STORY 0 プロローグ
私は今、大変な光景に陥っている。
それは私がやっていたゲーム——乙女ゲームであるが、課金アイテムを買おうと思うにも、金欠だった。それは私に取っては大問題。乙女ゲームに出てくる貴公子達のキャラエピソードを見るためには、別料金を払わないといけない。
本来なら「その為にわざわざ高い料金を払うの!?あー、諦めよう」と、本来の私ならそうしていた。だけど私は、推しのエピソードを見るには絶対に外せない!
ちなみに、そんな別料金の値段はパックで一万五千円だ。たかがゲーム如きでそんなお金を注ぎ込む人は、ガチ勢かもしくは推しのストーリー見たいからか。まぁ、必ずしもそうだとは限らない。
「はぁ…、バイトで貯めてたお金、一銭もない」
その前に金欠である。金欠はお金が一銭もない。と言うことは、買えない。と言うことは、ストーリーを見れない。と言うわけ。
「………どうしよう。いや、落ち着くのよ!東堂美影!二十五歳!私は、大学友達に勧められて始めたのがきっかけ!彼氏いない歴=年齢である私を日々の疲れから癒してくれたのが、乙女ゲーム!そんなJk時代では味わうことのできなかった、青春!恋愛!そんな乙女ゲームに、推しのストーリーを見る為なら、私は買うわ!!」
灰色のジャージを身に纏いながら、私は意気込む。お金の方に関しては、両親に借りよう。大丈夫、バイトで返せば問題ない。今までだってそうしてきた。
と、自分を慰め?をする。その為、自宅から実家までの距離は車で往復一時間。その為、全然かからない。
「格好は………このままでいっか」
灰色のジャージとメガネ。別に目が悪いと言うわけではない。別に自堕落な生活というわけではない。顔も………そこそこだと思う。だけど、恋愛をする暇がなかったのだ。
中学時代に高校時代、そして大学時代、ある程度の学歴が必要だと感じた私は、勉強に身を捧げた。その為、美容などに関しては疎い。
女友達とかに合コンに誘われたとしても、メイクが下手なためか、毎回笑い物だ。
メイクの勉強をしようと思うにも、またお金がない。原因としては知っている。お金があれば買えるのだ。それを乙女ゲームに注ぎ込んでいるのが、今の現状である。
スマホを手にし、財布を手にし、私はいざ自宅の扉を開け、すぐそこにある車に乗り込む。
車を飛ばし、いざ実家へ向かう。と、言った途中で目の前から信号無視したトラックが突っ込んでくる。
「え、嘘!?」
避けようと思うにも、判断が遅すぎた。私とトラックは接触してしまい、歩道の方に私の車は突っ込み、そのまま思いっきりハンドルにぶつかり、私の意識は辛うじてのものだった。
「あ、うそ……私……死ぬのかな……彼氏……作りたかった………」
と、最期の願いを言い、瞼が徐々に重たく感じる。私に死後が訪れたのかと、直感的に感じてしまった。
ーーーーーーー
(あれ、目を開けることができる…)
先程までトラックと接触したはずなのに、何故か目が開けられる。つまりは、私は死んでいないってこと?目を開けると目の前には、まさに赤ちゃんがいた。
(どう言うこと?私は、病院にいるの?それとも幻覚?)
「マンマ!」
目の前にいる赤ちゃんは、抱き抱えられ、その方に視線を移すとイケメンな男性がいた。お父さんなのだろうか。そう思い、手を伸ばす。すると、私の目の前に現れたのは、モチモチとした赤ちゃんボディ。と言うのも、手が短い。
(明らかに私のではない……)
お父さんと思われる人に、抱き抱えられている赤ちゃんはずっと私の方は手を振っていた。かわいい。
「あぎゃあ!」
(…………!?え、私の声!?)
私から発せられた言葉は、まさに私の声じゃない。いや、そもそも二十五歳である私がそんな赤ちゃんみたいなことは、言わないはず。と言うことは——どう言うこと!?
