1 婚約破棄
「エスメラルダ・アルヴァス侯爵令嬢。私はあなたとの婚約を破棄する。」
夜会がもうすぐ終わる、というところでわたくしの婚約者であるエルヴィン公爵家の令息・ゲイル様は突然、婚約破棄を宣言した。
「………突然、どうしたのです?」
わたくしは驚いていた。
「先程言った通りだ。私達の婚約はあなたの有責で破棄される。」
「……理由を、お聞かせ下さる?」
わたくしは動揺を見せないように、扇で隠した。
「あなたはクレイ男爵家の令嬢であるアンバーに前々から危害を加えていた。彼女の文房具を壊したり、制服を破いたり…これらはまだ優しい方で、もっと詳しく調べてみると彼女を一人使われていない教室に閉じ込めたり、ならず者たちに襲わせようとしたり…挙句の果てには階段から彼女を突き落として怪我をさせたり……先程も言ったがきちんと調べてもらい、被害者や貴女の友人、クラスメイト、教師にまで話を聞いた。国王陛下から王家の影まで貸していただいた。言い逃れはできない。よって、あなたは私の婚約者に相応しくないと結論を出した。これは、既に両家の間で決められ、婚約破棄のための書類も提出済みだ。」
そう言ったあなたの隣には、ここ最近は常に一緒にいた一人の男爵令嬢がいた。
あなたは、彼女を私から守るようにして腰を抱いていた。
(そうね。私は……父の命令にすら背くことができない、弱い人間だもの。正義感の強いあなたは、わたくしのやった事が許せなかったのね。でも、こんなに大勢の方がいる前で婚約破棄をするなんて……。)
わたくしは彼の言うことに反論することが出来なかった。
だって全て事実だったから。
(これでいい。これでいいのよ、エスメラルダ。)
「分かりました。全て事実と認めた上で、婚約破棄を承諾致します。……クレイ男爵令嬢。迷惑をおかけして申し訳ありません。」
わたくしは、そのまま会場を後にした。