悲運のGK……其の5
解決になりそうです。
守人はとある時代に立ち寄った。それは、高松の1番苦しい時代である。全てが終わって、高松の生き方その物が変わる時である。守人は当たり前の様に、高松が座っている公園に辿り着いた。
「お久しぶり」
「……あんた等か……」
「大分、落ち込んでるな?」
「そうでもないさ……自分が許せんだけ……」
「どうして、そんなに落ち込んでるですか?」
「落ち込んでないって……オリンピックの出場を逃し、一緒に戦った後輩は死んだ……親父も、この前な……」
「……これから、どうするんだ?」
「分からん……どうするにしても、誰かを不幸にしそうでな……何をしたらいいのか、検討もつかん……」
「ハンドボールをやったらどうですか?」
「……遠慮しとく……ハンドボールをやったら、誰かがまた不幸になりそうだ……俺のせいで、誰かを不幸にしたくない……」
「でも、ハンドボール以外は……」
「その通りさ……俺は、ハンドボールしかやって来なかった……どうするかな……」
「総合格闘技はどうですか?」
「……興味が無い」
「いっその事、ギャンブラーにでもなったら?」
「……すぐに食い潰しそうだ……」
「……介護はどうですか?誰かが幸せになる為の仕事」
「介護ねぇ……俺に務まると?」
「務まります!」
「言い切るね〜……どうして?」
「合ってる気がします。きっと、上手く行きます!」
「……ありがとう、参考にさせて貰うよ」
高松は立ち上がり、ゆっくりと歩き出す。
「これからどうするんだ?」
「分からん……少し、ゆっくり考えるさ……やる事ねぇしな……」
高松は左手を軽く上げ、立ち去った。
「いつも左手を軽く上げるんだ……そして、何処か寂しそうで……」
「守人、俺……高松を見直したよ……何もかも自分で背負って……この先の人生を生きて行く……もしかしたら、死ぬ事で解放されるのかもな……」
「一理有る。高松、誰よりも責任感の有る男さ」
高松が人生最大の分岐点に当たった時を見て、3人は現代に戻って来た。何となくだが、アリスも納得ではないだろうか。
事務所に戻った3人、既に日は暮れており夜である。
「ありがとうございました……私、頑張ります」
「そうだな、それが1番だ」
「頑張って下さい。高松さんの分までね」
「はい!」
「よし、俺からの特別サービスだ。着いて来い」
守人は事務所から出た。訳が分からないといった表情の剛とアリスだが、守人の後に続いた。
辿り着いたのは、近くの公園である。誰も居ない公園は、静まり返っている。
「おい、頼むぞ」
[使いが荒いですよ]
守人の言葉に、何処からともなく声が返って来た。次の瞬間、目の前が輝き、誰かが立っているのが分かる。輝きはだんだんと治り、そこには高松が立っていた。
「康介さん!?」
「やあやあ、お久しぶり」
「康介さ〜ん!!」
アリスは高松の胸に飛び込んだ。そのまま、アリスは泣き出してしまった。
「泣く事ないでしょ?」
「だって〜……」
「守人に剛、お世話を掛けました」
「いやいや」
「本当にお世話だよ!報酬忘れるなよ!」
「うわ〜、がめつい……」
「剛、うるさい!」
「報酬なら、これをどうぞ」
高松は守人にネックレスの様な物を投げた。
「これは……」
「死神から貰いましてね。私は要りませんからね」
「商談成立!」
「……高松も恐るべし……」
「康介さん……」
「本当に馬鹿ですね〜、びっくりです」
「何よ!一緒に居たいと思って、何が悪いのよ!」
「時期に、一緒に居られますよ」
「……探せないかもしれないじゃない……」
「あんた、本当に馬鹿だな?どうして高松がこの姿だと思う?」
「守人、俺でも分かるぞ!アリスの為だろ?」
「大正解!」
「え?どういう事?……康介さん?」
「……2人は口が軽いと言われませんか?……しょうがないな〜……天国では、姿は自分で選べます。だから、若い人が多いですよ」
「ならどうして……」
「あなたが分からないでしょう?あなたには、この姿が1番見慣れてますからね」
「康介さん……」
「意外に天国は楽しいんですよ。のんびりと待ってますから、急いで来なくて大丈夫ですからね」
「何よ、その言い方?」
「急がなくて大丈夫だから、ゆっくりと幸せになった報告を聞かせて下さい。あなたの幸せは、私の幸せですからね」
「……………………」
「私の1番大切な人が、不幸になったら頂けない。私に幸せ自慢をして下さい」
「……康介さん、子供の頃に助けてくれて、ありがとう」
「はっはっは、あのおチビさんが、随分と大きくなりましたね。あの時、飛び込んで正解でした」
「どうして、話してくれなかったの?」
「過去に興味は有りません。あなたが元気で居る、それだけで充分」
「でも……」
「誰にも遠慮して欲しくなかったんです。あなたは、太陽の様に明るい女性。その笑顔を失くして欲しくなかったんです」
「康介さん……」
「まぁ、悪乗りは過ぎますけどね!」
「ちょっと、落とさないでよ!」
「すいません、正直者で……」
「どういう意味?」
「……高松も尻に敷かれてるな?」
「そうだな。女は強し……」
「俺は剛!」
「ギャグをやるな!」
「さて、それでは帰るとしましょう」
「え?もう少し……」
「また会えます。あなたが幸せになって、一生を終えた時にね。私は、このままでずっと待ってますからね」
「……椿さんとは会った?」
「会ってませんよ。過去に興味は無いんです。だから、あなたは今でも、私の現在です」
高松はアリスの頭を軽く撫でると、そのままアリスから離れて行った。
「では、幸せな話を楽しみに待ってますよ」
高松はアリスから背を向けると、軽く左手を上げて消えて行った。
「康介さん……」
「今回は、楽しそうな表情だったな?」
「これから、しっかりと生きて下さい」
「はい!康介さんに、いっぱい話が出来る様に、凄く幸せになって、康介さんに会いに行きます!ありがとうございました!」
アリスは守人と剛に頭を下げると、走って公園から去って行った。
公園から出ようとした守人と剛、
[待って下さい]
「何だよ死神、綺麗に終わったのに……」
[それがその〜……]
「何か有ったんですか?」
「問題発生か?」
「高松さんの姿は、ああいう意味だったのね」
「「池本さん!?」」
[付いて来ちゃって……]
「おわ!どうして池本さんが?」
「高松さ〜ん、そういう事〜?」
「……死神さん、池本さんにバラしたんですか?」
高松のこめかみがピクピクとしている。
[不可抗力です!こやつが勝手に付いて来たんです!]
「いや、死神が悪いな!」
「うんうん、納得!」
[守人に剛君?]
「まあまあ、謎が解けて一件落着!そうか〜、高松さんがあの娘をね〜……」
「し・に・が・み……覚悟しろよ……」
[私は悪くな〜い、さらば!]
死神は消えた。
「あの野郎……」
「まあまあ、帰りましょうよ純愛さん!」
「絶対馬鹿にしてるでしょ?」
「してないしてない、大丈夫ですよ!あなたが幸せになって、報告に来るまではね!あーはっはっは!」
「……絶対こうなると思ったんだよ……」
「……池本さんは、流石だな?」
「死神が、1番の被害者だろう」
賑やかな解決となった。高松の元にアリスが向かう時、きっと満面の笑みだろう。
面倒な男が絡んでますね~……




