作られたヒーロー!……其の2
どうなる、この話!
守人と剛は地下室に向かっていた。
「やっぱり、企んでいるテレビ局スタッフの排除だな!」
「……短絡的」
「それで解決だろ?」
「そんなに簡単なら、俺の出番は無いさ」
「しかし……他にどんな問題が?」
「それを調べるのも、俺達の仕事の1つだ」
話をしているうちに、地下室に着いた。特に着替える事もなく、そのまま目的の時間に守人と剛は向かった。
地下室から出て来た2人、
「ここは?」
「黒鉄惇の子供の頃……父親がまだ現役の頃だな」
「黒鉄惇の父親?…何だか、得した気分だぜ!」
「……本当に短絡的だな……」
そのまま守人と剛は歩いて行く。
暫く歩くと、[服部キックボクシングジム]の看板が見える。惇の話から、惇の父親はこのジムに所属している筈である。
「ど~も~、戸張って言います!」
「??…入会希望者?……後ろの君!君も入会希望者かい?」
「あ、長澤って言います……あの~……」
剛は守人の方を見た。
「いや、黒鉄って人に用事が有って!」
「?黒鉄に?……お~い黒鉄、用事が有るみたいだぞ?……それより君、キックをやらないか?」
「俺は~……合気道をやってますので……」
「合気道?キックでバリバリ殴りそうだけどね?どう?」
「いや、大丈夫です」
「剛、モテモテだな?」
「うるせぇ!」
話をしていると、奥から男が歩いて来た。黒鉄惇に何処か似ている。
「俺に何か?」
「黒鉄武だね?」
「そうだけど?」
「あんた、プロのキックボクサーなんだろ?」
「まぁね。で、用事は何?」
「八百長……恥ずかしくねぇの?」
「ば、馬鹿!そんな筈が……」
「八百長ね~……何の話?」
「惚けるの?…なら……そっちの会長にでも聞いてみるか?」
「な、何言ってやがる!黒鉄はそんな事はしねぇ!」
「怪しいね~……そもそも、チャンピオンでも無いのに、キックだけで食っていけるの?」
「……何を知っている?」
「答えによっては……」
「……マジなのか?……」
「そんな横縞な奴、大した事は無い!性根を叩き直してやるよ、リングに上がれ」
「馬鹿、守人何を言って……」
「面白い奴だ。会長、構わないですか?」
「口が聞けない様にしてやれ」
突然、守人と武のスパーリングとなった。
「ヘッドギアは無しだ、いいな?」
「オフコース」
もとい、試合となった様である。
ポケットからケースに入ったマウスピースを出す守人、上着を脱いでTシャツでリングに上がる。裸足である。
「守人、大丈夫なのか?」
「まぁ、見てなよ」
守人はマウスピースを口に入れる。周りのトレーナーが守人のグローブを着ける。武も準備は整っている様だ。
「とりあえずだな~、2ラウンド……いいな?」
「構いませんよ、どうせ持たないだろうし」
軽口を叩いてからマウスピースを咥える武、守人は軽く右手を上げた。
「カーン」
ゴングが鳴った。
キックボクサーというだけあり、武は右構えで両手を顔の高さまで上げており、確かにキックの選手だと構えだけで分かる。
対する守人だが右構えであるが、左手はだらりと下げており右手を顔の前に置いている。肩幅よりやや広くスタンスを開き、ジークンドーに近い構えになっている。それでも、何処か重心が違う様に感じ、ジークンドーの様に身軽なフットワークは見せない。どっしり構え、真っ直ぐ武を見ている。
仕掛けたのは武である。ローキックからパンチのコンビネーションを出す。流石に速いのだが、これを守人は難なくかわした。続けて攻撃を仕掛ける武だが、守人には当たらない。武がミドルキックからバックハンドブローを出すと、守人はそれをもかわした。武が守人と正面になる瞬間、守人は右拳を捻る事なく真っ直ぐに前に出す。その時に右足も一緒に踏み込む。
[ダァン]
物凄い踏み込み音が鳴り、守人の右拳は武の胸に当たる。次の瞬間、武の身体は宙に浮き2~3m吹っ飛ばされた。
「おう……あれ……」
立ち上がろうとする武だが、いまいち足元が定まらない。守人はマウスピースを外す。
「終わりだね。顔面じゃなくて良かったね」
剛の前に両手を出す守人、剛は守人のグローブを外した。少しすると武も回復する。リングを降りて剛と居る守人の方に、武と服部会長が近付く。
「今日はジムは終わりだ、みんな帰ってくれ!」
服部会長の一言で、本日のジムは終了となった。
「悪い、会長室に来てくれ……武もな」
「はい……」
「じっくり話しましょうかね」
「……守人、八百長は本当なのか?」
「これから分かるさ」
4人は会長室に入って行った。
服部会長は自分の机の椅子に座り、その横にパイプ椅子を置いて座る武。守人と剛はソファに座った。
「悪いんだが、何処まで知ってる?」
「何処まで知ってると、都合が悪いんだ?」
「それは……その口ぶりだと、全て分かっているのか?」
「会長、俺から話しますよ……八百長なんて、やるつもりはなかったんだ……」
「ファイトマネーが破格となり、とても相手にならない奴と試合を組まされた。そこで……わざと負けた。1度だけが、2度3度となり……抜け出せなくなってた……気が付けば、飲まなければ周りの安全さえままならない……こんなとこか?」
「……お見通しって訳か……それで、雑誌社にでも売るのか?」
「それだけは辞めてくれ!」
「いや、そうするつもりはない」
「ちょっと待て!…八百長は確実なのか?」
「剛、もう少し話に着いて来いよ~……八百長は有った。これは確かだ」
「……惇に、顔向け出来るのか?」
「剛、言いたい事は分かるんだが……稼がないと惇がキックを出来ないのも確かだ」
「惇?……俺の子供がキックを?……何言ってんだ?」
「この話は後として……八百長は辞めないのか?」
「難しい……」
「服部会長?」
「俺は……武の家族の安全が最優先だ」
「成る程……ま、安全第一だね。分かった。時期が来たらさ、噛ませ犬として噛み付いてやれよ」
「……いつか必ずな」
「秘密に…してくれるのか?」
「今の所ね……剛、行こうぜ」
「あ、ああ……失礼します」
守人はジムを出て行き、剛は頭を下げてから守人を追い掛けた。何やら、複雑な問題が隠れていそうである。
守人、意外に強い!