3 思い出(2)
『ゲイル様!わたくし、ピアノを弾けるようになりましたの!今度演奏会を開くのでゲイル様もぜひ、我が家にいらして下さいませ!…あっ、ちゃんと招待状はおうちの方にお送り致しましたわ。ですので、絶対に来てくださいまし!』
『ゲイル様!わたくし、ダンスの練習を始めましたの!お父さまとお母さまがよく二人で踊ってらっしゃるのを見ると、とても簡単そうに見えますの。でも、実際踊ってみるととても大変で!…わたくし…ちょっぴりダンスが苦手になってしまいましたの……。』
『ゲイル様!わたくしこの間!領地できれいな石を見つけましたの!もうあんまりにもきれいだったからお父さまに自慢しにいったらお父さま、『こ、これは!』なんて言ってわたくしの石を持って行ってしまったの!それから何日も返してもらえなくて泣いていたら、お父様が『すごいぞー!エメー!』って抱きついてきて驚きましたの。そうしたらなんと、わたくしの見つけた石が新しい種類の石だったそうなの!びっくりしていたらお父さまが『エメが見つけた石だから、好きな名前を付けていいよ』と言ってくださったからわたくし、石に『ゲイル』と名付けようと思いましたの!……でも勝手にゲイル様のお名前をつけてしまったらよろしくないかしら、と思って、まだ正式には決めてもらってはいませんの。……ゲイル様、お名前をお借りしてもよろしいでしょうか……?』
『ゲイル様!』
『ゲイル様!』
『ゲイル様!』
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…ゲイル様はいつもニコニコとしていて、わたくしが何を喋っても『うん、うん。』と聞いてくれたから、考えもしなかったけれど。
きっと迷惑だったのだろう。
ほとんど毎日のように公爵邸へ向い、話をし、まだ居たいと駄々をこねる。
彼にも自分の時間は必要だったはずなのに、嫌な顔ひとつせず迎えてくれた。
それなのにわたくしは、父の命令と己の醜い嫉妬心から、彼と懇意だった男爵令嬢をいじめ倒した。
(………嫌われて、婚約破棄されてしまうのも、当然のことよね。人として、やってはいけないことをしてしまったのだもの。)
もうとっくの昔に枯れたはずの涙が、こぼれてきそうだった。