新生解決屋、初めての仕事!……其の3
解決屋、意外に大変……
浜本組の本家に通された守人と剛、守人は平然としているが、剛の表情はかなり険しい。そのまま奥の部屋に通された。
「ここで待っていろ」
組員が部屋から出て行った。
「守人、大丈夫なのか?」
「しょうがないだろ?ロレックス貰っちゃったんだから」
「……返そうぜ」
「おい、俺の食いぶちだぞ?」
「しかしだな……これじゃ、命が幾つ有っても……」
話をしていると、襖が開いた。厳つい男が守人達の向かいに座る。
「待たせた、浜本組の浜本大次郎だ」
「時守人と申します」
「……中澤剛です……」
浜本大次郎、物凄い眼光である。一目でそれと分かる雰囲気を持っている。
「細かい話は苦手でね……率直に、儂の組についての大事な事とは何かな?」
「それなんですが……知ってますか?浜本組は、弱きを挫き強きを助ける……有名ですよ?」
「お若いの……言葉には気を付けた方がいい……五体満足で帰りたいならな」
「そうだよ守人、ど~もすいません」
「剛~、大切な話をしてんだよ~……邪魔するなよな~!……言葉は選んでますよ。分かりやすく世間の言葉を伝えたつもりですが?」
「ほう……儂を前にしてその態度か……命は惜しくないんだな?」
「守人……」
「大丈夫だ。そんなだから、この先に矢倉に裏切られて、浜本組は地に落ちるんだ」
「矢倉?……若頭だぞ?」
「そうだ、そいつに裏切られる」
「……馬鹿な事を……」
「馬鹿で結構、信じるか信じないかだ」
「信じるとでも?」
「そう言うと思ったよ……明日、桜花賞が有るな?」
「儂は馬が好きでな。それくらいは分かっている」
「明日の第9レース、単勝連式8-2、1343倍の万馬券……どうだ?これが来たら……」
「馬鹿な、最低人気だぞ?」
「勿論、賭けるのは俺達の命」
「おい、守人!」
「面白い若僧だな……よし、100万を賭ける。負けたら、命を貰おうか」
「100万かよ、染みったれてんな?」
「儂はこの慎重さで成り上がった。これでも、お前等には高いくらいだ」
「まぁいいか。よし、後は明日だな?」
「そうだな。今日はここに泊まると良い。明日のレースの結果が出るまでは、大事な客人だ」
「お、悪いね!お言葉に甘えるよ!」
「おい、守人……」
「大丈夫だよ。それより、さっきから守人としか言ってないぞ?」
「……言葉が出ねぇよ……」
本日は、守人と剛は浜本組にお泊まりの様である。
夕飯は豪勢であり、布団もかなり高価な物である。
「いや~、こんな体験、もう出来ないかもな?」
「……命が失くなるかもしれないしな……」
「暗いな~……剛、何が心配だ?」
「何もかもだよ!馬鹿守人!」
「酷い言われ様だな~……しかし、ゆっくり眠れそうだな?」
「眠れるか!阿呆か?」
「いい布団だぞ?」
「そういう問題じゃねぇ!……短い一生だった……」
「……剛、似合わねぇぞ?」
「うるせぇ!」
守人と剛は対照的である。美味しく夕飯を食べ、気持ちよく眠る守人に対し、ご飯は喉を通らないし目を瞑っても眠れない剛であった。
翌日、朝飯を美味しく食べた守人と喉を通らかった剛、大次郎の元に通された。
「下がっていろ」
「はい」
案内した男は、大次郎に言われて下がって行った。
「お主達に聞きたい。何が目的だ?」
「人生を狂わされた男が居る。その人生を直してやりたい」
「出来るとでも?」
「出来るさ。俺は未来の人間だからな」
「守人、いいのか?」
「大丈夫だ。嘘を言ってもバレるだろうし、俺の知ってる浜本大次郎は馬鹿じゃない。仁義を大切にし、裏切る事を最も嫌う。確か、そういう人物だ」
「……その目、嘘は言っていない様だが……一概には信じられん……」
「午後になれば、分かる事さ」
「……矢倉はどうして裏切るのだ?」
