解決してはいけない依頼……其の2
問題児をどうするの?
地下室からいつもの様にタイムワープした2人、そのまま外に出た。
「……何時だ?」
「大分前だな。少なくとも、隼人が生まれる前さ」
「ここに、協力者が居るのか?」
「おう、取って置きがな!」
守人は少し嬉しそうに歩いて行く。剛は首を傾げながら、守人の後に付いて行く。
着いた先は、両国国技館である。
「相撲でも見るのか?」
「見るのはこれさ」
守人が指差した先には、ボクシングのポスターが貼ってあった。
「??……池本純也vsフェリックス·ホプキンス?……これがどうかしたのか?」
「日本初の4団体を統一した試合だ。まずはこれを見ないとだな!兎に角凄いんだ!」
「……凄いんだろうが、今回の依頼に関係有るのか?」
「追々分かるさ……それより、黒鉄淳の時、俺が言った言葉覚えてるか?」
「ああ、もっと凄ぇ奴を知ってるって話だろ?」
「それがこの男さ。池本純也、凄いとしか言葉が無い」
「珍しいな、お前がべた褒めなんて」
「見れば分かるさ。さて、試合観戦だ!」
「……チケットは?」
「これ!」
守人はポケットからチケットを2枚出した。
「用意がいいな?」
「まぁな!」
2人は両国国技館に入って行く。
試合は物凄い事となった。フェリックス·ホプキンスは当時のPFP1位であり、最強の名を欲しいままにしていた。離れても近付いても良いボクサー、それがホプキンスである。
池本もかなりレベルの高いボクサーではあるのだが、それでもホプキンスの方が1枚上手である。試合はホプキンス優勢となっていた。
それでも後半、己を削られながらもボディにパンチを集めた純也にチャンスが訪れる。最後は渾身の右ブローが決まり、見事に純也が4団体を統一した。
試合が終わって外に出た2人、
「守人、凄かったな!」
興奮冷めやらぬ剛である。
「凄ぇだろ?真っ向うから打破するんだぜ?」
「ああ、物凄ぇとしか言えねぇよ!」
「……この試合で、池本純也は引退だ……パンチドランカーだ」
「マジか?……しかし、あれだけ打たれればな……」
「いや……その兆候は有った。本人もそれは分かってた……」
「まさか?間違えれば死ぬぞ?」
「そうだ、それをやって退けたんだ……尊敬するしかないだろ?」
「……言葉が無いな……それより、隼人とどう関係が有るんだ?」
「甲斐拳人は、池本純也の弟の様な存在さ。だから、関係大有りなんだよ」
「マジか?……そりゃあ……加勢を頼もう!」
「だろ?よし、決定!……さて、次に往くぞ!」
「え?話しないの?」
「今は壊れてんの!だから、次に行くんだよ!」
「おお、そうか!よし、早速行こう!」
守人と剛、どうやら池本純也に協力を願うつもりらしい。
違う時代に着いた2人、どうも純也の引退から数年後といった感じである。
「あの試合から、どのくらい経ったんだ?」
「4年弱……あの時の池本純也の後輩が、2階級を制覇した頃さ」
「おふっ……後輩は2階級制覇……凄過ぎねぇか?」
「後輩は3人、それぞれが世界チャンピオンになってる。ジムのスタッフも優秀なのさ」
「……今でも有名なのか?」
「どうだろうな~……最近は、日本チャンピオンさえ出てないからな~……」
「そうなのか?……難しいな?」
「……まぁ、理由は分かるだろうさ……とりあえず、本人に会いに行こうぜ」
守人と剛、池本純也に会うつもりの様である。
2人はボクシングジムに入って行く。川上ボクシングジムと看板に書いてある。
「ここに居るのか?」
「おう、今なら1人さ」
「……本物が居るんだな?」
「ああ、確実にな」
2人の表情は、少し締まっている。緊張している様である。
ジムのドアを開け、声を掛けた。
「入会希望?」
いきなり純也と対面である。
「あ、池本純也!」
「おい、剛……」
「……さん……」
「あっはっは、なかなか面白いな!入会って訳でも無さそうだが、何か用か?」
「はい、池本さんに用が有りまして……」
「俺に?どんな用事だ?」
「その前に……池本さん、非科学的な事は信じますか?」
「非科学的な事?……あれか、瞬間移動とかいう奴か?」
「幽霊とかじゃないんですか?」
「剛、この人はこれだからいいんだ」
「??……幽霊は居ても居なくても、さして俺の生活には関係ねぇだろ?だったら、瞬間移動の方が色々役に立つだろ?」
「……流石にスケールがでかい……」
「うんうん、本人に会ってるっていう感じがしてきた」
「びっくりしようと納得しようと構わんのだが、俺は話が見えないんだが?」
「すいません……実は、折り入って頼みが有りまして……」
「頼み?……俺に出来る事なのか?」
「池本さんにしか、出来ない事だと思ってまして……」
「……複雑そうだな……話して見ろよ」
「実は……甲斐拳人の息子の事でして……」
「おい守人、いいのか?」
「この人は大丈夫だ。そもそも、嘘は通じない」
「……甲斐の息子だぁ?……あいつ、独身だぞ?……隠し子か?」
「いや……未来の話なんですが……」
守人は純也の目を真っ直ぐ見詰めた。
「…………お前等が西田級の馬鹿じゃなければ、どうやら本当の事みたいだな?」
「……信じてくれた……」
「な、言ったろ?」
「……で、馬鹿の息子がどうしたんだ?」
「物凄~く捻くれてまして……ボクシングを路上で使ったり……」
「ほ~う……それで、馬鹿親父はどうしてるんだ?」
「それが……どうも折り合いが悪くて……野放しに近いというか……」
「へ~……責任放棄か……」
純也の額に、誰が見ても分かるくらいの青筋が浮き出ている。
「それで……性根を叩き直して貰えないかと……」
「任せておけ!直らなければ、息の根を止めてやる!」
「……過激だぞ……守人、大丈夫なのか?」
「この人は大丈夫さ。まぁ、やりかねない事は確かなんだけどな……」
「おい、ヒソヒソ話するな!すぐに馬鹿の息子の所に案内しろ!事と場合によっちゃあ、馬鹿の息の根も止める!」
純也、物凄く怒っている。確かにやりそうである。それでも、あの親子の仲裁は、この男しか居ないのかもしれない。
どうやら、何か作戦が有るみたい……