馬鹿な悪魔と馬鹿な神父
この作品はフィクションです。
実際の人物、団体、事件とは関係ありません。
BLです。
不快と感じる表現等ありましたら、読むのをやめてください。
思いつきで書きました〜
王都から離れた村の、ある教会には心優しい神父様がいる。神父様はいつも笑みを絶やさず、欲もなく、雨の日も風の日も毎日教会の掃除を行っており村人たちは聖人として敬っているそうな。(しかも相当な美形なのだ…!)
…そんな人間など存在しない!人間は最も欲深く、穢れた生物である!
魔界第130位(人間界で言う階級)の悪魔であるこの僕は、少女のような姿形に、艶のある黒髪で聖人のふりをした欲人たちと幾度も契約して魂を手に入れてきたのだ。
神父の魂は取ることが難しく、その分魂は難しさに見合った力を秘めているという。魂が手に入ったら、魔界第100位も夢ではない。
僕は今日こそ憎らしい神父様の魂を手に入れるため、羽を広げて教会に向かうのだった。
教会に入ると、祭壇の前に長身の男が背を向けて立っていた。背に流れる銀髪が黒いカソック(神父の着る服)に良く映えている。
僕は静かに羽を閉じながら、人間に変装し、後ろから抱きつく。
「エルヴァー!」
「おやラナン、久しぶりだね。もう来ないかと思っていたから嬉しいよ」
僕が腕を離すとエルヴァーは振り向いて微笑んだ。
そう!僕の作戦は親しい仲!親しい人間のために契約した人間は数しれず。エルヴァーが僕と親しくなれば、きっと自分から弱みを晒すに違いない。
僕がこの教会を訪れるのはなんとこれで13回目(13は魔界で区切りの良い数字)!
それに今日の僕は一味違う。
「ラナン、前より髪が伸びたね、それに今日は荷物がある。ふふ、今日は私に何をしてくれるのかな」
「今日はお茶を持ってきたんだ、一緒に飲もう」
自白剤入りのお茶をな!
お茶をするのにぴったりな場所があると、エルヴァーに案内された場所は教会の外にある庭だった。
木陰に丸いテーブル1つと椅子が2つある。
魔界で作られた自白剤は摂取した者の欲望を赤裸々に話させるものである!この自白剤を飲ませればエルヴァーの欲望を聞き出し、魂と引き換えの契約ができるかもしれない。
自分で入れるからと教会の中でお茶と自白剤を入れた僕は、エルヴァーがお茶をするのにぴったりな場所があると、教会の庭に案内された。
お盆を持っていた僕は一度テーブルに置き、お茶を配ろうとした。
「ラナン、もらったスコーンが客室に、「スコーン!」
スコーン、それは人間界で最も美味な食べ物…初めて食べたときから虜…
「客室だね、持ってくるよ!」
僕は教会に急いで入った。
「貴方は本当にスコーンが好きだね」
「あっ!」
スコーンが入った袋を片手に庭に戻ると、すでにお茶を並べ、座っているエルヴァーがいた。エルヴァーのせいで自白剤を入れた方のお茶がわからなくなってしまった。
「ラナン、どうしたんだい?」
「い、いやなんでもないよ」
スコーンの袋をおいて僕も椅子に座る。
(落ち着け、自白剤は無味無臭。魔界独特の瘴気もない、エルヴァーは気づかないだろう。それに僕が先に飲まなければどっちに入っているかわかるんだ)
「さあ飲んでくれ、とても美味しいお茶なんだ」
僕はスコーンの袋を開けながら、エルヴァーに微笑んだ。
「うん、いただくよ」
ラナンがカップを持ち上げ、唇を付け…一口飲んだ。
「…」
「…」
エルヴァーは飲んだ後、ゆっくりカップをおいた。
どうだエルヴァー、優しき神父よ。お前の欲望は何だ?金、力、権力、それとも全部?
さあ、この僕に言ってみろ!
「ねぇ、ラナン、ここに住まないかい?」
「…ん?え、いや、いいかな」
「…そうか」
「い、いや、ここも素敵なんだけどね、僕にはもう家(魔界)があるから」
僕は人間らしくフォローを入れる。
(なんだはずれか。)
それから僕たちはお茶を飲みながら、人間らしい、他愛もない話をした。
なんとか会話でエルヴァーの欲や望みを聞き出そうとしたが、当たり障りのない返しをされただけだった。
「じゃあねエルヴァー、今日も楽しかったよ」
「ええ、わたしも。また来てください」
教会の前でエルヴァーは手を振りながら僕を見送った。なんで見送るんだ、羽で飛ぶほうが楽なのに。
僕はなるべく早足で教会から離れた後、羽を出して空を飛んだ。
今日もだめだった。エルヴァーは今までであった人間の誰よりも、魂を取るのに手こずっている。
しかし諦めない、優しくて、神父で、しかも美形な人間なんていないのだ!
口が滑って本音を言ってしまうなんて、私も若くはないのだと改めて感じる。
貴方は出会ってから20年経っても、変わらず少年の姿のままだ。私はすっかりおじさんになってしまったというのに。
同じことばかりの退屈な人生を、面白可笑しくしてくれたのは尻尾を隠さない悪魔だった。
一緒に海を見に行こうと、私の手を引いたときも、冬に暖炉で温まったときも。
いつも私は恋心を隠すのに必死だった。恋人になるから魂をくれ、なんて言われたらきっと頷いてしまうから。
なんて憎らしいのだ!私という存在は悪魔の生きる時間の、一瞬の出来事にしかなり得ないのだろう。
「ならばせめて、ずっとここにいてほしい。どうか私が死ぬまでそばにいてほしい。」
純粋な悪魔と、それに恋した神父
やっぱり、種族差、年齢差、身長差は最高です。という小説。