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仲間が全財産なくした件

「すみませんでしたぁ!」


困りましたね。先程から揉める声が宿中に響き渡っています。商店街に面していながらゆったりと寛げるのがこの宿の売りなのですが、これでは台無しです。管理人として注意しなければ、!


「本当にごめんなさい!」


揉めている部屋に向かう間も謝罪の声が聞こえます。ゴンゴンと床にぶつける音は土下座でもしているのでしょうか?さっきから男性ばかりが謝っているということは、浮気でもしたのかもしれませんね。上手く仲裁できるでしょうか。


「もう謝罪は十分だ。しつけぇ。」

そーっとドアを開けると、土下座をするシヴァー様の姿がございました。なるほど、確かにこの声はシヴァー様ですね。あの有名なお方が私の宿に訪れてくださるとは!いえいえ、感動している場合ではございません。般若のような顔をする少年の右手はカタカタと震えていて、左手には空の袋が握られています。

「どうすんだよ!」

「大変申し訳ありま」

ガスッ

「グフ…」

少年がシヴァー様のお腹を蹴りあげた!?不味いですよ!その方は魔法学会の重鎮です!止めなければ!

「報酬のかね全部ギャンブルに溶かしたってバカか!?金は俺が管理するって言い出したのはどこの誰だよ!」

「…俺です。」


「えぇ…」

思わず声を出してしまいました。えーっとつまりシヴァー様は恐らくこの少年とパーティを組み、貰った報酬を自分が管理すると言って全て預かり、それをギャンブルで全て失ったと…これは刺されても文句言えませんね。だらしない方だという噂を耳に挟んだことはありましたが、ここまでとは。なんだか残念です。


トホホ…と一人落ち込んでいると、お二人もこちらに気づいておりました。少年は気の毒ですが、ここは管理人として静かにして頂かないといけません。

「勝手に入ってしまい申し訳ありません。ですが、他のお客様も泊まっているので、あまり大きな声は…」

「あぁ、すみません。」

ヘラっと謝るシヴァー様にまたムカついたのでしょうか、少年が腰を蹴り飛ばしました。容赦ありません。

「いってぇ!」

「ヘラヘラしてんじゃねえ。反省しろ。」

「わざとじゃなかったんだって!」

「たりめぇだ!わざと破産するバカがどこにいんだよ!」


収まる気配が全くございません。困りましたね。

どなたかお知り合いに仲裁していただくしか…


「やほー」

ポン

肩に手を置かれました

「じゃま、どいて」

壁の方に押しやられます。

振り返るとふさふさの耳がありました。

猫の、それも茶トラの獣人と言えば有名な方がおりますが、まさかまさかそんなわけありません。


「やっぱり君かぁ、ギャンブル大す「リリ・バーン!?」」

シヴァー様が驚いております。あぁ、まさかアクルテギルドの幹部様までここを訪れてくださるとは夢のようです。

「やっほーシヴァー。相変わらずだね」

「どうしてここに」

「きみに用があるから」

リリ様が廊下を指差します。

「あの子達に連れてきてもらった。」

「ちょ、はや…先に行かないでくださいよぉ。」

階段から汗だくの2人が出てきました。少年と一緒に泊まっている方たちですね。

「えぇ?だって遅いんだもん。」

「バーン、猫の獣人の全力に着いていける人間なんてそうそういねぇよ。」

「そんなことないよー。着いてくる子は着いてくるもん。てかそうそう、それはどうでも良くって、ルイ、バノス、キック、3人とも詐欺にあって全財産失ったって通報があったから、ギルドの支援対象になるよー。はいこれあげる。」

リリ様が猫らしいツリ目を細めて少年に紙を渡します。

「これ「報酬が良いクエストー。ルイ達は支援対象だから優先されるんだよ。危険だからアタシも着いていくー。」あ、ありがとうございます」

今度は瞳孔を開き耳をピンと前に向けます。

「それからシヴァーは、あっ、こらー逃げるなー!!」

シヴァー様が廊下へと飛び出しました。アクルテギルドは行き過ぎたギャンブルに厳しい罰則があるらしいですね。階段を駆け降りる音が響きます。


「ぅわぁあ!!」 ドガガ

シヴァー様の情けない声がしました。

階段を踏み外したようです。




「なぁ、バーンさん?これ取ってくれませんか?」

「だめー」

報酬が良いらしいイトトラゴの討伐クエストに向かう道中、リリさんは馬車に寄り道をさせた。

シヴァーの馬鹿は杖を取り上げられて、全身を縄で縛られている。

「リリさん?でしたっけ、」

バノスが言う。

「あってるよー」

「どうしてここに寄り道を?」

「あー、今向かってるとこに攻撃的な精霊がいるから。」

「攻撃?」

「精神攻撃。最大の悪夢を見させられるよ。馬車は結界を張ってあるから大丈夫だけど、外に出たら」


ヒョイ


ポーン


「あ、ちょまっ」


リリさんがシヴァーを軽々持ち上げ、放り出した。

「ああなる。」


「……うわぁぁああ!!!」


シヴァーが悲鳴を上げた。血の気が引いた顔は青白く、全身から汗が吹き出ている。自分も1歩でも外に出ていたらこうなっていたかもしれないと思うと恐ろしい。


「いつまでやるんですか?」

「特に決まってないけど、10分くらい?」

「そんなに長く耐えられるかよ。1分だ1分。それ以上はろくに動けない人間になっちゃうぞ。」


いつの間にかシヴァーのアホが戻ってきていた。どうやって正気を取り戻したのか、さっきまでの取り乱した様子が嘘みたいだ。


「そうだっけ?」

「与える罰くらいちゃんと把握しておけ。」

「よく戻ってこれましたね。あんなに叫んでたのに」

キックが驚いたように言う。

「まぁな。」

得意気に言うのがムカついたが、キックも同じだったらしい。脛を蹴った。

「いてっ、悪かったって」


用事が済んで、馬車はイトトラゴの討伐に向かう。


シヴァーがこっちをじっと見てくる。

「お前、気を付けろよ」

「ギャンブルで全財産溶かすなんてバカなことしねぇよ」

「そうじゃない。これからの人生、気を付けろよ。自分の身を守ることを一番に考えろ」


相当な悪夢だったらしい。自業自得だ。

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