真に怖いは人間……其の3
9本の尻尾を持つ狐……
全身が恐怖に支配され、動けない剛。
[どうした人間、私が怖いかね?]
「………………………………」
「剛~、ただの狐だぞ?」
「……ただのじゃねぇ……その気になったら……」
[なかなか正直だな。時、お前は少しは説明したらどうだ?]
「馬鹿だな~、説明したら、これが見られないだろ?」
「……どういう事だ?」
「それより、リュックの物を出せよ」
「お、おう」
剛はリュックから買って来た物を出した。油揚げに厚揚げ、がんもどきも有る。
[おう?…用意がいいね~!いつも悪いね!]
「いやいや、今回もよろしく」
「……守人、協力してくれるのか?」
「おう、こいつは敵対しなければ、協力してくれる。な?」
[今だけかもしれんがな……で、今回の要件は?]
狐は厚揚げを食べながら質問した。
「少し厄介かな~……大蛇丸なんだが……」
[あの蛇か……して、どうしたいんだ?]
「完全に消す。それだけだ」
[成る程、そういう事か……]
「……ちょっと待て、大蛇丸はどうしてこうなったんだ?」
「細かいな~……平安時代、大蛇丸は孤児だった。とある村に引き取られた。その先で大蛇丸は迫害に合い、その村に災いが起こった時、大蛇丸が生け贄として差し出された。それだけの事だ」
「……だったら、平安時代に行って大蛇丸を助ければ……」
[はっはっは、人間の考える事は似ているな。時も同じ考えをした。最も、時正治だがな]
「大蛇丸は救い様のねぇ悪人だ。助けた所で、結局は都に仇成す者となり、首を跳ねられ怨念の塊となる……今、無に帰すのが1番いい……」
「……救い様のない悪人ねぇ……人間は……」
「いい所が必ず有る!とでも言いたいのか?……違う人間も、必ずしも居る物だ」
[どちらにしろ、大蛇丸を完全に消さなくてはならないのだろ?……仕方がない、私が力になろう]
「……1つ質問だが、あんたは[九尾の狐]でいいんだよな?」
[如何にも!……まぁ、時一族とは敵対したくないだけだな……私の過去に行き、私が妖力も無いうちに殺されたのではな……]
「だったら、大蛇丸もこうなる前に!」
「他に生け贄になる人物を作るぞ?……ここで消すのが1番なんだよ」
どうやら、話はまとまった様である。とはいえ、伝説の妖怪[九尾の狐]を連れて行くとは、守人は只者ではない。剛は恐怖を克服出来ていない様ではある。
狐を先に大蛇丸の山の麓に待機させ、約束通りの時間に守人と剛は桑門の所に向かった。
「ど~も、お待たせかな?」
「いやいや……して、準備は?」
「問題無し!な、剛?」
「俺的には、色々問題が有るんだけど……」
「???」
「まあまあ桑門さん、とりあえずは行きましょう」
守人は歩き出し、剛と桑門は後を着いて行った。
暫く歩くと、目的の山に着いた。普通の大きさの狐が、山の麓にちょこんと座っている。尻尾は9本有る。
[そいつは見物人か?]
「そうだ、剛もな!……剛、この護符を持っておけよ」
「おう、悪いな。俺は、ゆっくり見てる事にするよ」
「………………凄い妖気……こいつは……」
[身構えるな、今は敵では無い……どうやら、あちらさんが来た様だ]
狐が山の中に視線を向ける。みんなもそちらに視線を向けると、ズルッズルッと鈍い音が聞こえる。少しすると、ワゴン車程の頭の大蛇が姿を表した。
【どうやら、俺をお待ちかねの様だ】
「な、何だ?……あ、あれ……」
剛は声は出したのだが、身体を動かせずにいた。それ程の恐怖が剛の中を走った。それは桑門も同じであり、桑門からは冷や汗が吹き出していた。
【俺の餌になりに来たのか?】
[随分と威勢がいいな?]
