あたなを見つめる影がある
百合は、マンションのゴミ捨て場にいた。
好きな人のマンション。
出勤時の地下鉄にいた人で、一目惚れだった。ずっと目で追っていた。
ある日、帰宅時の彼を見かけた。
彼のことが知りたい。百合は、彼の後をつけた。彼のマンションを突き止めた。
彼のゴミを漁った。彼の情報が詰まった、宝の山。
彼の名前を知った。堺裕太。彼は不用心で、個人情報を無造作に捨てていた。
夜。今日も百合は、ゴミを漁っている。
ゴミの中に、何かの説明書があった。暗くてよく見えない。スマホのライトを点けた。
ライトの光で、影が映った。自分以外の影。
後ろに誰かいる。
百合は振り返った。直後、電流のような衝撃を受けた。気絶はしなかったが、体が動かない。
百合はその場に倒れた。痙攣する体を必死に動かして、背後を見た。
裕太が立っていた。
スタンガンの説明書が傍らに落ちている。
「俺も百合が好きなんだ」
嬉しそうな、裕太の声。
「だから、わざと個人情報をゴミに入れたんだ」
裕太は、不用心な人などではなかった。
百合の胸から、恋心以外の感情が湧き出てきた。
「俺の部屋で、いっぱい楽しもうか」
裕太は百合を担ぎ上げた。
――その後。
百合の姿を見た者は、誰もいない。
裕太を除いて。