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暁の歌、響け世界に 《地の巻》  作者: John B. Rabitan
第9部 南高祭
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7 文化祭実行委襲来

 それからは、急に忙しくなった。

 来場してくる人たちは決まって「ここって除霊やってくれるんですかあ」とか聞いてくる。

 だいたいは他校生徒だ。

 本校生徒には我われの部は、アニメオタクの中二病の集まりとしか認知されていない。

 いわばどこかの学校のSOS団くらいにしか見られていないのだ。


 俺たちはそんな他校生徒の応対で大変だった。

 おそらくは先程の美咲さんへの救霊をたまたま来場して目撃していた人たちが、自分と同じ学校の人へ口コミで広めていったのだろう。

 あるいはネットで拡散したやつもいるのかもしれない。


 まずは自分たちが除霊やお祓いなどやっていないことを伝えて、通常の展示のピラミッドパワーの方のパネルを見ていってもらうように促すのだけど、そこでもう落胆した様子で回れ右の人も少なくなかった。


 中には、先ほどやってたのを見たという人から直接聞いたという人もいたが、除霊と救霊の違いを説明するのも面倒なので、とにかくやっていないの一点張りに徹するというのが今の部長である悟の方針だ。

 島村先輩もそれでOKした。


 本当に話を聞いて必要を感じた人は救霊をすることに島村先輩は同意だとは言うけれど、なにしろできるのが先輩一人である。

 まさか青木先生に来てもらうわけにもいかない。

 それに、依代役のピアノは、もう自分のクラスの出し物の方に戻ってしまっている。

 やりたくてもできないのだ。


「ここで救霊をしても、カルマの浄化などということを全員に説明しなくちゃならないし、あらかじめ説明パンフレットでも作成していればよかったけれど、そんなのないしな」


 島村先輩が言うように、あの美咲さんの救霊を行ったのはあくまで想定外のことだった。だから当然のこと、パンフレットなどの準備もしていない。

 そこで島村先輩は、部室から持ってきた余った模造紙に赤いふとマジックで、「当研究会は救霊やお祓いは本日はもうやっておりません」と大きく書いて、入り口に貼った。

 さらに紙には隣に黒の少し細い字で、「またのご来場をお待ちしています」とも書いた。

 またのご来場といっても、文化祭は今日で終わりなのである。


「それに不特定多数の人に無差別に救霊して、またカルマの付け替えとか起こったら困る。こういうことは面白半分、興味本位で来る人にするべきではないよ」


 そんな感じで、来場者が押しかけている状況は少しだけ緩和された。

 とりあえず俺たちは、一息ついていた。考えてみれば、まだ昼飯も食っていない。 時間はもう二時を回っていた。


「あのう、こちらの部の代表の人は?」


 入口の方で大きな声がした。すぐに悟がその声の方へ出た。俺も先輩もチャコも美貴も、そろって悟とともに出向く。その声がただ事でないことを察したからだ。

 案の定、そこには文化祭実行委員長はじめ委員の人たちが雁首そろえて立っていた。


「部長の松原ですけど」


 悟が名乗る。委員長の男子は黒眼鏡の淵をちょっと触って、レンズを光らせた。


「この部の展示は、ピラミッドパワーや古代ピラミッドについての研究発表でしたよね」


「はい、そうですけど」


「なんか小耳にはさんだんですけど、この部の展示の中で交霊術みたいなことをやって見せてるって話なんですけどね」


 俺は一瞬やばいかなと思った。でもすぐに、美貴が小声で俺にささやく。


「大丈夫。なんとななる」


「申請のあった展示内容以外のことをされたら困るんです。そのことは、参加団体協議会の時に言ったはずなんですけどねえ」


「でも、これ見てください」


 悟が入口の、委員長が立っているすぐそばの張り紙を示した。


「この部では除霊とかお祓いはやっていないって書いてありますよね。ましてや交霊術なんてものは見世物でやったりもしませんし、だいいちやるべきことでもないでしょ」


 委員長はその張り紙をじっと見た。そして悟に視線を戻し、そしてその後ろで塊になっている俺たちもさっと見渡した。


「どういう意味でやるべきではないと言うのかわかりませんけどね。でも、この紙には『本日は』と書いてありますよね。ってことは、昨日までと、そして午前中はやってたってことですか?」


 文化祭は今日までだからあえて「またのご来場を」とウケ狙いの冗談で書き、「もう明日はないじゃない」という突込みを期待しての島村先輩のユーモアだろう。

 だが、それが裏目に出てしまった。

 委員長は別の角度で、俺たちにとっては都合のよろしくない突っ込みをしてきた。


「それはまあ、軽い冗談で」


 悟が島村先輩をフォローする。


「ちょっと中を見せてもらっていいですか?」


 そう言われて、断れる立場ではない。

 でもその時……


「ちょっと待って」


 チャコが大きな声を出した。

 そして悟や島村先輩に小声で言った言葉は、もちろん俺にも聞こえた。


「妖魔が、すごい数の妖魔が来てる。どれもあとからあとから」


「たしかに」


 悟も振り返った。


「すごい黒いオーラに包まれはじめたな、この部屋は」


 そうなると、単に職務上の調査で、委員会はこの部の展示会場に来たのではないということなのだろうか。


「その通りよ、康生君。少なくとも委員長はまじめに職務として来ているけど、そうじゃないのが委員の中に一人いる。何とかこの部の展示を邪魔しようと敵意丸出しで来てる委員が一人いるわね」


 美貴もそうつぶやいていた。

 だけれども、霊が先ほどのように浮霊するか依代の口を使っての対話状態にならないと確かめることもできない。

 皆で一斉に浄化魔法のエネルギーの玉を投げることもできるけれど、今それをしたら委員長や敵意のある委員以外のほかの委員の感情を刺激してしまう。

 得策ではない。


「敵意丸出しなのは、あの人よ。あの後ろの女子」


 美貴がそっと俺たちだけが聞こえる声で言った。

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