3.モンスターさん、ご飯を育てる
………………あれ?
なんだろう、外がうるさい気がする。
わたしの寝床の近くには、毛むくじゃらとか羽根つきは近よらない。
遠くからでもうるさい羽根つきはこの前たくさん食べた。
だから、羽根つきが原因じゃないはず。
なんだろう。
まだそんなにお腹すいてないから、このままねむってたいんだけどな。
う~ん……。
うるさくて起きちゃった。
もう、めんどくさいなぁ。いったいなんなの?
寝床の外に出ると、毛なしがいた。それも4つ。
どうしようかな。お腹はすいてないけど、この前は羽根つきに邪魔されて食べられなかったし、せっかくのごちそうだから食べちゃおうかな。
いただきまーす。
……
…………
………………
ふぅ、食べた。
もうお腹いっぱい。
でも毛なしが1つ、のこっちゃったな。
毛なしはおいしいけど、今はもういらない。
それにこの毛なし、他の毛なしよりも小さいし細いから、食べてもあんまりおいしくなさそうなんだよね。
どうしようかなぁ。
………………そうだ!
前に甘いのをもらいに行ったとき、毛なしがやってたことを真似しよう!
いろんなごはんを食べずに囲いのなかにいれてたんだよね。
大きいのも、小さいのも囲いのなかにいれてたから、きっと小さいのはごはんをあげて、大きくしてから食べてるんだと思う。
わたしはかしこいから、毛なしがやってることが分かるんだ。
よし、小さい毛なし。きみはわたしが大きくしてあげる。
だから、おいしくなるんだよ?
そうと決まれば、ご飯をあげよう。
……ご飯にご飯をあげるの?
まあいいや。
どうせ今はお腹いっぱいで食べられないし、この食べ残した毛なしの残りをあげよう。
このままほっといても食べれなくなるだけだしね。
ほら、おいしいよ。
食べて。
……食べてよ。
どうしたの? 食べないと大きくならないよ?
ほら、食べてってば!
うわっ、吐きだした。もったいないなぁ。
毛なしの肉はすきじゃなかったのかな?
それじゃあしかたない。木に生えてる丸くて甘いのを取ってきてあげよう。
──はい、どうぞ。
これなら食べれる?
食べてるね。おいしい?
いっぱい食べて、はやく大きくなるんだよ。
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ヒト族と魔族の戦争は、ヒト族の勝利に終わった。
【魔王】率いる大軍勢に成す術なく侵略され続けるヒト族。
神に祈りを捧げ続けた人々の願いが届いたのか、異世界から4人の勇者が召喚された。
4人の勇者たちは大陸各地で連戦連勝。あっという間に【魔王】を追い詰め、討ち果たした。
これまでの苦戦が嘘だったように、わずか1年で終結した戦争。
ヒト族は歓喜に打ち震えた。
ヒト族が恐れる3つの【厄災】のうち、2つは潰えた。
【龍王】は同じ【厄災】に敗れ去り、【魔王】は勇者によって討伐された。
残すは1つ。【禁忌】のみ。
【厄災】さえいなくなれば、ヒト族が大陸の覇者となる。
大山脈の下に広がる大樹海。
【禁忌】の住まう魔境に、勇者たちは足を踏み入れた。
神に守護され、無類の強さを誇る彼ら彼女らであれば、【禁忌】でさえも葬ってくれる。
人々は、歓喜の瞬間を今か今かと待ち望んでいた。
「必ず役目を果たし、世界に平和を取り戻します!」
歓声に背中を押され、4人の勇者たちは意気揚々と樹海に消えていった。
以降、5年の歳月を過ぎてなお。
勇者たちの音沙汰はない。
人々は悟った。
勇者をもってして尚、【禁忌】には抗えなかったのだと。
【禁忌】には決して、近寄るな。
樹海には決して、立ち入るな。
人々は改めて、その教訓を心に刻むことになったのだった。
登場人物紹介
・魔王さん ……野望を持って世界征服しようとしたけど失敗した偉い人。
勇者には勝てなかったよ……。
・勇者さんたち ……異世界からやってきた、すごく強い人たち。
魔王を倒して調子に乗ってたら、
モンスターさんのご飯になりました。