解決してはいけない依頼……其の1
変わった依頼なのかな?
剛は本日、守人に頼まれて買い物中である。頼まれた物は買い終わったのだが、
「バームクーヘンは食べたいだろ~、チョコパイも欲しいな~……ポテチも忘れちゃダメだしな~……全部買っちゃうか、守人の金だし!」
どうやら、剛の食べたい物も買うつもりの様である。決まった所で近くのスーパーに寄ろうと歩いていると、目の前で数人の男が1人の男に絡んでいた。その男は170cmくらいの身長であり、守人と同じくらいだと剛は感じた。
「おら、俺達にぶつかって挨拶無しか?」
「慰謝料寄越せ!」
「こっち来いよ!」
絡んでいる男は5人、その男達に連れられる様に、その男は路地裏に歩いて行った。それを目の当たりにした剛、少しの間フリーズしていた。
(あの男、何とも言えない雰囲気だったな………………あ、ヤバいぞ!)
剛は急いで、路地裏に走り出した。
路地裏に着いた剛、想像していた通りの結果となっていた様である。絡まれた1人を中心に、4人の男が倒れている。もう1人は、胸倉を掴まれて無理矢理半分起こされている状態である。
「や、辞め……」
[ゴギッ]
胸倉を掴まれている男が喋ろうとするのだが、胸倉を掴んでいる男は容赦なく右拳を叩き込む。
「お、俺達……」
[バキッ]
「ゆ、許し……」
[ゴギッ]
胸倉を掴まれている男、顔面血だらけである。
「辞めとけ、捕まるぞ!」
「止めないでくれる?……大丈夫、こいつ等は通報しない……歯向かうなら、一生を終えるだけだからな……」
剛の方を向いてそう言い放った男、恐ろしく冷たい目をしている。
「お前の人生も終わりそうだ。これ以上は見過ごせない」
剛はその男を抱き付く様に静止させ、5人の男達をその場から逃がした。
「へ~、俺の楽しみを奪うんだ?」
「これからの人生を守ってやったんだろ?」
「恩着せがましい奴……で、俺の相手をしてくれんの?」
「……破滅の未来しか思い浮かばん……とりあえずは付いて来い。その苛々くらいなら、解決出来るかもだ」
剛はその男に背を向け歩き出した。不思議な事に、その男は黙って剛の後を付いて行った。
事務所に戻った剛、
「ここだ、まぁ入れ」
「解決屋?……何やってんだ?」
「困ってる人を助ける仕事さ……多分だけどな」
言葉を掛けてからドアを開ける。
「剛~、面倒事を持って来るなよ~!」
「見過ごす訳にもいかねぇだろ?」
「見過ごせ見過ごせ、そんな甘ったれ」
「はぁ?俺が甘ったれだと~?」
「甘ったれじゃなかったら、ファザコンだな!」
「……殺してやろうか?」
「辞めとけ辞めとけ、どうせ口だけだ」
「舐めやがって……俺はな……」
「知ってるぞ。甲斐隼人、ボクシングSバンダム級のOPBF(東洋太平洋)4位だ。甲斐拳人の息子だろ?」
「何だ、知ってたのか?レジェンド甲斐の息子」
「黙れ!!その名前は出すな!!」
「うるせぇな~、聞こえてるよ」
「気に入らねぇ……やっぱり、ここで殺してやるよ!」
「だから、無理だっての!……14戦14勝10KO戦績見れば、世界ランカーでもおかしくないんだが……素行の悪さでチャンスを潰して、自分でケツも拭けねぇ半端者だ。口だけならただだが、男としての風格が落ちるぞ?」
「……言いたい事はそれだけか?……この世とおさらばさせて……」
「待った!……苛々解決の為に来たんだろ?やるなら、解決の後にしてくれ!」
「あら~、剛が珍しく正論を……しょうがねぇ、話を聞こうか?」
「素直にそうですかって言うと思ってんの?」
「暴れたって解決しねぇぞ?まぁ、話せ。これは命令だ」
「偉そうだな?」
「偉そうじゃない、偉いんだ」
「そこまで!話をしてくれ」
剛が仲裁し、とりあえずは話を聞く事になった。
「……そんなに複雑じゃねぇ。親父が嫌いなんだ、八百長やりやがってよ……あんな奴、生きてる価値がねぇ!」
「……本当にそうなのか?確認したのか?」
「昴叔父さんは優しいから、敢えて本当の事は言わないんだよ!……ビデオで見たけど、昴叔父さんは親父のパンチを貰う時、確かに笑ってたんだ……親父の奴、昴叔父さんの弱味を握ってたんだよ!」
「捻くれてるね~……それでも負け無しなんだから、才能は有るんだろうな~……」
「だろ?才能はピカイチだと俺も思うんだ!」
「……話は聞いてるのか?」
「おう、聞いたぞ。詰まる所、嫉妬という所か?」
「どうしてそうなるんだ?」
「甲斐拳人、相手にしてくれねぇんだろ?」
「……別に、相手にされたくねぇけどな!」
「守人、どうにかならんか?」
「まぁ、引き受けよう……おい、報酬は?」
「金取るのか?」
「当たり前だ。ただ働きはしない!」
「がめついな~……いくらだ?」
「金は受け取らん」
「……何ならいいんだよ?」
「価値の有る代物だな」
隼人はポケットから金メダルを出した。拳人がオリンピックで獲得した、本物の代物である。
「おう……オリンピックの金メダル……どうして……」
「売ろうと思って、とりあえず持って来たんだ」
「許可は……」
「剛、こいつがそんなの取る訳ねぇだろ?」
「……盗品か?」
「大丈夫だよ、あの馬鹿は興味ねぇからよ!そもそも、プラモデルと一緒に押し入れの中だからな」
「……どうする、守人?」
「勿論契約成立だ!大船に乗ったつもりでいてくれたまえ!」
「おい、守人!」
「うんうん、これは価値が有る」
「なら、引き受けてくれるんだな?依頼は……馬鹿親父に後悔させてくれ。出来れば、息の根も止めて欲しいんだがな?」
「物騒だな~……後悔はさせてやるさ。後は、お前がどう受け取るかだ」
「納得いかなかったら、お前を殺すからな!」
「はいはい、お好きにどうぞ」
隼人は話が終わると、事務所から出て行った。
「守人、物凄く問題児だな?」
「ああ、全くだ」
「で、どうするんだ?」
「協力者を頼もう」
「宛は有るのか?」
「おう、とびっきりの人がね!」
守人の顔が少し輝いている。今まで見た事のない笑顔である。この面倒な依頼、どう解決となるのか。
危険な人物……




