あの夏、1番暑い日!……其の4
謙次が助かる事が必要!……かな?
輸送当日、守人と剛は黒のジャケットに身を包み、肝臓の輸送の車で空港に向かった。車に乗り込み、しっかりと冷凍されている肝臓を謙次の入院している病院まで運ぶのが役目である。
守人の運転で出発したのだが、守人はいきなり最短コースから外れた。
「どうしたんだ?」
「この先で、これから事故が起こる」
「……それがこの間言ってた……」
「そう……かなりの大事故でな……遠回りしないと、無事に届けられない」
「……助けて大丈夫なのか?」
「黒鉄武の事か?……あれはな、どうやっても助からなかったんだ……例えば、あの試合をしなかったとする。それでもやはり、黒鉄武はそう遠くない未来で命を落とす……そういう奴も、世の中には居るのさ……高梨謙次は違う。助かって生きないといけない。ま、俺達がしっかりやれば大丈夫さ」
「そうか、難しいな……しかし、助かる命なら……しっかりとやろうぜ!」
守人と剛、気を引き締めて任務に望む。
空港で手術に使う腎臓の入ったケースを渡され、守人と剛は車に乗り込む。運転は守人、剛はケースを固定し、ケースのすぐそばに座る。
「守人、事故その物を無くせば良かったんじゃないか?」
「そうだけどな……その事故、かなり大規模なんだが死者が出てないんだ」
「死者が出てない!?……少しおかしいな」
「だろ?……何か有るとしたら、かな~り面倒だ……これが1番確実なのさ」
「成る程、納得だ。よし、運転頼んだぞ」
「おう……それで、お前は何すんの?」
「そうだな~……着いたら起こせ、俺は寝る」
「おい!」
この後、剛は本当に寝てしまった。これには守人もビックリの様である。
事故は確かに起こった。かなり大きく、片付くまでに時間も掛かった。守人が最初から道を変えた為、運送には問題無かった様である。
「これ、お願いします」
「必ず成功させて下さい」
「確かに受け取りました。最善は尽くします」
どうやら、運搬の方は無事に終了である。
「さて、次に行くか?」
「手術、大丈夫だよな?」
「成る様に成るさ」
歩く2人の前に、橋田が立っている。
「ありがとうございました」
「いや、仕事だからね」
「……橋田さん、守人にそんなに頭を下げなくても……」
「いえ、感謝は必要です」
「……守人も見習え」
「俺?……俺は誰からも見習われる人物だぞ?」
「……橋田さん、これでいいんですか?」
「そこは、本人次第です」
橋田は少し笑っていた。剛は軽く頭を下げ、守人は右手を軽く上げて橋田の横を過ぎて行った。
地下室から出て来る2人、次の時代にタイムワープをした様である。
「守人、今度は?」
「耕三さんの決勝だ。霧島航との試合さ」
「遂にだな……どんな試合になるかだな」
「気付いたか?全てが7月26日なんだ」
「何?……確かに……凄い偶然だな?」
「偶然じゃない、必然さ……時々、こういう事が有るんだ。耕三さんが死のうとしたのも、7月26日だったろ?」
「……確かに7月26日だ……呪縛って事か?」
「悪い事が有り、その後の悪い事を全てそれに結び付ける。結果、そういった物になってしまう事が有る。中野杏子も、きっと7月26日が命日さ」
「……思い込みか……怖いな」
「ああ……人間には、不思議な力が有る。それが、負の方向に働く。いつの間にか、抜け出られなくなる」
「……肩の荷を降ろして、生きて行くべきだな?」
「お前は大丈夫だろ?元々、肩に荷を持ってないんだから!」
「おい、俺だってな~!」
「何持ってるよ?」
「……何だろう……パチスロか?」
「ダメだな、こりゃ」
大切な話の様であったが、最後はいつも決まらない2人である。
県大会決勝の球場に着いた。[関帝×高浪東]と書いてある。本日、霧島航と高梨耕三は対戦する。
球場に入るとすぐ、橋田が居た。
「お待ちしておりました」
「おう、案内頼むよ」
「畏まりました」
「守人、どうするんだ?」
「な~に、高梨耕三と話をするんだよ」
橋田の案内で、試合前の耕三に会う事が出来た。
「耕三様、こちら守人様とおっしゃいまして……」
「……そろそろプレイボールだから、手短にお願いします」
「そうだな~……好きな人の為に頑張るのは素晴らしいんだが、その人のせいにするのは頂けない。分かるかい?自分の人生、自分で責任を取らないとね?」
「??……良く分かりませんが、この試合でも大切になりそうに感じます。ありがとうございます!」
耕三は頭を下げ、チームの元に走って行った。
守人と剛は橋田と一緒に観客席に座る。本日の試合を見る事にした。
試合だが、白熱の投手戦となった。
豪腕·霧島はストレートを主体に、相手打線から三振を奪って行く。三塁を踏ませないピッチングで、8回までを0点に押さえていた。
対する耕三だが、こちらは技巧派·高梨である。コースを突いた丁寧なピッチングで変化球で緩急を付け、こちらも8回まで0点に抑えていた。お互いに素晴らしいピッチングである。
9回表、航はこの日、初めてのピンチを招く。エラーが絡みツーアウトながら三塁となった。ここで次のバッターを155kmのストレートで三振に切って落とす。まだまだ余力充分である。
一方の耕三だが、こちらも9回にピンチを招く。ツーアウト三塁でバッターは5番、霧島航である。
「ここで、サヨナラ暴投なんだよな~……」
「そうなのか?」
「おう……敬遠の球がすっぽ抜けてな」
「さて、耕三様は守人の言葉をどう受け取ってくれたのやら……」
3人はマウンドに目を向ける。
キャッチャーがベンチを確認し、耕三にサインを出した。そのサインに、耕三は少し躊躇ってから首を横に振った。キャッチャーはもう1度サインを出したが、耕三はまたも首を横に振る。
「タ~イム!」
主審が両手を広げて試合を止める。キャッチャーは耕三の元に行き、何やら言葉を交わしていた。次の瞬間、耕三はベンチを見て首を大きく横に振った。キャッチャーは耕三の肩を2·3度軽く叩き、自分の守備位置に戻って行った。
「座ったな」
「その様です」
「勝負だな」
耕三はベンチの指示を拒否し、キャッチャーも耕三の考えを優先した。この後、耕三は見事に航を三振に切って落とした。決め球のストレートは、航と同じ155kmを計測した。球場全体が盛り上がった。
この試合の結末だが、延長12回裏、エラーが絡んでワンアウト三塁で外野にフライが上がり、これが犠牲フライとなって霧島航達がサヨナラで勝利した。
整列した耕三、涙こそ流していたが、すっきりした表情をしていた。
「……これで、とりあえずだな」
「みたいだな」
「ありがとうございます。これで大丈夫だと思います」
「さて、俺達は帰るよ」
「お世話になりました」
「はい……未来の私も、よろしくお願い致します」
「未来の?……どうして?」
「剛はいいの!…よし、行くぞ」
「あ、待てって!」
守人と剛は球場を後にした。
どうやら、やっと解決となりそうである。
後は……もう少しお笑いが欲しい……




