作られたヒーロー!……其の5
遂に解決!
現代に戻ると思われた守人だが、もう1つ寄る所が有るとの事。剛も付き合い、タイムワープをして、とあるキックの試合会場に向かった。
試合会場に入った2人、丁度メインイベントである。
[赤コーナー、ムエタイ無敵の王者にして現キックフェザー級チャンピオン……ラジャ·ラジャム~!]
赤コーナーのチャンピオン、右手を上げてアピールをする。
[青コーナー、不屈の闘志でここまで登り詰めた男!日本の誇る鬼!闘鬼、黒鉄武~!]
青コーナーの武が右手を上げる。
「守人、武がやったな?」
「いや、やってない……しっかりと、最後まで見とけよ」
「お、おう……」
守人の今までに見た事のない厳しい表情に、剛は一瞬怯んだ。
試合が始まると、物凄い打撃戦となった。元々ラジャムは距離を取る選手ではない。最初からガンガンに前に出て来る。
対する武だが、こちらも打撃戦に対応する。全く引く気はない。真正面から、2人は殴り蹴って行く。
この試合、確かに互角に見えている。武は頑張っている。しかし、武とラジャムでは実力が違う。パンチの重さ、蹴りの威力等、根本的にラジャムの方がレベルが上である。互角に見えるという事は、武がそれだけ精神的に上回っているという事である。
それでも、現実というのは残酷である。試合が進むに連れ、明らかに武にダメージが残っていく。一方的に打たれる場面も有れば、ぎりぎりの所でダウンを逃れるシーンも出て来た。
最終ラウンド、武は玉砕覚悟で最後の打ち合いをする。ここでもラジャムが上回るのだが、武の右ストレートがラジャムを捉えた。次の瞬間、ラジャムの右ハイキックが武を捉え、武は大きくよろけたのだが、これを何とかクリンチをしてダウンを凌ぐ。ここでラウンド終了のゴングが鳴った。
判定となる。
[判定……3-0、赤コーナー、ラジャ·ラジャム~!]
ラジャムの左手が上げられる。それを物凄い鋭い目付きで横目に見た武、そのままリングに前のめりに倒れた。
場内騒然となり、すぐに救急車がやって来る。
「守人、大丈夫だよな?」
「……………………」
「おい、守人!」
「……何をやっても、変わらない事は有る。武の命は……」
「守人、そんな事ねぇだろ!」
「……帰るぞ……」
「しかし……」
「いいから、帰るんだ!」
守人は剛の手を引き、無理矢理に会場から連れ出した。そのまま無言で、2人は地下室に向かった。
地下室に入る2人。
「……守人、武は……」
「どうにもならん事は有る……しかし、惇の目には、きっと武の勇姿が映っただろう……」
「……そうか、確かに惇には……そうだな、うん……」
「よし、帰るぞ」
「おう……」
2人は現代に戻った。
「……所で、ダイヤの原石は?」
「これか?……バッチリだろ?」
「何で消えないんだ?」
「服部会長が飲んでた所……そこに有ってな」
「まさか」
「嫌だな~、いつの間にかポケットに有ったんだよ~」
「泥棒だぞ!」
「不可抗力だな、しょうがない……さて、これを処理するか」
「どうやって?……惇はそんな依頼しないだろ?」
「まぁ、付いて来いよ」
守人は剛を連れて、とあるジムに向かった。
ジムに着いた2人、[黒鉄キックボクシングジム]と書かれている。
「おい、これ……」
「入るぞ」
「待てよ」
守人と剛はジムに入った。
「入会希望の方?」
「いや、これからオープンて事で……これを渡そうと思って」
守人はダイヤの原石をポケットから取り出した。
「おお!これ……かなりデカイ……凄ぇな……」
「これから、ダイヤの原石を本物のダイヤしていくあんたには、これはお似合いだろ?」
「……確かに、俺にはぴったりかもな」
「やるよ」
「いや、こんな高価な物……」
「……なら、買い取ってくれ。俺には必要ない」
「分かった」
惇は一旦その場を離れ、紙袋を持ってすぐに戻って来た。
「手持ちはこれだけだが、どうた?」
紙袋の中には、100万円の札束が5つ有る。
「本当にいいのか?」
「これくらいの価値は有る!俺はそう思う!」
「……後悔するなよ」
「しないさ!……いいのか?」
「よし、売った!」
「ありがとう、大切にするよ」
「おう、よろしくな」
「あの~……黒鉄惇さん。黒鉄武さんは……」
「お?親父を知ってるのか?嬉しいね~!……親父に笑われない様に、俺はやって来たつもりさ」
「……きっと、お父さんも喜んでますよ!」
「そうかい?ありがとうな!」
「いやいや」
守人と剛は頭を下げて、ジムを出て行った。
事務所に戻った守人と剛。
「……黒鉄惇は引退か……」
「剛、これ見ろよ」
守人はパソコンを剛の方に向けた。
黒鉄武と黒鉄惇
黒鉄武は、当時無敵と言われたラジャムと試合をした。物凄い打撃戦の末、ラジャムが勝利して無敗のレコードを更新した。
この試合で、黒鉄武は帰らぬ人となった。日本のキックボクシング界は、貴重な人材を失った。これと同時に、世界のキック界は無敵の戦士を失う事になる。ラジャムは黒鉄武との試合の後、脳出血が発見され引退を余儀なくされる。試合が終わって尚、試合の壮絶さが伺える。
「黒鉄武、彼と拳を交えた事は、私の誇りだ」
引退したラジャムが、黒鉄武を称えた言葉である。間違いなく、ラジャムの歴史で1番の難敵であった。
それから15年、ラジャムが[私を超えた選手]と称した教え子である、ガオグン·ゲーンソトがキックの世界チャンピオンに君臨すると、これに挑戦したのが当時23歳の黒鉄惇である。黒鉄武とラジャムの試合再びと銘打たれた試合、最終ラウンドに惇の右ハイキックが決まり、見事に惇はKOで世界チャンピオンとなる。この試合より、黒鉄惇は[闘神]と呼ばれる様になる。
以降も勝ち星を重ねた黒鉄惇、34歳で現役引退し自分のジムを設立するという。是非とも、後継者を育てて欲しい所である。
「黒鉄の血、確かに引き継いでるだろ?」
「そうだな……やっぱり、黒鉄惇は俺のヒーローだ」
「日本キック界のヒーローだよ、黒鉄武も黒鉄惇もな」
「……感無量だな……」
「よし、寿司でも食いに行くか?」
「おう、行こうぜ!」
2人は寿司を食べる事とした。どうやら、これで本当に解決である。黒鉄武も黒鉄惇も、確かに救われた。守人と剛、本当のヒーローかもしれない。
「会計は剛な!」
「はぁ?お前が上司だろ?」
「この前、奢っただろ?」
「知りませんな~?気のせいでは?」
「阿呆か?4万円は気のせいじゃないだろ?」
「ケチ臭ぇな~、いいから奢れ!」
「それが奢られる者の言い方か?」
「うるせぇな~、器が小さいぞ」
「お前に言われたかねぇよ!よし、お前で決定な!」
「何でだよ!」
「何でもだよ!」
寿司屋で揉めている。ヒーローではない様である。
キック界のヒーロー、見事に守りました。