向こうからやってきた人は、こりゃまた美人の人だ。この人はお母さんなのだろうか。私を抱き抱える。この異常現象が夢ではないのだとしたら、私は病院で眠っていたわけではないらしい。
(………ほんとに誰か説明をプリーズ)
絶望的状況は、こう言うことだろう。
ーーーーーーー
そんな日から五年と言う時間が故に超えた。大人の時間は短く、子供の時間は長い。と言うのは、本当なのかもしれない。時間に追われる日々で無くなったことは、確かであるが、家族や友人に会えなくなると思うと、やはり寂しい。
そして五年の月日を得て、私はなんとなーくだが現状が分かった。
私は転生と言う事を体験したようだった。死後の世界というわけではなく、転生した。そこは異世界に。とも感じたが、私の姉———ミラの姿を見て分かった。彼女は今は全然六歳の子供であるが、髪の色、そしてその綺麗な瞳。
私がハマりにハマっていた乙女ゲームの、主人公であり、貴公子たちが攻略対象。ヒロインであるシーシェル・シュラックであるという事。つまり、ここは私がプレイしていた乙女ゲームの世界というわけだ。
ということは、私はどういう立場?シーシェルには弟とか妹とかはいない。だけど、発売当初では“弟”の存在はあったが、のちに消されてしまっている。
(………と言うことは?)
私は慌てて、鏡がある方向へといく。五歳である私の足力で駆け走り、棚の上にある鏡で自身の姿を見る。そこには黒髪の“少年”がいた。
(ど、どういうこと!?)
つまり私は、いや。もう僕が俺でいい。慣れないけど。
つまり俺は、乙女ゲームの主人公、そして公式側から消されてしまった弟に生まれ変わっていた。
(嘘…。せめて、架空でもいいから妹がよかった…)
だが、公式側が出したifストーリーでは、妹がいたと言う設定だった場合、悪役令嬢とかそう言う立ち位置になって居たそう。
(やっぱ、人が嫌がることはしちゃいけないよね)
そう思い、俺はこの世界で生きていくことに決めた。だが、何か忘れているような———。
「『アッシュ』何やってるの?」
母親であるローズに抱き抱えられる。自身が男であると思うと、意外と甘えたくなった。
ちなみに、俺はアッシュと言うらしい。アッシュと言うのは、灰色を意味指す。なお、ネット上の知識。
「アッシュ〜…遊ぼう!」
俺の姉であるシーシェルの瞳は、やはり吸い込まれそうな瞳だ。ややピンクっぽい色であるが、俺自身もそんなことは言えない。俺の瞳色はどうやら灰色らしい。
シーシェルは父親、俺は母親に似てしまったと言うわけだ。
「うん、いいよ」
シーシェルに手を繋がれ、純粋無垢であるシーシェルの後ろ姿を見ながら、家の外に出た。
家の外は広大な草原で、晴天な空には、大きな鳥とかが飛んでいる。俺がやっていた乙女ゲームの世界は、ファンタジーチックであると言うわけだ。剣と魔法の世界で、令嬢や貴族なんかも存在する。
おまけにドラゴンや神話上の生き物。ある程度ではあると思うが。
そんな非現実である世界に、俺は飛び込んでしまった。だけど、シーシェルは学院に入学すると、貴公子たちから猛烈なアピールを喰らう。それはやっている主人公からしたら、嬉しい限りであるが、それをそんな主人公の弟。と言った立場から見たら、どう変わるのか。それは多分———惨めに思えるだろう。
(早く学生になりたい)
学生になって青春を味わいたいと、思ったが、忘れていた。俺は一応は架空の弟。それに、どう繋がりがあると言うことは知らないし、そもそも主人公と同じ姓を持っているため、シナリオ通りには動かない。
あれ?俺のゲーム知識、いる?
そう思った時、学生であることに意味があるか?と感じたため、自由に生きよう。うん、なんかもう。男になったんだって自覚すると、貴公子なんてなんとも思っていない。
(何目指そうかな……)
と、五歳であるアッシュ・シュラックもとい、俺だがそう思う。俺が存在したと言う時点で、シナリオ通りには動かないと言うことは、火を見るよりも明らかであり、明白な事実だ。
草原に横たわりながら、姉であり、このゲームの主人公であるシーシェルの純粋無垢で、はしゃぐ姿を見ながら、どうするかを悩む。
きっと、俺の人生は少しずつ変わる。と、何故か直感してしまう。乙女ゲーム関係あるか?と。