あの夏、1番暑い日!……其の5
結末はいかに!?
元の時代に戻った守人と剛、一旦事務所に行ってコーヒーを飲む事にした。
「……剛、今日は7月26日だな」
「そうだな。という事は……」
「ああ、この時計を金に変えるぞ」
「おう……それで、高梨耕三はどうなったんだ?」
「そのパソコンで調べてみたら?」
「そうか!」
剛はパソコンを使って高梨耕三を検索した。
高梨耕三と霧島航
高梨耕三と言えば、やはり霧島航との因縁とその友情だろう。
2人の因縁が始まったのは高校時代、共に高校屈指の投手として注目を浴びていた。その戦いは、甲子園で行われていたら間違いなく球史に残る激闘となっただろう。
しかし、甲子園での激突とはならなかった。何故なら、同じ県下の高校に所属していたからである。ご存知の通り、霧島航は夏2連覇と春夏連覇を達成しており、高梨耕三は遂には甲子園の土を踏む事はなかった。
「甲子園も含めて、1番辛くて楽しい試合は、高梨耕三との投げ合いでした」
霧島航が甲子園連覇を成し遂げた時の言葉である。
2人はこの年のドラフトで、互いにセリーグでプレーする事となった。霧島航は先発として、13勝を上げて防御率2.77という成績を残した。新人王かと思われたが、高梨耕三は抑えとして32セーブ防御率1.04で新人王を獲得、高校時代の借りを見事に返した。
それ以来、霧島航がメジャーに行くまで幾度となく2人は切磋琢磨して来た。
「霧島航、あいつに勝ったと思うまでは野球は辞められない」
高梨耕三は日本球界に残り、クローザーという難しいポジションをずっとこなしていく。今こそだが、当時はオリンピックにプロを派遣出来なかった。世界大会もなく、もしもあったら……先発·霧島航、抑え·高梨耕三という夢の継投が見られたかもしれない。
「1度くらいは、同じチームでも良かったかもな?」
「1度はやってみたかったな?」
引退してから、2人の意見が合った瞬間である。その願いが叶う形で今年、霧島航は日本代表の監督として帰って来る。その投手コーチを努めるのが、高梨耕三である。2人の第2幕、しっかり見届けたい。
高梨耕三生涯成績
通算17勝25敗28ホールド377セーブ、防御率2.05
「う~ん……凄いな……」
「全くだ。この2人が同じ世代とは……勿体ないな」
「それも有るが……同じ世代に居なかったら、この成績は無いんじゃないかな?……同じ世代だから、ここまで来れたんだよ。きっと……」
「そうかもな……さて、行くか?」
「おう、ルノアールだろ?」
「オフコース!」
2人はコーヒーを飲み干すと、喫茶店に向かった。
喫茶店ルノアールの7番テーブル、既に3人の男が座っている。
「依頼者ですね?」
「ああ、解決屋さん?」
「待ってましたよ!」
「早く!」
「まあまあ、剛、座ろうか?」
「そうだな」
守人と剛は座ると、アイスコーヒーを頼んだ。座っていた3人は、宗一·謙次·耕三である。
アイスコーヒーを飲んだ守人、
「では……こちらの確認を……」
テーブルの上に懐中時計を出した。
「これこれ!」
「これだよこれ!」
「よく見付けたな~!」
「では、お金を……」
「これ、どうぞ!」
宗一が紙袋を出した。中を確認する剛、確かに2000万円入っている。
「確かに入ってるね」
「成立だな。では、こちらを……」
「お話中にすいません」
唐突に橋田が話に入って来た。
「宗一様に謙次様、取引先からご連絡が……」
「ああ、そうだそうだ」
「兄さん、急ごうか?」
「耕三様、霧島様と……」
「そろそろかな?……橋田さん、ここでゆっくりしていきなよ。これ……」
「俺達3人から!」
「今までありがとう。そして、これからも……ね!」
「懐中時計!……これ……」
「こっちの解決屋さんがね」
「良かったら、橋田さんのお茶に付き合って上げてよ」
「我々はこれで……」
耕三達はルノアールを後にする。
「剛、金を片付けといてくれ。俺は橋田さんとお茶でもしてるからよ」
「おう」
「すいませんね」
剛は紙袋を持ってルノアールから出て行った。
「さて……これからどうするんだ?」
「どうするのがいいのか……一族から離れた私は、本来なら二度と一族とは関わらい事が習わし……関わった場合は……」
「死、もしくは……今の人生を捨てる……だったな……」
「……しかし、高梨様達を救うには……」
「しょうがない事では有る……かな?」
「その通り。全てはしょうがない事……」
「で、どうすんだ?」
「……何処か、誰も知らない時代に……私は、この懐中時計が有れば生きて行けます……」
「そうか……そうだな、うん……」
守人と橋田はアイスコーヒーを飲み干し、ルノアールから出て行った。
守人と橋田が2人で歩いている。公園の近く、余り人影の無い所である。
「……懐かしいですね~、守人がいつも泣いていて……」
「古い話だ」
「古い話ね~……我々には、時間の概念は……」
「俺にはだ。あんたには、その概念は無い。もう、俺達一族では無いからな」
「……確かにそうですね……」
「何処の時代に行くんだ?」
「そうですね~……耕三様達が、成し遂げた後……辺りですかね?」
「……そうか、元気でな」
「はい、あなたもね」
「杏子さんはどうなった?」
「幸せだったと言っておりました。耕三様も、納得はしています」
「そうか……依頼は果たせたんだな?」
「はい、確かに……それでは、私はこれで……」
「見送りはしない。俺とあんたは、全く関係ない」
「はい、確かに!……それでは」
橋田は守人に頭を下げ、そのまま守人から離れて行った。
翌日、橋田は行方不明となった。住んでいたアパートには姿がなく、誰も心当たりがなかった。宗一が探偵やその筋の人達に行方を探させたが、遂に見付からなかった。不思議な事に、分かった事は[橋田隆夫]という人物は、大正12年8月に亡くなっていた。
橋田の行方は、守人だけが知っているのかもしれない。
ちょっと複雑……