あの夏、1番暑い日!……其の1
解決屋、日常的な事は無いのかな~……
剛は本日も事務所で何かをしている。パソコンを開き、何かを見ている様である。
「剛~、甲子園か?」
「おう、夏の甲子園もそろそろ最後だからな!」
「しかし……このクソ暑い日に、よく野球をやるよな~……」
「馬鹿だな~、この暑さがたまらないんだよ!この炎天下の元、1つのボールに全てを賭ける……青春ってやつだな!」
「青春ね~……暑苦しいだけじゃねぇの?」
「守人は分かってないな~!」
「分かりたくもねぇわ!……剛、アイスコーヒーをブラックで!」
「はいはい、待ってろよ」
剛はアイスコーヒーを作って守人の前に出した。勿論自分の分も作り、アイスコーヒーを飲みながら甲子園の決勝を見ていた。
[トントン]
ドアがノックされる。
「開いてるよ~!」
ドアが開くと、年配の男性が立っている。上着は脱いでいるが、Yシャツにスーツである。
「こちらは、解決屋で間違いないでしょうか?」
「合ってるね。で、用件は?」
「守人、もう少し丁寧に……」
「いいんだよ!で?」
「用件は、私の旦那様が……」
「お断り!」
「守人!」
「外にリムジンが止まってますので……」
「知ってる?本人がご足労出来ない方は、お断りです」
「そう言わずに……報酬は1億円用意しております」
「い、1億円!」
「……張り紙見てねぇの?現金お断りだ」
「10億までなら、準備は出来ております」
「じゅ、10億……既に思考回路が追い付かない……」
「だ·か·ら、本人が来ねぇのもアウトだし、報酬が金ってのも受け付けねぇの!」
「……でしたら、私の依頼を受けて貰えませんでしょうか?」
「……報酬は?」
「こちらに……」
男は懐から懐中時計を出した。金色であり、細かく模様が刻まれている。
「先々代の旦那様から頂いた物です。既にこちらを作った会社は失くなっており、同じ物は作れないとの事。純金とダイヤを使った、まさに一品物です」
「……2000は下らないか……それで、依頼とは?」
「はい、私の旦那様の悩みの解決を!」
「どうする?守人?」
「……引き受けるか……では、その旦那様の元に案内して貰おうか?橋田隆夫さん」
「どうして私の名前を?」
「企業秘密です」
「守人、俺も知りたいぞ!」
「……お前には、絶対教えない!」
新しい依頼を引き受ける事となった。守人と剛は外に止まっているリムジンに乗り込み、その旦那様が待っているであろう場所に向かった。
リムジンが着いた先、それは日本有数の会社である。
「……ソフトアンブルカンパニー……世界的にも有名な会社……」
「剛~、何馬鹿みたいな顔してんだよ?元々馬鹿な顔だけどさ~……」
「さらっと悪口入れてないか?」
「いや、正直に言い過ぎた」
「とりあえず、中へどうぞ」
橋田に案内され、守人と剛は会社の中に入って行く。そのまま、社長室に案内された。
「失礼致します。お連れ致しました……さ、どうぞ」
橋田の手引きで、守人と剛は中に入る。
「お呼び立てしてすまない、私が社長の高梨耕三だ」
「時守人と申します」
「中澤剛です」
「橋田、下がっていいぞ」
「いや、それでは困る。我々の依頼者は橋田さんだからね」
「??……どういう……」
「本人が来ない場合、依頼は受けない。橋田さんが、主の悩みを解決して欲しいと依頼したんだ」
「……報酬は?」
「これ……橋田さんの宝物さ」
「……現金で1億円出す!どうだ?」
「現金は受け付けない。依頼者は橋田さん。納得出来ないなら、この話は無しだ」
「……変わった奴だな……まぁ、いい。最近、どうも蟠りが取れない。何かモヤモヤして……どうにかならんか?」
「随分抽象的な……守人、これ……」
「引き受けましょう」
「はぁ?こんな説明で何が分かるんだ?」
「おいおい、色々分かるさ……大体、あんたが1番分かってんじゃないのか?耕三さん?」
「……そうかもしれんが……」
「とりあえずだ。後で細かい打ち合わせでもしようや……今はこの辺で……」
守人が立ち上がると、剛も立ち上がって頭を下げて出て行った。橋田はその2人の後を追って来た。
「あの、守人様……」
「大丈夫、確かに引き受けたから……今日の22時、事務所に迎えに来てくれ」
「??……畏まりました」
「守人、何か有るんだな?」
「そうだね、確かに何か有るね」
企んだ様な笑顔を見せる守人、剛はもう慣れたといった表情で守人と会社を出て事務所に戻った。
23時を少し過ぎた所、
「……そうなんだ、分かっていたんだ……」
耕三は自分の部屋で1枚の写真を見詰めながら呟いた。そのまま椅子に上り、目の前に有るロープに首を通した。
「はい、そこまで~!」
守人の声と共に、耕三の部屋の電気が付いた。
「昼間の……どうして……」
「旦那様!」
橋田が慌てて走って行く。
「どうしてこの様な……」
「……どうせ、誰も私の憤り等……」
「ふむ、その写真が原因の1つの様だね?」
「……………………」
「旦那様、この写真……」
「守人、あの写真は何なんだ?」
「耕三さんの、大切な人さ。そして、この世にはもう居ない」
「……どうしてこうなってしまったのか……彼女は中野杏子と言って、私の幼馴染みだった……」
「旦那様、杏子様はご病気……旦那様のせいでは……」
「そこじゃない……そこじゃないんだ……」
「霧島航……夏の甲子園県予選……敬遠のフォアボールと約束……だろ?」
「……お見通しか……杏子との約束、果たせなかったのは仕方ない……しかし……それでも私は、霧島航と真っ向から勝負したかった……あそこから、何もかも歯車が狂ってしまった……」
「旦那様……」
「あの夏が全てじゃないさ……あんたはいつの間にか、負け犬根性が染み付いてしまったんだ……よし剛、仕事に掛かるぞ」
「待ってました!……耕三さん、そう人生焦る事もないさ!少しだけ、俺達に時間を下さいね」
「そういう事!…よし、行くぞ」
「おう!」
守人と剛、今から仕事に掛かる事にした。いったい、どんな結末となるのだろうか。
……複雑そうな依頼です……