「矢倉か……奴は、金に目が眩んだんだ……紀州組と手を組む為に、あんたが邪魔なんだよ」
「……矢倉は、苦楽を共に……」
「決めるのはあんただ。兄弟分を消して、あんたが苦しむのか……あんたが消されて、関係無い人達を苦しめるか……」
「まだある。お前達が嘘を言っている事」
「頑固だね~……ま、後少しで分かるさ。剛、向こうでゆっくりとテレビでも見ようぜ」
「あ、ああ……」
守人は剛を連れて出て行き、そのままテレビを見始めた。剛の表情は、不安その物である。
決着の時間となった。桜花賞は遂に始まり、第1レースがスタートした。
「遂にだな?」
「そうだね」
「…………………………」
「剛、顔色悪いぞ?」
「当たり前だ!」
少しの言葉のやり取りをし、後は終始無言であった。
遂に第9レースである。オッズは単勝連式8-2、1343倍である。
「オッズは当たっているな?」
「これからこれから」
「…………………………」
レースはスタートした。本命馬がいいスタートを切り、レースは中盤から後半までをガチガチの本命で占めていた。
「どうやら、嘘だった様だな?」
「レースは、ゴールするまで分からんさ」
「…………………………」
最終コーナーを曲がり、後はゴールと思っていたのだが、ここでハプニングが起こった。先頭を走っていた馬が足を滑らせ、周りの馬と接触して次々と騎手が落馬してしまった。
結果は……馬番8-2、1343倍の万馬券である。
「……万馬券……」
「いい凌ぎになったんじゃないの?」
「確かにそうだが……」
「剛、大丈夫だっただろ?」
「…………………………」
「あっはっは、こいつ気絶してるよ!」
「……普通はそうだ」
「しかし……これで納得だな?……おい剛、そろそろ起きろよ!」
「…おう!……俺は生きてるのか!」
「生きてるよ~……さて、矢倉を処分してくれるな?」
「……しかし……」
「そうか……あんたは約束を守る男だと思ったんだがな……」
不意に守人は、懐から拳銃を出した。44マグナム、日本ではなかなか手に入らない物であり、そもそもこの時代には日本には無いかもしれない。
「約束が守れないなら、これで俺がお前等を弾くだけだ」
「……生きて帰れぬぞ」
「そうかもな?…しかし、仁義を通さない組に未来は無い。どの道、お前に未来は無いだろ?……後は……この場を引いて、過去のお前を殺るかだな」
「儂がこのまま引くとでも?」
「俺達のタイムワープを信じないんだろ?何故に俺達を殺す必要が有る?」
「ぐぬっ……」
「……割って入って悪いんだけどさ~、大次郎さんは結局どうしたいの?」
「儂は……組の繁栄を……」
「だったら、大事の前の小事じゃないの?……そんなに都合良く、世の中は出来てないよ……ドゥーン!」
「……剛、ここでギャグかよ~……」
「ギャグでもやらねぇと、口から心臓が飛び出るわ!」
「お、それ見たいな!」
「馬鹿!」
「……そうだな、堅気に迷惑は掛けられん……矢倉は処分する」
「おう、頼んだぞ」
「……これを受け取ってくれ」
大次郎は懐からドスを出した。
「儂がこの世界に入った時、唯一身に付けていた物だ。儂が約束を守らなかったら、このドスで……」
「おう、一突きしてやるよ!」
「守人、物騒だぞ」
どうやら、守人がやりたい事は出来た様である。
この後、守人と剛は浜本組を出て、そのまま地下室まで歩いた。
「所で、守人は何でそんな物を?」
「これか?」
守人は剛に向かって引き金を引く。
「おわ!……オモチャ?」
「おう、1000円だ!良く出来てるよな?」
「よな?じゃないわ!……俺、死ぬとこだった……」
「そう言うなよ、ドゥーン!」
「ここでそれやるな!」
危機はとりあえず切り抜けた様である。
新生解決屋の初仕事、どんな解決となるのだろうか。
何となく、やっと解決へ……かな?