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暁の歌、響け世界に 《地の巻》  作者: John B. Rabitan
第2部 妖魔
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1 サタンの集団

 なんだかんだで俺がこの学校に来てから、四日ほどたった。


 チャコにはあのことがあった翌日に軽くお礼を言っただけで、いつも放課後になるとさっさといなくなるから話をする機会もなかった。

 部室に直行って感じなのだろうか。


 だからチャコからあの超古代文明研=中二研(?)の部室に誘われることはなかった。

 やはり勧誘はしないというのは本当らしい。

 だからといって俺を避けているというふうもなく、普通のクラスメートとして接してくれてはいる。


 もっとも俺は席が近い男子とつるんでいることが多いし、彼女と話す機会はあまりなかった。

 だけれども、チャコ(クラス内では朝倉さん呼びで通しているけど)の様子を見ると、たいていひとりでいることが多かった。

 誰とも話していないというわけではないけれど、そういう場面は少ないように思う。

 やはりあの部室が、彼女にとって唯一の居場所なのか……


 そしてこの日は朝にコンビニに行きそびれたので、昼休みに購買のパンを買いに行った。


 この学校の昼の購買はすさまじい。


 四限の授業も終わりに近くなると、購買派の生徒はそわそわと浮足立ってくる。そしてチャイムが鳴り、先生が授業の終わりを宣し、日直が号令をかけるころにはもう半分腰を浮かせている。

 そして「礼」が終わると同時に一斉に教室を飛び出し、購買へと走る。ほかの教室からも同じように飛び出してきた人たちと混ざり合ってすごいうねりとなる。

 そもそも廊下を走ったら先生に怒られるが、この時ばかりは先生たちも黙認せざるを得ないようだ。

 世にいう「購買マラソン」、あるいは「購買ダッシュ」と呼んだ方がいいかもしれない。

 転校前の学校は購買なんかなかったので、こんな光景は俺には新鮮だった。


 もちろん俺が最初からそんなマラソンに参加できるはずもなく、ただただ圧倒されて売れ残りを買う羽目になった。


 この日は何とか手に入れたパンの袋を片手に、教室に戻ろうと階段を上った、そのとき、上から降りてきた女子と目があった。

 俺は全身が硬直しそうになったけれど、何とか足だけは歩いていた。


 胸が鼓動を打つ。


 相手も俺を見て「あら?」というような表情をしたが、俺は軽く会釈しただけで擦れ違おうとした。


「山下君……だったわよね」


 いきなり城田という名前を記憶していたその女子生徒に呼び止められた。あの現研の小川という三年生の先輩と一緒にいた女子だ。

 足元を見ると上履きに赤のライン。小川と同じで上級生だったのだ。


 実は昨日初めて知ったのだが、この学校では上履きのラインの色で学年が分かるようになっているらしい。

 赤は三年生、俺たち二年生は緑、一年生は黄色だ。

 もちろん転校当日のあの時はそんなこと知らなかったので上履きなんか見なかったけれど、もし知っていたら足元見て同じクラスだというのが嘘だとすぐに見抜けたはずだ。


 向こうも俺が転校初日だからそんなこと知らないと踏んでいたのだろう。


「先日はご苦労さま」


 なんか拍子抜けするような言葉だ。俺も立ち止まざるを得なかった。


「ずいぶんお早いお帰りだったようで、まあ、いいわ。でも、ひとつだけ忠告しておく」


 彼女は俺を階段の踊り場の隅にまで誘導した。


「あなたをさらっていったのは、中二研の人よね?」


「え、まあ……」


「中二研だけはやめなさい。あそこは危ない」


 危ないって、自分たちは宗教の偽装サークルのくせに、いったい危ないのはどっちだよと俺は思ったが黙ってた。


「あそこは悪魔、つまりサタンの集団よ」


 また突拍子もないことを言う。俺に逃げられたから、自分たちの勧誘が阻害されたから腹癒せにそんなこと言っているに決まっているけど、ちょっとひどいよなあと思う。

 とにかく俺は、返す言葉もない。

 こんなとき「大きなお世話だ」と言い返す度胸が俺にあればいいのだが。

 もっとも、そこまであの中二研を擁護する筋合いも俺にはない。だから黙って聞いていた。


「いいこと? 『新約聖書』の最後にヨハネの黙示録ってあるでしょ」


 あるでしょって言われても、そんなの知らんがな。


「人類の終焉間近、ハルマゲドンを目前にして、天使と竜との戦いが描かれている。私たちハッピー・グローバルは」


 もう、宗教であることを隠さないんだな。


「その構成員はみんな光の天使なの。最後の時に竜と戦う光の天使。私もその光の天使の一人」


 これが中二病的発想なら可愛いものだけれど、宗教となると話は別だ。そこには洗脳とかマインド・コントロールとかあるからなあ。


「そしてあの中二研の人たちは竜。この竜というのが何を表すか、わかるわよねえ」


 いいえ、わかりません。でも俺は、黙っていた。


「竜は悪魔、サタン」


 とにかく早く帰ってパンを食べないと、昼休みが終わってしまう。


「ご忠告、ありがとうございます、失礼します」


 城田先輩はまだ何か言いかけていたけれど、俺は無視して階段を上った。


 今まで小川とも城田とも校内で顔を合わせることはなかった。

 学年が違うことが幸いしたようで、三年生は校舎の中でも教室の階が違うから、あまり顔を合わせずに済む。

 でも、とうとう会ってしまった。


 これからもあまり会うことはないだろうと思っていたけれど、なんだかとにかく胸糞悪い。


 そんな俺はこの日の放課後、一人で中二研(?)の部室へとふらふらと足が向いてしまった。

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