STORY1 剣術で痛い思いするのはもう懲り懲り
アッシュ・シュラック(五歳)から、だいぶ時間が過ぎる。俺もついに十歳となった。とても喜ばしいものなのだが、俺の家は大して裕福でもなく、貧乏でもない。そのため、普通の家で、普通の子供として生まれ育っている。
だが、父さんが騎士団に所属しているため、毎日のように剣術の腕を鍛えられている。初めて剣を持った時は、
え、マジか。子供にそんなん持たせる?
とか、思ったが、郷に入っては郷に従え。この世界では常識のようだ。父さんの教えのもと、剣術を磨き、ある程度は成長できた。あとは、魔法だ。
姉であるシーシェルは魔力に恵まれており、十一歳でありながら、とてつもない魔法の才能に恵まれていた。と言うのは、ゲーム通り。
ゲームのスタートではこのような、幼少期時代は描かれていなかったが、回想や、キャラエピソードで見れる。と言っても一部だけだ。
シーシェルに婚約の話だとか、シーシェルの可愛らしいエピソードだとか。もちろん、コンプリート済み。
貴公子の中にたしかに推しはいたが、どっちかって言うと主人公が好きだった。ゲームの主人公というと、シーシェルの事ではあるが、あの可愛らしい顔にすべすべの肌。それはまさに“女の子”だと思った。
(それはいいんだけど、まさかそんな憧れ的な存在であるシーシェルの弟とか…。せめて、兄か姉がよかった)
とか、思うも実際に兄姉の存在は元々ない。そのため、おそらく転生も出来なかっただろう。
(そう考えると、マシ……なのか?)
多少モヤモヤはある。というより、ある意味弟で良かったと思っている自分が居るのは、確かであった。
「アッシュ、しっかり相手の動きをよく見るんだ。いいな?」
「はい、父さん」
今は父さんと一騎討ちという状況だ。毎日であるこの状況には、だいぶ慣れる。剣と言っても木刀だ。その為、当たるとガチで痛い。
特に脛に当たると泣きたくなるぐらいだ。
(次こそは………絶対勝つ!!)
剣術を鍛えられたとしても、一回も父さんに勝った覚えはない。だから今度こそは!と、燃えたぎっている。
今俺の目は、炎でバチバチに燃えているだろう。
木刀の握る部分を持ち、そこは柄と言うらしい。
「さ、行くぞ!」
「はい!」
父さんの掛け声で、俺は足踏みをする。背を低くし、父さんの下から一気に持っていこうと言う、魂胆だ。
「だから言っただろ?この前も。相手の動きをよく見ろって」
(———なっ!?)
横を見ると、そこには横へ流そうとする木刀が迫ってきている。
まずい、負ける。とかじゃなく、
(あ、絶対痛いの来る…)
だった。
(いやぁ!!あれ絶対痛い!横腹来る!!何度も体験してきたよ!!)
心のうちで叫び散らす。それはもう悲痛な叫び。と言うより、もう辞めたいだった。
木刀での攻撃は、前世を思い出させられる。それは、俺——いや、今は私でいい。私のお父さんが鬼怒った時は木刀で血相を変えながら、振り下ろそうとしてくる。
それは虐待ですか?と、言いたくなるほどだ。でも、一度も振り降ろした事はない為、怪我をしたことは無いが、この世界ではばり怪我する!!
(ぐっ、もう怪我するのは嫌だ…!)
必死に今の体勢から避け、手先を変える。持っている木刀で父さんが持っている木刀を、跳ね返す。
「………!?」
無我夢中だった為、何が起こったのかは整理が追いつかなかったが、父さんには勝っていた。
(え、やった)
「………よくやったな!アッシュ!」
「ありがとうございます。父さん」
父さんの大きな手で頭を撫でられた。それはそれはもう嬉しいものだった。
その後は、後から来た母さんとシーシェルが嘉賞した。
家の外にある庭にて、母さんとシーシェルが用意してくれた紅茶と、洋菓子を食べる。ガーデニングテーブルにティーカップとクッキーが入っている皿を、テーブルの上に置き、ガーデニングチェアに座り、口の中にクッキーやら紅茶やらを運び入れた。
口の中にはバターの風味が広がり、紅茶は苦くもなく甘ったるくもない。
「母さん、この紅茶は?」
「それは、ローズヒップよ。どう?美味しい?」
「はい!とても!」
ローズヒップがこのゲームの世界にあるのは、初めて知った。
「ねぇ、アッシュ。後で魔法の練習に付き合って」
「あ、待って。シーシェル。シーシェルに縁談の話が来ているわ。どうする?」
「えー、嫌だよ。私は好きな人と結婚するの!」
微笑ましいと思えばいいのか、早すぎないかと思えばいいのか、複雑だ。どうやら、この世界では年齢など関係ないらしい。
「ちなみに相手は、子爵家の人よ?」
「嫌だ」
むすっとした顔で、プイッと母さんの顔を見ない。十一歳ならまだ仕方ないのかと思う。まだ子供であるシーシェルにそんなこと言っても、無駄だと俺は思う。
(俺はこのゲーム世界で青春をするんだ)
紅茶をズビーと飲み、口の中にローズヒップの味が広がる。
(早く五年後になってくれ)
十五歳になった時、王国の学校に通える為、シーシェルと一年遅れてと言う風になるが、成績が良ければ、飛び級が可能である。
(猛烈に勉強するしかないな…)
前世の俺だったら、もう勉強は嫌だー!なんて言ってただろうが、未だに一応原作はスタートしていない。