実力至上主義な世界
数々のモンスターやダンジョン。この世界にはまだまだ未知がある。こんなに美しい世界なのに現実は弱肉強食。強いものしかこの未知なる美しい世界を見ることは叶わない。僕もいつかこの世界をの全てを知り尽くしたい。いつか必ず。
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あるダンジョンのボス部屋でモンスターと戦いを繰り広げる男。戦いは一瞬で終わる。
「あーあ!雑魚ばっかだなぁ!もっと張り合いのあるモンスターは居ねえのか。」
「きゃあ!バルトス様!さすがですわぁ!そのお強さに感服いたしますぅ!」
媚びたような声でバルトスに言いよる女。バルトスは肩を引き寄せニヤリとした表情でダンジョンを後にする。
この男はバルトス。世界三大ギルドの一角「ガイアギルド」で最強の戦士と言われている。元は好青年だったが、周りより早く成長していく自分をいつしか特別な存在だと自覚し性格は歪んでいった。
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「バルトス。団長から次の大型ダンジョン遠征。部隊長として行ってくれとの命令だ。メンバーは任せる。だそうだ。」
「ガイアギルド」拠点の建物内で、長身でガタイが良くピシッとした服を着た男、エルスにそう告げられる。
「やだよ。めんどくさいし。俺は程々で遊んでいたいんだ。そんな一ヶ月近く拘束されてたくないんだよ〜。こういうのは真面目メガネくんがやってくれ。」
「そうか。ああそういえば。団長はこうも言っていたな。この遠征引き受けないのであれば、君はもう必要ない。だったかな?」
「はあ!?全く!わかったわかった!やりゃいいんだろ!その代わり帰ってきたら一ヶ月くらいは休暇もらうからな!」
クソ団長め。と顔に全開に出し、渋々引き受ける。
「出発はいつまでにすりぁいいんだ?」
「遅くとも一週間後までには出発したほうがいいだろう。今回のダンジョンはまだうちのギルドしか発見していないが、もしかしたら他のギルドに先を越される可能性があるからな」
「そうか。じゃあ明日出発するわ。メンバーはあんまり多くても面倒だから適当にそっちで5人くらい用意しといてくれ。んじゃ頼むぜエルス。」
もっと慎重に!と言うエルスだが聞く耳持たずどこかに行ってしまったバルトス。その場に取り残されたエルスの顔は少し笑っているようにも見えた。
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次の日、エルスはバルトスの元へ5人のメンバーを連れてきた。
「バルトス!彼ら5人が今回のメンバーだ。戦士の・・・」
「ああ名前とかポジションとかどうでもいいよ。足手まといにならなければ。」
苦笑いを浮かべる5人のメンバー。バルトスはやれやれとした後、話に戻る。
「ダンジョンまでは転送魔法で行けるように繋いである。このダンジョンは恐らく最大級の大きさだ。攻略までは行かなくてもいいが、ボス部屋の発見までが最低限のミッションだ。」
「はいはい。さっさと終わらせて帰ってくるさ。いくぞお前達。」
5人のメンバーはバルトスの背中についていく。転移魔法のおかげで目的地まですぐに着き、すぐさまダンジョンに入っていくバルトスたち一行。しかしバルトスの余裕はすぐさま消えた。とんでもなく強大な気配。肌がピリピリ感じるほど空気が澱んでいる。普通のダンジョン。いや。大型ダンジョンの中でも圧倒的異物感。バルトスは久しぶりに感じる恐怖に好奇心が湧いていた。
グサっ・・・。
背後から激痛を感じる。背中から腹まで突き抜けた剣を見て何が起きたのかを察する。連れてきた5人のメンバーの一人。戦士の男に不意打ちされたのだ。
「お前・・・!何考えてんだぁあ!ヒーラー居ねえのか!早く治せ!」
激昂するバルトスに5人のメンバーは堪えていた笑いを解放したかのように同時に笑い出す。
「ヒーラーなんていませんよ!ちゃんとエルスさんの説明聞いとくんでしたね!後、僕のこと覚えてませんか?」
顔に大きな傷がある青年はそういうがバルトスは全く覚えておらず。
「・・・誰だよ!お前なんかしらねぇよ!」
満足に動かない体で反撃しようとするが、簡単に武器を弾かれてしまう。
「僕はぁ!あなたに憧れるただの少年でした。僕と2つしか歳が変わらないのに、誰より早く強くなり。このギルドの幹部にまで上り詰めた神童。最強の戦士バルトス。でも初めて一緒の任務に着いた時。あなたはパーティーの女に無理矢理言い寄り。嫌がっていたので止めようとした僕の顔を斬りつけた。憧れた男は、ただのクソ野郎でした。」
そう言われて思い出す。バルトスは今では勝てないと悟り。プライドもクソもなく助けを媚びる。
「ああ!思い出したよ!本当にあの時はすまなかった!だから!な!剣を下ろして準備を整えて!ダンジョンを攻略しよう!な!」
「本当にどこまでもクズなんですね。」
足の腱を切られ歩けなくされる。そしてダンジョンの奥に連れて行かれ捨てられた。
「ここでダンジョン内の魔物にでも食われてください。すぐに死なせてしまっては、あなたにはぬるすぎるので。ここで自らの行いを悔いたらいい。」
「待て!待ってください!助けてくれ!助けろぉぉお!」
5人のメンバーは足を止めることも、振り返ることもなく満足げに去っていく。きっとあの戦士以外のメンバーも、俺が何かをしてしまった人たちなんだろう。忘れていた感情が溢れ出す。過去の自分の行いを振り返りこうなっても仕方ないのかと。
「くそっ。俺は今まで・・・・」
昔はただこの世界に憧れて。誰よりも強くならないと美しい世界を見ることができない。そう信じて強さを求めた。でもいつしか手に入れた地位や快楽。そればっかり考えて本来の目的を見失っていた。
「ははっ。こんなのところで終わんのか。まあ俺にはお似合いか。・・・あーあ。やり直せるならもっとこの世界を知りたかったなぁ。」
意識が遠のいていく。強さを求めた男は、目的を見失い。最後に過ちに気付く。まあ良くある話だろう・・・。
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終わったはずの人生。ふと目が開く。知らない天井に治療機器。
「まさか俺は。助かっちまったのか。」
助かってしまったことに罪悪感を感じつつも、涙が溢れ出る。
「次は・・・。次は間違えない。この世界を見に行こう。」
一人泣き、決意を固めるバルトス。その時部屋の扉が開き一人の男が入ってくる。その男からはあの大型ダンジョンで感じた気配がした。
「お!目が覚めましたか!よかったぁ〜!」
絶対的強者の気配を発する男は、全く想像とは違う小さい少年のような男だった。
「おま・・・あなたが俺を助けてくださったんですか?」
男はニヤッと笑い立ち上がり、手を差し伸べる。
「はい!僕が助けました!僕はトキと言います!よろしくね!バルトスさん!」
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