あの夏、1番暑い日!……其の3
宗一奪還!?
守人の合図で、剛は花火に火を付けて一気に投げ入れた。
「うわ、何だ?」
「どうなってんだ?」
「誰だ?」
中の人達が騒いでいる。
「よし、奪還開始だ」
「サポートします」
「俺は、まだまだ花火を投げ入れるからな」
剛が目眩ましをしている間に、守人と橋田は宗一を取り戻した。この煙の中、見事としか言い様がない動きである。
「だ、誰だ、クソッ!」
[バシュン!]
宗一を誘拐したうちの1人が、入り口に向けて発泡した。
[ピタッ]
守人を覗き、周りは全て止まっている。
「剛を、ここで失くしたくないからな」
守人は剛を抱え、2·3歩横に動いた。
「時は動き出す」
[ピュン]
銃弾が、守人と剛のすぐそばを通り抜けて行く。
「うおっ……危な……悪いな、守人」
「いや、それよりここから消えるぞ」
「お、おう」
「橋田さん、宗一君をお願いね」
「分かりました。さぁ、宗一様!」
花火の煙が消えないうちに、4人は倉庫から姿を消した。
橋田が和興に連絡し、迎えが来るまで公園で休む事になった。
「剛様、ジュースを宗一様とお願いします」
「え?俺?……まぁ、いいけど……」
橋田は剛にお金を渡し、宗一と一緒にジュースを買って来る様に頼んだ。
「……それが、守人の能力なんだな?」
「やっぱり……信治叔父さんだったね」
「バレない様にとは思ったけど……やっぱりバレたな」
「しょうがないよ。やけにタイミングバッチリだしさ」
「……どのくらいの俺が来た?」
「そうだな~……70といった所か?……まぁ、爺さんだったよ」
「そうか……成る程……」
話をしていると、剛と宗一が戻って来る。タイミング良く迎えの車も来た。それに乗り込み、宗一奪還は見事に成功となった。
自摸電気に到着し、その中に入って行く。すぐに社長室に案内された。
「良く……本当にありがとう」
「心から感謝します!」
和興と昭次からお礼を言われ、宗一は違う場所に秘書が連れて行った。
「何と言ったらいいか……橋田も、本当にありがとう」
「橋田さん、本当にありがとうございます」
「いやいや、私は……それより、こちらの2人に報酬を……」
「そうだったそうだった。いくらでも出すぞ、10億か20億か?」
「父さん、それよりも子会社の1つでも……」
「……スケールがでか過ぎる……」
「興味は無いんだよね~、会社も金もさ!……高価な物を貰えないかな?」
「高価な物?」
「何か……」
「旦那様若旦那様、あの時計を……」
「時計?……これの事か?」
「はい、それでございます」
「しかし……」
「橋田さん、これを貰う権利はあなたに……」
「なら、私からそれをお2人に……私は、坊っちゃまの命が助かるのならば、何も望みません」
「そんなに言うならば……」
「これで、ご納得頂けますか?」
「オフコース!……では、こちらを報酬として」
「我々は、これにて失礼致します」
守人と剛は時計を受け取ると、頭を下げて自摸電気を後にした。
「さて、次だな」
「やっぱり、これで終わりじゃないよな?」
「まぁな……少しは分かって来たな?」
「少しはな」
2人は地下室を目指した。
次の目的地となった。
「……何年後?」
「約10年」
「そう……今回は?」
「謙次を救う……だな」
「謙次……多分だけど、耕三さんの兄貴だよな?」
「鋭いな~……成長著しいな!」
「……お前の事にも、少し慣れたよ……」
「本当に成長したな!」
「……やっぱりムカつく」
2人は話ながら、自摸電気に向かっていた。
自摸電気に着くと、守人は受け付けで昭次に取り次いで貰おうとしたのだが、
「お待ちしておりましたよ。さぁ、こちらへ」
声を掛けて来たのは橋田である。白髪が少し混じっており、年齢を感じさせる。橋田の案内で、守人と剛は近くの喫茶店に連れて行かれた。
「あれから何年も経つのに、変わらないお2人が来たら……」
「昭次社長、ビックリだな!」
「……悪る乗りし過ぎです」
「謙次、肝臓が悪いんだよな?」
「はい、明日手術の予定です」
「事故渋滞で間に合わないんだよな~……さて、どうする?」
「そうですね~……事前にルート変更出来れば……」
「よし、明日は俺達が運ぶとしよう」
「……どうやってです?」
「そこはさ~、昭次さんに言ってさ、上手くやっといてよ」
「承知しました」
「……少~し待って貰おうか」
「どうした剛?」
「いかがなされました?」
「どうして橋田さんは、俺達を見て何とも思わないんだ?」
「……守人、説明はしてないのですか?」
「してないよ。面倒だし!」
「……これは……全く…………簡単な話です。私は守人の叔父です」
「叔父!?」
「はい」
「はいじゃないよ!本当に叔父さんなの?」
「そうですよ」
「剛~、ビックリし過ぎ」
「誰だってビックリするわ!……しかし、それなら……確かに納得だな……」
「……話を元に戻しますよ。明日の輸送、必ず成功させて下さい」
「大丈夫だよ。それより、今日泊まる所をお願いね」
「それは承知致しました」
「剛~、今日は旨い飯が食えるぞ!」
橋田の案内で、守人と剛はホテルに泊まる事になった。かなり高級なホテルであり、ルームサービスも豊富である。夕食を食べ終えた2人、ツインの部屋でゆっくり過ごしている。
「なぁ、守人」
「何だ?」
「橋田さん、どうしてお前に依頼を?」
「そうだな~……叔父さんは、一族を抜けた身だからかな」
「一族を抜けた?」
「そう、そして自分の好きな時代へ……この時代が、叔父さんの気に入った時代。それだけの事さ」
「そうか、成る程……そうだよな、70くらいのお爺ちゃんがお前の叔父さんとは……」
「あっはっは、俺達には、時間の感覚が他人とは違うんだよな~……下手すると、自分より若い親に会う事も有るからな~……」
「おー、確かにそうだな!……今までに無かったのか?」
「無いな~……俺達の一族には、色々有るからな~……そもそも、叔父さんと会うのは十数年振りだ」
「……複雑そうだな?」
「……そのうち……そのうち、剛には話す時が来るさ」
「分かった。それまでは、聞かないでおいてやる」
複雑な事が有るみたいである。とりあえず、今は明日の輸送が上手く行く事を願いたい。
解決まではもう少し……