現実離れした依頼……其の2
不気味な依頼……
守人と剛は事務所から出て行く。いつもなら地下室を目指す筈なのだが、守人は違う道を進む。
「地下室じゃないのか?」
「その前に、やる事が有るんだよ」
そのまま歩く守人、銀行に直行した。
整理券を取り、順番が来ると守人は受付と話をしている。
「時様、奥にお願い致します」
守人は奥に通され、剛もそこに付き合う。
「こちらにどうぞ」
守人と剛が座ってすぐ、受付ではない男の人が入って来た。
「失礼します。私、支店長の……」
「話はいいよ、1000万円降ろしてくれる?」
「いやいやいや……その様な高額なお金、どうするんですか?」
「必要なんだよ~、特殊詐欺の被害じゃないんだからさ~……」
「しかし……一応はこちらもマニュアルが有りまして……」
「……なら、預金全部違う銀行に移すだけだな」
「守人、いくら有るんだ?」
「……30億……は下らないかな?」
「!?……金持ちだな……」
「いやいやいや、全額降ろさなくても……」
「なら、さっさと1000万円降ろさせろ!」
「はい、只今対応致します!」
支店長と名乗った男、名前も名乗る暇も無く、急いで守人の前に1000万円を用意した。
「……次、面倒な事したら、即刻解約な!」
「うっ……失礼の無い様に致します」
支店長は頭を深々と下げた。守人はお金をバッグに入れると、銀行を後にした。
銀行から出た2人、今度はまたまた地下室とは別の方に歩き出す。
「……次は、香取章郎さんの所か?」
「分かって来たね~!」
「確かに、過去に行って解決しても……」
「おう、自殺されたら困るからな!」
「しかし……金は……」
「後で死神から、追加で何か貰うさ」
「……神様相手に……お前、怖いな……」
「馬鹿だな~、それくらい上手く生きないと損するぞ?」
「……お前は絶対、損しねぇよ!」
話ながら歩いていると、見るからにおんぼろのアパートに着いた。
「ここか?」
「そうだな。さて、まずはここを解決だな」
守人は2階の奥から2つ目の部屋をノックした。
「……返事ないな……居ないのか?」
「いや、そうじゃないさ……香取さ~ん、取り立てじゃないですよ~!」
[ガチャッ]
ドアノブが回り、恐る恐るといった感じでドアが少し開く。
「……本当に、取り立てじゃないの?」
「違いますよ~!……とりあえず、中に入れて貰えません?」
「……構いませんけど……お茶も出せませんよ?」
「気にしないで下さい。な、剛?」
「はい、気にしないで下さい」
守人と剛、章郎の部屋に上がる事に成功した。
テーブルを挟んで章郎と向かい合う守人と剛、座布団も無く畳の上に直に座る。畳もかなり傷んでいる。
「あの~……用事は何ですか?」
「実は、あなたに世話になった人から、どうしてもお礼をしたいと申されまして」
「お礼?……誰からですか?」
「鎌田神大という男です」
「鎌田?……誰ですか、その方は?」
「あなたは記憶に無いかもしれませんが、大変感謝されています」
「……人違いではないでしょうか?私はそんなに立派な人じゃない」
「いや、間違いないですよ」
「……あなたは何なんですか?……探偵とか?」
「そんな物ですね……話はここまでとして、とりあえずこれを……」
守人はバッグから1000万円を取り出した。
「これ、お礼だそうです」
「!?……全く持って、記憶に有りませんよ?」
「これが有れば、取り立てに悩まされる事も無いでしょ?」
「そうかもしれませんが……こんな大金、おいそれとは受け取れません」
「……これが有れば助かるのに?」
「当たり前です!助かるからといって、卑しい真似は出来ません!」
「……剛、立派だと思わないか?」
「おう、凄いな……章郎さん、このお金は変な物でもないし、卑しい物でも有りません。あなたが助けた方が、そのお礼といって出した物です。あなたの人生に役立てて下さい」
「しかし……」
「大丈夫ですよ。この金が無くなっても、その方は全く困らないんですから~!……何なら、もっと貰います?」
「いやいやいや、これでも充分過ぎます!……ありがとうございます。使わせて貰います」
章郎は頭を下げ、お金を受け取った。
「これで……何とか生きられそうだ……」
疲れた顔の章郎に、少しだけ希望が戻った感じである。
章郎の部屋を後にした守人と剛、そのまま地下室に向かった。
「守人、質問いいか?」
「何だ?」
「今回の依頼、表情が厳しく思えるんだが……何か有るのか?」
「……死神は、普通は失敗なんてしないんだ。そう考えると……鷲尾勲、厄介だと思わないか?」
「……失敗しない者が失敗する……相手が死神を知っていたと?」
「やっぱり、そう思うよな?」
「……しかし、死神に気付く物かな?」
「そこなんだよ……鎌でも見えてないと、死神だとは分からないだろ?」
「……鎌が見えていて、それを回避したと?……流石に考え過ぎだろ?」
「鎌が見えていたかどうかは分からないが、死神は把握していた……それは間違いないだろうな……俺達も、慎重にいかないとな……」
「……慎重になって、なり過ぎるという事は無いかもな……章郎さんの未来も掛かってんだ、慎重にやろうぜ!」
「おう、石橋を叩いて……それでも、違う道を進むくらいに慎重にな……」
話をしながら、守人と剛は地下室に着いた。この依頼、なかなか大変かもしれない。鷲尾勲、どの様な人物なのだろうか。
厄介な事になりそうです……




