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俺が居ない俺の町……  作者: 澤田慶次
22/64

あの夏、1番暑い日!……其の1

解決屋、日常的な事は無いのかな~……

剛は本日も事務所で何かをしている。パソコンを開き、何かを見ている様である。

「剛~、甲子園か?」

「おう、夏の甲子園もそろそろ最後だからな!」

「しかし……このクソ暑い日に、よく野球をやるよな~……」

「馬鹿だな~、この暑さがたまらないんだよ!この炎天下の元、1つのボールに全てを賭ける……青春ってやつだな!」

「青春ね~……暑苦しいだけじゃねぇの?」

「守人は分かってないな~!」

「分かりたくもねぇわ!……剛、アイスコーヒーをブラックで!」

「はいはい、待ってろよ」

剛はアイスコーヒーを作って守人の前に出した。勿論自分の分も作り、アイスコーヒーを飲みながら甲子園の決勝を見ていた。

[トントン]

ドアがノックされる。

「開いてるよ~!」

ドアが開くと、年配の男性が立っている。上着は脱いでいるが、Yシャツにスーツである。

「こちらは、解決屋で間違いないでしょうか?」

「合ってるね。で、用件は?」

「守人、もう少し丁寧に……」

「いいんだよ!で?」

「用件は、私の旦那様が……」

「お断り!」

「守人!」

「外にリムジンが止まってますので……」

「知ってる?本人がご足労出来ない方は、お断りです」

「そう言わずに……報酬は1億円用意しております」

「い、1億円!」

「……張り紙見てねぇの?現金お断りだ」

「10億までなら、準備は出来ております」

「じゅ、10億……既に思考回路が追い付かない……」

「だ·か·ら、本人が来ねぇのもアウトだし、報酬が金ってのも受け付けねぇの!」

「……でしたら、私の依頼を受けて貰えませんでしょうか?」

「……報酬は?」

「こちらに……」

男は懐から懐中時計を出した。金色であり、細かく模様が刻まれている。

「先々代の旦那様から頂いた物です。既にこちらを作った会社は失くなっており、同じ物は作れないとの事。純金とダイヤを使った、まさに一品物です」

「……2000は下らないか……それで、依頼とは?」

「はい、私の旦那様の悩みの解決を!」

「どうする?守人?」

「……引き受けるか……では、その旦那様の元に案内して貰おうか?橋田(はしだ)隆夫(たかお)さん」

「どうして私の名前を?」

「企業秘密です」

「守人、俺も知りたいぞ!」

「……お前には、絶対教えない!」

新しい依頼を引き受ける事となった。守人と剛は外に止まっているリムジンに乗り込み、その旦那様が待っているであろう場所に向かった。


リムジンが着いた先、それは日本有数の会社である。

「……ソフトアンブルカンパニー……世界的にも有名な会社……」

「剛~、何馬鹿みたいな顔してんだよ?元々馬鹿な顔だけどさ~……」

「さらっと悪口入れてないか?」

「いや、正直に言い過ぎた」

「とりあえず、中へどうぞ」

橋田に案内され、守人と剛は会社の中に入って行く。そのまま、社長室に案内された。

「失礼致します。お連れ致しました……さ、どうぞ」

橋田の手引きで、守人と剛は中に入る。

「お呼び立てしてすまない、私が社長の高梨(たかなし)耕三(こうぞう)だ」

「時守人と申します」

「中澤剛です」

「橋田、下がっていいぞ」

「いや、それでは困る。我々の依頼者は橋田さんだからね」

「??……どういう……」

「本人が来ない場合、依頼は受けない。橋田さんが、主の悩みを解決して欲しいと依頼したんだ」

「……報酬は?」

「これ……橋田さんの宝物さ」

「……現金で1億円出す!どうだ?」

「現金は受け付けない。依頼者は橋田さん。納得出来ないなら、この話は無しだ」

「……変わった奴だな……まぁ、いい。最近、どうも蟠りが取れない。何かモヤモヤして……どうにかならんか?」

「随分抽象的な……守人、これ……」

「引き受けましょう」

「はぁ?こんな説明で何が分かるんだ?」

「おいおい、色々分かるさ……大体、あんたが1番分かってんじゃないのか?耕三さん?」

「……そうかもしれんが……」

「とりあえずだ。後で細かい打ち合わせでもしようや……今はこの辺で……」

守人が立ち上がると、剛も立ち上がって頭を下げて出て行った。橋田はその2人の後を追って来た。

「あの、守人様……」

「大丈夫、確かに引き受けたから……今日の22時、事務所に迎えに来てくれ」

「??……畏まりました」

「守人、何か有るんだな?」

「そうだね、確かに何か有るね」

企んだ様な笑顔を見せる守人、剛はもう慣れたといった表情で守人と会社を出て事務所に戻った。


23時を少し過ぎた所、

「……そうなんだ、分かっていたんだ……」

耕三は自分の部屋で1枚の写真を見詰めながら呟いた。そのまま椅子に上り、目の前に有るロープに首を通した。

「はい、そこまで~!」

守人の声と共に、耕三の部屋の電気が付いた。

「昼間の……どうして……」

「旦那様!」

橋田が慌てて走って行く。

「どうしてこの様な……」

「……どうせ、誰も私の憤り等……」

「ふむ、その写真が原因の1つの様だね?」

「……………………」

「旦那様、この写真……」

「守人、あの写真は何なんだ?」

「耕三さんの、大切な人さ。そして、この世にはもう居ない」

「……どうしてこうなってしまったのか……彼女は中野(なかの)杏子(あんず)と言って、私の幼馴染みだった……」

「旦那様、杏子様はご病気……旦那様のせいでは……」

「そこじゃない……そこじゃないんだ……」

「霧島航……夏の甲子園県予選……敬遠のフォアボールと約束……だろ?」

「……お見通しか……杏子との約束、果たせなかったのは仕方ない……しかし……それでも私は、霧島航と真っ向から勝負したかった……あそこから、何もかも歯車が狂ってしまった……」

「旦那様……」

「あの夏が全てじゃないさ……あんたはいつの間にか、負け犬根性が染み付いてしまったんだ……よし剛、仕事に掛かるぞ」

「待ってました!……耕三さん、そう人生焦る事もないさ!少しだけ、俺達に時間を下さいね」

「そういう事!…よし、行くぞ」

「おう!」

守人と剛、今から仕事に掛かる事にした。いったい、どんな結末となるのだろうか。

……複雑そうな依頼です……

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんだかいろいろな事情と過去が絡んでいそうですね! どこかの会長の悩みとはえらい違いです(笑)
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