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暁の歌、響け世界に 《地の巻》  作者: John B. Rabitan
第9部 南高祭
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2 南高祭一日目

 そんな感じで午前中はほとんど閑古鳥が鳴いて、時間が過ぎていった。


 美貴とチャコがどこかのクラス企画の出店で焼きそばを人数分買ってきてくれたので、それを誰もいないパワー実演コーナーで食べたあとの午後になって、少しは人も入るようになった。


 そのとき、入ってきた何人かの男子が俺を見て声を挙げた。


「あれ? 山下じゃん」


 振り返ると同じクラスの、俺と割と席が近い鈴木とか上田とかその一派だ。


「何してんだよ、こんなところで」


 鈴木が不審そうに首をかしげる。


「何してるって、展示だけど……」


「おまえ、まさか、この中二研の?」


「一応、部員だよ。ってか、中二研じゃねえんだけど。超古代文明研!」


 やつらは互いに顔を見合わせて、苦笑して首をかしげ合っていた。


「まさか中二研に入ったんか?」


「だからあ、超古代文明研」


「それはそれでやばそうだけど」


 鈴木はそう言って、展示されている模造紙のパネルやピラミドをさっと見回した。


「B組の風船屋の方には全然来ないからなんか文化系の部活に入ったんだなとは思ってたけど、まさか中二研とは」


「まあ、見てってくれ。ちゃんとまじめに研究やってるんだから、中二病の集まりじゃないってわかるだろ?」


「だって、このパネル、去年と同じじゃん。去年も来たし」


 上田が笑う。

 そう言われたら元も子もない。まじめに研究してるって言うのも後ろめたい。


 ふと気づくと、やはり同じクラスのチャコはあまりかかわりたくないらしく、実演コーナーの方に隠れてしまっている。


「ってか、さあ」


 鈴木がにやにやして俺をつつき、顔を近づけてきて小声で言った。


「おまえと朝倉、つきあってんじゃねえかって、みんな言ってんぜ」


「ちょっと待って。なんだよそれ」


 いつの間にそんな噂が流れてるんだ? そもそも「みんな」っていうのがどの範囲まで広がるかは疑問だけど。


「だって、お祭りの夜に、浴衣の朝倉とおまえが仲良く歩いてたの見たってやつがいるぜ」


 ああ、根も葉もない噂ではなかった。でも否定しなきゃ。


「あれはこの部活全員でお祭りに行って、帰りに俺とチャコ、朝倉だけがたまたま変える方向が同じだっただけで」


「まあ、それはどうでもいいよ」


 鈴木たちと一緒に来た奥村というやつが、口をはさんだ。


「本当は、もしおまえが朝倉と付き合ってるんなら、あいつは強度の中二病だからやめとけって忠告するつもりだったけど、おまえもいっしょに中二研か。なんか妙に納得いったし、同類同士でいいんじゃね?」


「同類っていうんじゃなくって、同じ眷属? 同じ属性?」


 ニタニタして言う鈴木の腹部に俺は苦笑しながら軽く腹パンを入れた。もちろん寸止めだ。


「まじ引くわ」


 鈴木がさらに笑う。


「まあとにかく、もう一度ザーッと見てってくれよ」


 俺はやつらをパネルの方へ押しやって、その後ろ姿にため息をついていた。


 最後のヒーリングパワーのところを、杉本というやつがやけにじっくり見ていた。


「なんだかこれ、このパワーですごい奇跡が起こるようなこと書いてるけど、こんなパワーじゃなくても奇跡は起こるぜ」


 杉本は少しだけ真顔で俺を見て言った。


「ウチの姉貴が二、三日前、頭痛で意識失って町で倒れたんだけど、なぜか急に嘘のように頭痛が消えて元気になって、それでも回りが救急車呼んでたから一応病院でCTスキャンとか診てもらったらしいんだけど」


「え?」


 俺の脳は一瞬固まっていた。杉本はかまわず話し続ける。


「そうしたら明らかにくも膜下出血の痕跡があったけれど、完治してるって。医学的にはこんなことはあり得ない、奇跡だって医者も騒いでたそうだぜ」


 俺は少し間を置いてから、杉本の肩をゆずぶった。


「お姉さんに会わせてくれ」


「だめだよ」


 杉本は笑っている。


「姉貴とはずいぶん歳離れてるし、もう大学出てて社会人だぜ。しかも彼氏いるみたいだし」


「いや、そんなことはどうでもいいんだ。その奇跡の話を聞きたい」


「聞きたいって、今俺が話した通りだけど」


「いや、本人の口から聞きたい」


 本当はそうではなく、俺のパワーで癒されたのならその効果を確認したかったし、しかもそのおかげで俺はひどい目に遭った。

 青木先生の話だと、パワーを受けた相手のカルマの清算を俺が邪魔した結果だったから、相手に罪穢があったことの自覚とお詫びについて話さなければならない。俺へのカルマの付け替えはもう何とか切り抜けたみたいで、今さらなんだけどやはりそうするべきだと一瞬のひらめきがあったので、俺は決断しそして実行した。


「明日来るよ。姉貴もこの学校のOGだし、昔の友達と一緒に見に来るって言ってたから連れて来るけど」


「頼む」


 やはり、何か仕組まれていると俺は感じた。



 翌日の俺は、朝から緊張していた。


 もし本当の杉本の姉が来たらどうしようと思っていたのだ。

 いや、杉本は、姉は来ると言った。来たらここへ連れて来るとも言った。

 そうしたら、何か不都合ができたりアクシデントでもない限り、確実に来る。


 昨日はもう一度あの女性に会えるなら、今度はちゃんとカルマの清算ついての話をしようという一瞬のひらめきがあり、それを素直に決断した。

 そして、連れてきてもらうように頼んだ時点で、実行したと言える。


 だが来たところで、どうやってカルマの話なんかするのだ?

 そもそも俺は前世の罪穢とか輪廻転生とか、否定するわけではないけれどそんなに詳しいわけではない。


 ここは島村先輩や坊さんの息子である悟にSOSを出すしかないと、それだけを安心材料にして俺は学校へ向かった。


「いやそれはやはり回復魔法を使った君自身が話さないと意味がないと思うよ」


 島村先輩のひとことで、その安心材料は砕かれた。

 ただ、話すべきことだけは簡単にレクチャーしてくれた。


「要は人の魂は何度も生き代わり死に換わりしているから、みんな前世があって、その前世のしたことが全部今回の人生に影響してくるってことだよ」


「そうだね」


 悟も相槌を打つ。


「いいことでも悪いことでも、とにかく前世でしたことがそのまま自分に還ってくるってことだよな。因果…えっと、応報!」


 今度は悟は間違えなかった。


 なんだか俺自身が分かったような分からないような話なのに、それを他人様ひとさまに話せるかどうか……。


 でも先生は、相手がその話を受け入れるかどうか、信じるかどうかは関係がないと言っていた。とにかく、まずは話すことが大事だと。

 これが新しい安心材料になった。

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