崇めていた物は邪悪!?……其の1
新しい依頼……どんな依頼?
本日、守人は剛に連れられて、とあるバーに来ている。最も、守人から連れて行けと言ったのではある。
「珍しいよな。守人が酒なんてさ?」
「そうか?……まぁ、俺は飲めないけどな」
「飲めないの?」
「おう、だからウーロン茶」
「……何の為に来たんだよ……」
「理由は、時期に分かる」
守人と剛が話していると、サングラスを掛けた初老の男がバーに入って来た。その男は剛の隣に座り、コークハイを頼んだ。
「……眩しいですか?」
「いえ、そうでは無いんですけどね……」
剛は隣の男に話し掛けた。そっけない返事が返って来る。
「外せないのさ。左目、無いんだろ?」
「どうしてそれを!?……あの魔物と関係でも?」
「無い無い、向こうから頼まれても、こっちから願い下げだ」
「守人?どういう意味だ?」
「折角だから見せて貰ったら?納得も早いだろう」
「……余りいい物ではないですよ?」
「……見れば分かるのか?」
「少しはな」
「なら……お願いします!」
剛はその男に頭を下げた。男は黙ってサングラスを外す。男の左目が無い。無理矢理引き千切られた様になっている。
「……痛みは?」
「不思議と無いんですよ……」
男はサングラスを再び付けた。
「事のあらましを話して貰えませんか?力になれると思いますよ、成澤武彦さん?」
「ど、どうして名前を?」
「これは、守人のマジックです!」
「違うだろ?……まぁ、悪い様にはしないさ」
「……それならば……………………
時は室町時代の中頃、そこにはそれ程大きくはない村が有った。その集落には、寺が既に存在していた。その寺には、何かが崇められており、武彦の先祖は代々その何かを守っていた。
武彦がその何かを分かったのは、その寺を継いだ時である。跡継ぎ以外に知る事は許されず、以降はその何かを守る事に人生を費やす。そうやって、武彦の一族は代々住職をして来たのだ。
その何かとは、神様等という決して生易しい物ではなかった。
室町時代の中頃まで、その地方には大蛇が暴れていた。村人を苦しめ、時に村人を食べる事さえして来た。そんな大蛇と、村は共存を選んだ。年に1人、村人を差し出す代わりに村には安息が約束された。この安息を守るのが武彦の一族であり、崇められて来たのは邪悪な大蛇である。
………………事の始まりはこんな感じです」
「おふっ……物凄ぇ話だな……しかし、そのままなら問題無いんじゃないの?」
「そうなんですが……この魔物を良しとしない者が現れました。私の息子です……寺を継いだ時、この話もしたんですが……その後何年も姿を眩ましましてね……去年、フラッと帰って来たんです。私でも分かるくらいに、それはそれは物凄い霊能力を身に付けてましてね……それでも、室町時代の陰陽師には届きません。その室町時代の陰陽師すら、魔物を討伐出来なかったんです。息子が魔物と相対する時、変な期待をしなければ良かった……」
「では、息子さんは……」
「かろうじて生きてます。最も、殆ど身動きすら出来ませんけどね……私は魔物に懇願したんです。1週間でいいから、息子とのお別れの時間をくれと……代償は、私の左目でした。私は、その時間でここまで逃げて来ました。でも……無い左目が時々痛むんです……魔物は、私達の場所を特定しています。私達はもう……」
「な~るほど、運が尽きてないって証拠だな!……どれ、報酬次第で解決してやるよ?」
「報酬次第?」
「守人、がめつ過ぎだろ~……」
「いやいや、報酬は大切だよ。俺達の食いぶちだからな」
「……黄金の観音像でどうですか?私には、全く意味は無かったですが……」
「おうおう、いい感じじゃねぇの!」
「……罰当たるぞ?」
「当てられる物なら当ててみろってんだ!……よし、何とかしてやる!」
「本当ですか?」
「おう、任せておけ!」
「…………でも、あの魔物に……」
「このままじゃ助からないんだ。まぁ、藁にも縋る思いで……」
「ちょっと待て!そんな魔物にどうにかなる男じゃないぞ!」
「あのな~……初対面だろ?」
「だとしてもだ!ちゃんと説明しろ!」
「別にいいだろ?報酬も決まったんだから~!」
「それとこれとは、話が違う!」
「……理不尽大王め……」
「あの~……大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫大丈夫!大船に乗ったつもりでいなさい」
「……泥舟の間違いだろ?」
「何だと?」
「何だよ?」
「……無理しないで下さい。本当に、命を落としますよ?」
「無問題!」
「……不安かもしれませんが、確かに大丈夫なんです。有り得ないと思いますが、守人しか解決出来ないと思ってます」
「おう?よ~やく俺の事を理解したね、剛君。偉い偉い」
「……これが無ければ、人間的にもいい奴だと思うんすけどね……全くこの馬鹿!いつも偉そうに~……」
「いや、偉いんだよ?」
「んな訳有るか!」
「……本当に大丈夫ですか?」
「任せなさ~い!」
「まぁまぁ、結果を見て下さい」
「さて、早速取り掛かるぞ」
「おう、分かってる」
「あの~……よろしくお願い致します」
「はいはい、報酬よろしくね」
「がめついよな~……」
守人と剛は支払いをし、バーから出て行った。
「剛、これで」
「おう、九尾の狐だな?」
「まぁな!……後だな~……ビーフジャーキーを……1kg程……」
「ビーフジャーキーを1kgだぁ?……何だよそれ?」
「いやいや、かな~り必要なんだよ」
「……狐だけじゃないのか?」
「うむ。もう一方、協力を願おうと思ってな」
「……怖くないか?」
「おう、俺は怖くないぞ」
「……信用ならんな……」
どうやら、崇められてた魔物との対決となりそうである。それにしても、ビーフジャーキーで呼び寄せる助っ人、力になるのだろうか。
現実離れが凄い……