」
ムアムが後ろから、ヴォルフは正面から獲物に。 ヴォルフは獲物の熊の首に噛みつき持ち上げ叩き付ける。 熊よりも大きいヴォルフならではの戦法だ。
「凄いぞヴォルフ」
「ガウッ!」
「流石は聖霊獣、俺が出なくても余裕だったか」
「でも追い立ててくれたからヴォルフもやりやすかったと思います」
「そうか? それ以前にヴォルフの脚の速さは誰にも敵わんから追い立てる必要もなかったがな」
「でもなんだか嬉しがってますヴォルフ」
みんなで遊んでいる感覚なんだろうなヴォルフにとっては。
大移動の道中はヴォルフの助けもあって食べ物に困ることはなかった、長もこれには前回の移動の時の苦労が嘘のようだと大変喜んだ。
だが肥沃な大地と豊富な獲物、これを望んでいる者は彼らだけではなかった。
「貴様らどこから来た? 我らアトがこの地を貰った」
「我らはティムト、この大地は我らだけのものではない、共に分かち合ってこそだと思わぬか?」
他部族との衝突、これは避けられぬことでありティムトも何度かこういういざこざはあった。 時に戦い時に融和し吸収合併しやり過ごした。
「ならん! 強き者だけが生き残る権利を与えられるのだ、弱き者は去り滅びろ!!」
「ならば問う、これが目に入らないとでも?」
長はヴォルフを指した。 そう、このいざこざの最中もアトの部族の視線は異様な大きさの白狼ヴォルフに釘付けだった。
「ぬう…… 確かに立派な獣よ、しかし我らが束になればその程度どうとでもなる」
「何を畏れ多いことを。 この白狼は聖霊ぞ、そして聖霊の使い、ミロクもおるのよ」
「な、なんと!!」
荒唐無稽…… そんなようなことでも怯んでしまうのは人類もまだ発展途上なのだ。 しかしヴォルフの姿には説得力があった、熊の2倍以上の大きさに純白の毛並みに知性を感じさせる瞳、聖霊と言われても納得してしまう。
「し、しかし我らの争いに聖霊を持ち込むとは卑怯な!」
「そうであるのなら俺が受け持とう、俺と決闘しもし負ければ我らは去ろう、しかしこちらが勝てば好きにさせてもらう」
ムアムが前に出た。
「な、なにを……」
「俺の名はムアム! そちらにも戦士はいるのだろう? ならばこの果し合いに背けば戦士の恥、何もせぬまま負けを認めるということになる、どうだ!?」
ムアムがそう言うとアトの部族から1人の大男が前に出た。
「俺はザムザ、アト最強の戦士だ。 受けて立つ」
「なるほど、最強と言うだけはある」
互いに槍をを向け構え、そしてザムザの叫び声と共に両者がぶつかる。
勝負は一瞬だった、交差したかに見えたがムアムの槍がザムザの顎に突き刺さりそのまま脳天まで達し首を引きちぎった。
ショッキングな光景だがいつの世も自分の大切な人の命は重いがそれ以外の無関係な人間の命は軽いのだ、ミロクとってもそうだった。 尚且つそんな光景は原始の時代に生きていれば特に珍しいというわけでもない、だからティムトの部族は大いに歓声を上げる。
「凄い! 流石フィーのお父さんは強いね」
「でしょ! 父様より強い人見たことないもん」
一方でアトの一族はあまりの光景に戦慄していた。
「バカな、ザムザがやられるとは」
「あの怪力、人間じゃない」
「恐ろしい……」
そんな彼らにムアムは……
「良い戦士だった。 ザムザ、覚えておこう」
「よ、よくもアト最強の戦士をッ!」
「最初に融和の道は示した、しかしそうはせず決闘になった、お互い了承しただろう? そして勝者は俺だ、この地から去るがよい」
弱肉強食、それは人の間でもそうだった、部族内では助け合いは行われるがそれ以外はほぼ敵と同じなのだ。
「ミロク?」
「ああ、ううん。 なんだかあのアトの人達暗く見えるんだよね」
「まぁ負けたからじゃない?」
「うーん…」
そういう落ち込みとは違う、そもそもそんなのじゃない。 アトの一族が黒…… 何か染まっているように感じた。