第4話:A死の間際
日の当たる病室で、Aにも、もうすぐお迎えが来る。
なんて、幸せな人生だっただろう。フランクシナトラのmy wayの歌詞が思い出されるが、元の曲はフランスのナンパな歌で、アメリカ人が別な詩をつけた事でヒットした。
Aも本当はナンパで優柔不断だったが、誰にも悟られないように振る舞って生きてきた。
最期に看取ってくれる20年前から付き合っている彼女には感謝しかない。誰もいない自宅を使えるように息子に伝えたが、果たして実行されるだろうか。
息子とは疎遠で、嘘つき呼ばわりされて、出て行ったきり、実家にはあまり立ち寄らない。母に可愛がられ過ぎて育った一人っ子故、自閉症気味で、他人と上手く付き合えない。頭は良いのだが、孤独な人生だ。
彼女は独立した大人なのが、せめてもの救いだった。
肺炎と診断され、咳が出てなかなか喋る事も苦しい。
途中の仕事も元所員の奴に任せていれば安心だ。昔は荒削りだったが、いつの間にか仕事の裏で段取りを決めるフィクサーになっていた。
裏方ばかりやっているが、80歳になった頃、手伝ってくれとお願いしたら、懐かしいからなのか、暇だったのか手伝ってくれるようになった。
年末になって、かなりヤバくなって、奴に電話した。後は頼む。それ以降の言葉が咳で言葉にならない。
彼女が後でかけますねと言ってくれた。
息子にも連絡してくれ、家族も駆けつけたが、年明けてから、走馬灯のように人生がフラッシュバックする。
賞を取った事、結婚決まった女性を略奪婚した事。これは亡くなった妻だが。山に登って熊に出会った事。アジアで仕事をした事。彼女とアマンに行った事。所員の結婚式をすっぽかしてしまった事。仕事で変更し過ぎて、工務店が倒産してしまった事。車で居眠りして停車中の車に突っ込んだ事。イメージがボヤけて光の中に包まれ、違う次元の扉が開き、魂だけとなり、時間を超えて帰る場所へ向かう。
思い出した。使命を与えられ、産まれたのだ。都市部から辺境の地へ養子に出され、使命を成し遂げるために生きてきた。使命は世界をより良く変える事。どれぐらい貢献出来ただろうか。意識レベルの通知で頑張ったねと言われた気がした。
その瞬間、次の場所へ魂が移動していく。記憶が無くなった。
違う場所、何処だろう?