現実離れした依頼……其の5
遂に鷲尾勲と対決!
現代に戻った2人、外に出ると辺りはもう真っ暗である。分厚い雲に覆われ、何か起こりそうな夜である。
「対決には、持って来いのシチュエーションだな?」
「本当にそうだな。しかし……相手が悪魔なのに、随分余裕だな?」
「な~に、対策は出来たし……強い味方も居るし……だろ?」
「お見通しですね、やっぱり……」
剛の斜め後ろの方で声がした。剛は驚いてそっちに顔を向ける。空間が歪み、死神が人間の顔を付けて現れた。
「……死神、何時から……」
「地下室を出てすぐさ」
「これだから……守人は敵に回したく無いですね……」
「死神、刀を取りに来たのか?」
「はい!そろそろ頃合いかと……」
「嬉しそうだな?」
「これが私の仕事ですからね!……私は、格好良く登場させて貰います。剛君、改めてまた……」
死神は姿を消した。
「……いいとこ取りする気だな?追加報酬決定だな」
「……守人、いつも思うんだが……」
「うん?俺はイケメンて事か?」
「神様相手でも、容赦ねぇんだな……」
「大丈夫か?容赦なんて、結局は自分に不利になって戻って来る物だぞ?」
「情けは人の為成らず……ことわざを覚えた方がいい」
「……1つ覚えるのに、500円くれるんならな」
「がめつい奴め」
「お前程じゃねぇ」
話をしながら、そのまま守人は歩いて行く。剛は行き先を聞かない。何処に行くのか、検討がついている。更に、守人なら大丈夫だと信頼している。いつの間にか、剛は守人に絶対の信頼を置いている様である。
着いた所は勲が死神に襲われた所、例の廃病院である。守人も剛も、黙って中に入って行く。
「……勲さん、今回もぼろ儲けでしたね?」
「これだから辞められない!」
「全く!世の中馬鹿ばっかりだからな!」
数人の男達が話をしている。その中心には、鷲尾勲が居る。そこに、コンビニでも来た様に、普通に守人は歩み寄って行く。勿論、剛もその隣に居る。
「誰だ、お前達?」
「何しに来た?」
「な~に、そこの鷲尾勲に用が有ってな」
「ほう、俺を知って、それでも用が有ると?」
「馬鹿だよな~、お前だから用が有るんだよ」
「勲さん、こいつ等、殺っちまいましょう」
「沈めちまえば、分からねぇっすよ」
「面倒だ……」
守人は左手の手袋を外す。左手の甲に、紫色の六芒星が浮かび上がる。
[ピタッ]
守人以外の時間が止まる。
「ここが残念なんだよな~、剛には見えてないからな~……」
守人は話ながら、勲に近付く。近付いてすぐ、死神から借りた見えない刀を勲の後ろに向かって振り下ろす。その所作が終わると、すぐに刀を自分の横に置いた守人。
「時は動き出す」
時間が動き出し、勲達は守人の姿を探した。剛を含めた全員が守人を確認した時、守人の左手の甲には赤い六芒星が浮かび上がっていた。
「さて……お前は消えろ、三流悪魔!」
言葉と共に、守人は左拳を勲とは反対の方に突き出した。
【ギャアァァァァァァ!!!】
断末魔が響き渡る。
「勲さん、あんたに用事が有るんだってさ」
守人が勲の方を向いて、そう話した。守人の後ろの空間が歪む。
「流石は守人、グッドタイミングです」
死神が、死神と分かる姿で登場した。すぐに右手を横に振った死神、守人と剛と勲を残して男達が倒れた。
「死神……今度は何の用だ?」
「私が用と言ったら、1つしかないでしょう?」
「……おいベイラン、今度も頼む」
「残念だな。三流悪魔は消滅したよ」
「逃げ場は無いって事だね」
「……思い出した……お前達、あの時の……」
「消しとけば良かったか?」
「守人、それは出来ない事でしょう?……最も、私でもあなた達を消すのは、難儀な事でしょうけどね」
「という事で、俺達の仕事はここまでだ」
「はい、助かりました」
「追加報酬、しっかり払えよ」
「事務所に、また寄らせて貰います」
死神は嬉しそうにそう言うと、勲の所に移動した。
「く、来るな、こっちに来るな!」
勲は拳銃を向け、死神に何発か発砲したのだが、弾は死神を貫通するだけでダメージは無い。死神は嬉しそうに笑い、その顔は本当に不気味である。
「あなたは、簡単にはお連れしませんよ。しっかりと、苦しみを味わって貰います。生身のままでね」
死神は、勲の口を後ろから掴み、そのまま引き摺る様に下がって行く。その先の空間が歪む。
「あの、どうするんですか?」
「な~に、生きたままで地獄にね。痛みや苦しみを持ったまま地獄……何百年振りだろう、楽しみ楽しみ」
死神の顔が更に不気味になっている。
「それでは、そのうち事務所で……」
勲は死神と一緒に消えて行った。消える瞬間、死神は今までで1番の笑顔を見せていた。その顔を見た剛は、死神だと改めて感じた。それだけの表情であった。
「……終わったな?」
「ああ、解決だ。死神、しっかりと刀を回収しやがった」
「守人、お前には、あの刀が見えてたんじゃないのか?……俺の推理が正しければ、死神の鎌も……」
「鋭いね~、素晴らしい成長だよ!」
「あのな~……しかし、死神の鎌が見えてるって事は……」
「俺達一族のリスクだな。歴史さえも変える事が出来る。それだけ強い力であり、何時でも死と隣り合わせって事だな」
「……大丈夫さ。俺がパートナーだからな!」
「馬鹿なのか?それが1番リスクが高ぇ!」
「は~?俺の助けがねぇと、な~んにも出来ねぇくせに?」
「何役立った?」
「買い物!」
「……長生きするよ、剛……」
不気味なこの依頼も、ようやく解決である。
ここから数日後、死神は追加の報酬を事務所に持って来た。勲はなかなか楽しい事になっているとの事だが、その話は聞かない事にした2人である。
……死神怖い……




