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暁の歌、響け世界に 《地の巻》  作者: John B. Rabitan
第2部 妖魔
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2 青木先生

 校舎のはずれの離れとなっている平屋の部室棟、そのドアを開けるまではかなりの勇気が必要だった。

 突然また俺が来たらみんな驚くのかな、あるいは不思議そうな顔をするかなと、いろんな予想の選択肢が浮かんでは消える。

 だが意を決してそのドアを開けると、一斉に


「「「「こんにちはぁ!」」」」


 そんな明るい挨拶に包まれて、俺は一瞬戸惑った。


「山下君、そんな入り口で突っ立ってないで座りなよ」


「あ、はい。何となく来ました」


 この間と同じ位置に座っていた島村先輩が、眼鏡の向こうの笑みを含んだ目で俺を見た。

 俺は遠慮することなく、やはり前と同じ場所に座った。


 見渡してみると、チャコ、悟、美貴、そして名前は聞いたけれどもう忘れている一年生女子もいた。

 もう一人の一年生は今日はいないようで、ほかに初めて見る顔が三人、男子一人と女子一人だ。

 学年はわからない。

 この位置からだと足元はテーブルの下だし、すでに昇降口を出ているからここはみんな土足だ。上履きのラインの色を確認しようがない。


「ピアノたち、自己紹介」


 笑いながら島村先輩が促す。


「竹本ひろみでーす。ピアノって呼んでくださぁい」


 変なニックネームだけど、名字を聞いたらすぐに由来はわかる。


「僕は普通の高校生、名前ははると、谷口大翔(はると)です」


「ワレは智慧の天使ケルブ、人間としての仮の名は藤村結衣」


「はあ」


 だいぶ免疫はついたとはいえ、やはり少しは呆気に取られてしまう。表の看板も、堂々と「中二病研究会」にしたらとさえ思う。


「ところで山下君。君のフルネームは?」


 島村先輩に尋ねられて、山下康生(こうせい)と名乗った。


「実はここではね、そういう決まりがあるわけじゃないんだけど、習慣的に同級生や下級生に対しては下の名前かニックネームで呼ぶのがふつうなんだ」


 まあ確かに、その方が互いの距離は近くなるかもな。


「でも、康生君、来てくれたんだ。どうもありがとう」


 チャコがさっそくにこにこしながら名前読み。

 クラスにいる時よりもなんか生き生きとして輝いてるな。


縁生えんじょうの糸を手繰って集いし因縁の魂がまた一人」


「ケルブ、抑えて抑えて」


 高らかに謳いあげていたケルブこと藤村結衣を太った悟が制した。皆がそれを笑っている。

 なんとも和やかな空間だ。心が癒される。俺も緊張が解けて、口元が緩んでいた。


 別のクラスの同級生女子の美貴が俺を見る。


「そういえば康生君、あれから現研の方は?」


「ああ、それが、今日の昼休みに会っちゃってね。三年生の城田っていう人と」


「ああ。あれか」


 島村先輩がうなずく。


 俺はその城田という人から、この部活がサタンの集団だって言われたことをここで話していいものかどうかためらっていた。


「あの人、自分たちを光の天使とか言っていましたね」


 自らを智慧の天使と名乗ったケルブを少し意識して横目で見て、俺は言った。実際、さっきのケルブの自己紹介で天使という言葉が出たので、俺は何となく城田の光の天使発言を思い出していたのだ。

 たしかにあの城田という人は、外見だけなら「僕の天使」とでも言いたいくらいだ。だがそれは宗教なんかにハマってさえいなければというのが前提で、今の状況では堕天使にも思える。


「それで私たちのこと、サタンの集団とか言ってたでしょ」


 美貴は鋭い。

 まさかとは思うが、島村先輩はここにいる人たちが皆何かしらの能力を持っているって言ってた。美貴という人にとって相手の心を読むのがその異能なのか……いやいやいや……俺はアニオタではあっても中二病ではなかったはずだ……


「サタンの集団か……」


 島村先輩は笑っていた。そして笑ったまま、さらに言った。


「あのハッピー・グローバルって宗教の教義は僕も読んでみたことがあるけど、でも実にいいこと言っているんだ。大筋では間違ったことは言っていないんだよ。ただ、霊的にやばいっていうのはこの間も言ったけどね」


 何だろうと、俺は島村先輩の次の言葉が気になった。


「やばいのは、僕らのこの部をものすごく敵視していることだよ」


「え?」


 なぜそれが霊的にやばいということになるのだろうか。


「僕らは別にあの人たちの教義を批判したり、否定したりしたことはないし、ましてや攻撃的になったこともない。論争したこともないし、妨害したこともない。それなのになぜか目のかたきにされてるんだよな」



 その時、入り口のドアが開いた。

 入ってきたのは……俺の担任でもあり、この部の顧問だと聞いていた青木先生だ。


「「「「こんにちは!」」」」


 またみんな一斉に笑顔で、そして大きな声で挨拶をする。


「お、やってるね。ちゃんと研鑽は積んでいるか?」


 そう言って入ってきた青木先生は、ふと俺に目を止めた。


「おや、山下じゃないか」


 少し驚いたような顔を見せた青木先生は、すぐに座った。そしてまた俺を見た。


「そうか、転入早々、もうここに出入りしていたのか。実は部活は決まったかって、そろそろつかまえて聞いてみようと思っていたところなんだけど」


「はあ」


 俺は軽く会釈をする。


「まあ、ここは僕が作った部だからね。僕が歴史の真実を追究するそんな部活を作りたいと思っていたら、因縁の魂がどんどん吹き寄せられてきた」


 おいおいおいおい、まさか先生まで中二病? それ、まずいでしょ、だめでしょ。

 もちろん、そんなこと口に出して言えない。

 ただ、ここは部活動を作ってそれから顧問を頼んだというような感じではなく、最初に青木先生ありきだったんだということらしい。


「聞いていると思うけれど、ここは入部届とかないし入部するとかしないとかないから、来たいときに来ればいいんだ。勧誘もしていない」


「はあ」


「表の看板にもある超古代は、普通の日本史や世界史の時間に教わる古代文明のことではないよ。歴史の先生が聞いたら顔をしかめるかばかにするようなことなんだけど、歴史の時間には習わない超太古の歴史があるんだ」


 そのへんに関しては、俺も興味津々だ。

 先生は席を立って書棚の方へ歩き、そこにあったラノベでも漫画でもない数少ない分厚い本を出した。


「この史料には、失われた超古代文明の記載がある」


「先生」


 太った悟が手を挙げる。


「質問?」


「いいえ」


 悟は手を下ろしながら、あくまで穏やかに言った。


「その手の話は、もうちょっと俺たちのランクが上がってからの方がいいんじゃないですか」


「そうだな」


 青木先生はにっこり笑って、本を書棚に戻した。

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