第3話:F死の間際
Fチリタバコ氏は原爆病院の隔離室でHTLV-1と戦っていた。
「HTLV-1 とは「ヒトT細胞白血病ウイルス-I型」の略称で、一度感染すると生涯ウイルスを持ち続けることになる。
私生活を明かさず生きてきた。ボードゲームや軍艦が好きでプラモ作ったり、軍艦雑誌を読むのが趣味だった。
大学では、2浪なのでクラスの中では浮いていた。悪ぶってフィルター無しのゴロワーズタバコを吸って、文字通り煙たがられた。
性格は真面目なのと、頼まれたら断れない性格で、1浪数人と建築の研究会というのに入った。兄貴的存在となり、何故か数人に慕われた。
就職は先輩の小さな設計事務所で、バブルの最中で皆が大手建設会社に内定したが、Fチリタバコ氏は人と群れるのが嫌だった。
仕事も覚えて国家資格に合格した頃、バブル崩壊でクビになった。
居酒屋でバイトしながら、後輩達と事務所を立ち上げたが、うまく行かず、職探しをしていたら、研究会の奴から会社始めたから手伝えと言われて、断る理由も無く手伝った。
奴は裏の仕事が多く、仕事はいくらでもあった。数年経った頃、首の後ろが腫れて10センチぐらいになった。
町医者に行っても原因不明。大病院に行ってもなかなか分からずにいたが、若い医師が赴任してきて、大学で研究していたウイルスではと言う事で、出身地で、先端の原爆病院に連絡して、緊急入院となった。
姉の世話でお金の心配は無いが、暇で死にそうだ。昔のボードゲームや戦艦雑誌を読む日々が続き、余命半年が2年目になった。
筋力も弱り、車椅子でないと移動困難となり、検査データも免疫が戻らず、そろそろやばいと告げられた。
電話で奴に、後は頼むと告げて、お迎えを待つだけになった。奴の差しがねで、仕事仲間から次々と電話があった。懐かしい話、恥ずかしい話、走馬灯の様に思い出された。
ある朝、吐血して集中治療室に入れられて意識が遠のく中で、先日の走馬灯がぐるぐる回った。ほんのり明るい光に包まれ、魂が体を離脱して空中へ舞い上がり、自分自身が天井から見える不思議な状態だ。
姉が泣いている。残った家族は姉と二人だけなので、迷惑はかけないだろう。
加速度的にその場から離れ、遠くに引き寄せられて行く。
月を超え銀河を離れ、光より早く瞬間的に移動している回りは早すぎて見えない。形のない魂の故郷とも言うべき空間に光の玉が無数に彷徨っている。
光の中心から言葉ではない意識で伝えられた事は、「頑張ったね。今回は友達を作ったね。次は世界の人々を助けるような徳を積んでね。」
次の?とは何だろう。しかし、懐かしい風景だった。忘れていたのかもしれない。
生まれる前の世界?
その瞬間、また、高速移動のような現象の後、地球へと向かっている。
生まれた瞬間だった。意識も記憶も無くなった。
いつ?どこ?誰?