アツシの退屈
アツシは退屈をしていた。この世界でヒマを潰せる物が何もないからだ。タクトも同様だった。すぐ音を上げるだろうと踏んでいたマサが、辞めるどころか連日ヒーローのように活躍しているらしい。それもアツシたちには、面白くなかった。アツシはマサに直談判に行くことにした。
「なあ、いつまでこんな退屈な世界にいるつもりなんだ?おれたちのいた世界の方が、いっぱい遊ぶことができて楽しかったじゃないか。もう一週間もいるのだから、義理は果たしただろう」
「いやアツシたちは退屈かもしれないが、おれは毎日刺戟的で楽しいよ。なんだったら、アツシとタクトで帰ったらどうだ?村長に言えば、聞いてくれるんじゃないの」
「お前と一緒に、帰りたいんだよ」
それは、ある意味事実だった。アツシはマサを、一段下に見ていた。自分の子分のように、使うことのできるマサは貴重な存在だった。異世界で立場が逆転するなど、あってはならないことであった。
「お前、あの村長のことをマジで信じているのか?おれたちに一生遊べるだけの金をくれるなんて。そんな金があれば、自分たちで強い奴を雇うなりするはずだろう。モンスターのボスとやらを倒しても、ご苦労さんと言われるだけで放り出されるだけじゃないのか」
アツシは切り口を変えた。
「実はおれも、そう思っていた。だが金だけで動くわけじゃない。もっと大切なものがあると気づかせてくれたんだ。村の人たちの笑顔とか、感謝の言葉とかね」
そう言って朗らかにマサは、笑った。その笑顔にアツシとタクトは少し気圧されたのを感じた。マサの笑顔を見たのは何回もあったのだが、もっと屈折した卑屈な感じの笑顔を見せる男だったからだ。
「分かった。今日のところは、宿屋に引き上げるよ。気が変わったら、いつでも来てくれ」
「お前たちこそ、気が変わって一緒に戦いたくなったらいつでも来てくれ。大歓迎さ」
マサは、そう言い立って二人を見送った。