午後のインクと秘密の会議
3匹のちいさな狐たちが住む、ほんわか異世界スローライフのお話――
ちょっぴり笑えて、やさしくて、今日も平和。
狐印物語製作所の午後は、ちょっとまったりしている。
ちゃぶ台の上には、色とりどりのインク壺。
朱色、藍色、山吹色、深い緑……
そして、どれよりもつややかな紅の壺が、そっと中央に置かれていた。
「さて、今日の物語の色を決めようか」
白い毛並みのリーダー狐が、ふわりとインクのふたを開ける。
「うーんと、今日のは、恋の話でしょ? じゃあ、ちょっとだけ、赤……」
もふもふの末っ子狐が、しっぽを揺らしながら覗き込む。
けれど、もう一匹、眠たげな瞳の中狐が、小さく首を振った。
「……やだ。赤は使いたくない」
「えーっ!? どうして!? 恋だよ? 赤、使わないの?」
末っ子狐がしょんぼりとしっぽを垂らす。
「だって、あの赤、たまに涙が混じるんだもん」
「えっ?」
「読んだ子が、泣いちゃうような話になっちゃうときある。……それが、やだ」
小さな声だったけど、静かな午後の工房には、はっきりと響いた。
……しん。
三匹は、ふと顔を見合わせる。
「そっか」
リーダー狐が笑った。「なら、今日はやさしい山吹でいこう。あったかい色、春の匂い」
「うんっ! それなら、だいじょうぶ!」
「……うん」
こうして決まった今日の物語は、ほんのりと山吹色。
あたたかくて、やさしくて、すこしだけ春の風のにおいがした。
読んでくれる“誰か”の胸が、
ちょっとだけ、ぽかぽかになればいいな――
今日の物語は「やさしさの色」をめぐる、ちいさな会議のお話。
山吹色のあたたかさ、伝わったでしょうか?
読んでくださって、ありがとうございました