【染みっ垂れた狐、お前も餌にしてやろうか?】
[……貴様、私を侮辱か?……たかだか蛇ごときが、調子に乗るなよ……]
狐は姿を変化させた。剛が初めて会った時の姿であり、そこから来る威圧感は先程までとは比べ物にならない。
【なっ……貴様、何者だ?】
[私の方が大分年上だ。敬語を使え、この馬鹿者が!……私を愚弄した事、後悔するんだな!……グァオォォォォォン!]
狐が吠えると、大蛇が震えるのが分かった。
【シャアァァァァァァァ!やられてたまるか!】
大蛇が狐に襲い掛かるが、狐は軽く避けて大蛇の喉元に噛み付いた。
「九尾、そのまま押さえとけよ!剛に桑門、そこから動くな!」
守人は左手の手袋を外した。剛と桑門はその場から動けない。剛の持っている護符は光出していた。
「臨·兵·闘·者·皆·陣·列·在·前……」
守人は左手を握り、自分の顔の前に出した。そのまま大蛇に向かって走る。左手の甲から、赤く光った六芒星が浮かび上がっている。
「お前は少し、悪さをし過ぎた。諦めろ、すぐに消してやる」
守人は大蛇の前に左手を出し、その手を開いた。
「滅!」
眩い光が守人の手から放たれる。
【ギャアァァァァァァァ!】
大蛇丸は断末魔を上げ、そのまま消えて行った。
[ペッ……汚い蛇を噛んじまった……さて、私は帰るとしよう……そこの……剛とか言ったかな?お前……もう少し、非科学的な事にも対応しないとな……時一族のパートナーであるならばな……コォォォォォン!]
狐は一鳴きすると、その姿を消した。
守人は剛達の所に歩いて来る。左手には、いつの間にか手袋をしていた。
「剛、大丈夫か?」
「……お前のパートナー、大変だな?」
「辞めるか?構わんぞ?」
「フッフッフ、誰が辞めると言ったね?大変だが、辞めたいとは思わんのだよ!まだまだ甘いね、明智君!」
「だ~れが明智君だよ、本当に……所で桑門さん、どうかな?」
「……私は、大蛇丸を倒せば向かう所敵無しだと思っていた……修行も、これで終わりだと……自分の浅はかさを感じる……上には上が居る。私等、まだまだ半端者……明日、村人達に挨拶をして旅立ちます」
「それがいい。大蛇丸は、桑門さんが倒した事にしといてね!」
「……それは……」
「いいんだよ、桑門さん!守人は表立って活躍出来ねぇし、俺は役に立ってねぇし……」
「剛、自分の無能さに気付いたか?」
「馬鹿なのか?遠慮して言ってんだよ!」
「何したよ?」
「買い物しただろ?」
「俺の金だぞ?」
「俺の足で行ったんだ!」
「……お2人を見ていると、自分が小さく見えます……守人殿、誰かが大蛇丸を倒した……それで如何かな?……剛殿、私は誰かを呪わない様に、これからも精進します」
「頑張って、桑門さん!」
「何年か修行し、疲れたら……北の方に小さな村が有る。そこで休んで、気に入れば住めばいいさ」
「……そうします」
「所で桑門さん、その懐の水晶だけどさ~……」
「これですか?……これが何か?」
「それ、貰えないかな?」
「構いませんけど、大した物ではございませんよ?」
「でも、お前の一族の宝だろ?」
「そうですが……守人殿には必要は……」
「それでも欲しいな~……」
「おい、守人……」
「どうぞ、こんな物で良ければ!」
守人は水晶を桑門から貰った。
「では……私は明日、あの村を立ちますので……もう会う事も無いと思いますが、失礼致します」
桑門は頭を下げて帰って行った。
「さて、俺達も帰るか?」
「そうだな……所で、その水晶……」
「おう、五行さんから貰った水晶だ」
「どうして……」
「五行さんの一族と、桑門さんは関係を持つのさ……ここじゃなければ、悲運じゃ無くなる……それだけさ」
「成る程……大体解決って訳だな、この俺の活躍で!」
「だ·か·ら、何の活躍したんだよ?」
「買い物だって言っただろ!」
「誰でも出来んだろ!」
「それでも、俺のお陰だ!」
一件落着の様なのだが、何故か言い争いをする守人と剛である。有る意味、ナイスなコンビである。
解決編は次回……かな……