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僕は15歳になった、フィーとの村にも行ったりして穏やかに過ごしていた。 しかし少し前に異変が起きた。
僕には不思議な力が備わっていた、僕の意思によって周囲に壁があるかのような力を使えるようになった。 フィーの村の長は聖霊の加護による力と言っていた。 まぁ変わったことと言ったらそれくらいだ。
「ミロク〜!」
「あ、どうしたの?」
洞窟でヴォルフの背中の上で寝転んでいるとフィーの声が聴こえた。
「お父様がね、お肉ミロクのとこに持ってけって」
「そうなの? 僕のとこはヴォルフが狩ってくれるからいいって言ったんだけど」
「私もそう言ったんだけどね、お父様ったらミロクのこと可愛がってるから」
村との交流でフィーの父親、ムアムはどこを気に入ったのかミロクのことを息子のように思うくらい可愛がるようにまでなっていた。
肉の匂いにヴォルフが首を上げた。
「食べたいのヴォルフ?」
「クゥ〜ン」
ヴォルフの存在はいつしか村の者にも明るみになった、最初は異様な大きさに怯える者も居たが長が聖霊の化身と言ってくれて崇められるようになった。 もしかするとミロクもヴォルフに近いのでその聖霊の化身の使いと思われているのかもしれない。
不思議な力が発現してから少し村の者達もミロクの見方が変わった気がしていたからだ。
「はいはい、ほらヴォルフ」
フィーがヴォルフに肉をあげると一口で平らげてしまう。
「あはは、全部食べちゃった」
「ヴォルフからしてみたらこれくらいじゃ足りないもんね」
唯一フィーだけが昔と変わらずこうして気安くミロクと接してくれる。 そのことが嬉しかった。
しかし変化は付きまとう。
「獲物が取れなくなった?」
「ああ、この地は獲物が豊富に居たのだが最近はどうも…… な」
何月か経った頃、ムアムが言う。
「獲物がとれない時は獲物が居る場所に移動するのが常なのだが」
それでムアムの言いたいことがわかった、「お前もついてこないか?」そう言いたいのだろう。
ミロクは考える。 自分が森で暮らして15年、住んでいた場所を離れる。 ヴォルフはどう思うだろうか? 自分としてはムアムの誘いは嬉しい、新しい場所というのにも興味がある、しかしヴォルフは僕にとって家族だ、ヴォルフが嫌がるなら無理をしてここから離れることはしない、僕も残る。
洞窟に帰りヴォルフに相談した。 ヴォルフは普通の獣と違いある程度僕達の言葉を理解する。
「ということなんだよ、ヴォルフはここを離れても行きたいとは思うかい? 僕は行ってもいいかなと思うけどヴォルフの方が大事だ、ヴォルフが行きたくないなら僕も行かないよ」
「ウォンッ!!」
「え? 行ってもいいの??」
意外とヴォルフはあっさりしていた、特にこの場所に執着はないみたいだ。
「そういうわけで僕達も同行させてもらっていいですか?」
「構わん、寧ろわしらは君を部族の一員だと思うとる。 ああいや、それは失礼かな聖霊の使いよ」
「あはは、そんな大層なものじゃありませんよ僕もヴォルフも」
「謙遜するでない、ムアムやフィーも喜んでおる」
昔はこの人達と一緒にとは想像もしなかったけどどうやら僕にはヴォルフ以外にも大事なものが増えたのかもしれない。
「わあー! 聖霊様と使い様も一緒に来てくれるの?」
「使い様じゃなくてミロクでいいよ」
「だってそう呼ぶと怒られるんだもん」
僕とヴォルフも同行することとなり子供達がはしゃいでいる。 新しい拠点はここよりもう少し暖かいという南の方角、獲物だけではなく様々な自然の恵みもあるという。
「ミロク〜ッ!」
「あ、フィー、聞いたと思うけど僕達も一緒に行くよ」
「うん! 嬉しい!」
「わッ!」
フィーが僕に抱き付いて離れない。
「こらフィー、ミロクが困っているだろう、離れなさい」
「ええー、だってぇ。 もしかしたらお別れかと思ったんだもん」
「それはそれで仕方ないだろう」
「そんなこと言って父様だって嬉しいくせに」
「まぁ…… それはな。 ありがとうミロク」
「いえ、足手纏いかもしれませんが」
「大丈夫、ヴォルフも居るし私も居るし!」
そう、ヴォルフも居るしフィー達も居る。 あまり心配はしていないミロクであった。