2 模型とパネル作成
翌日から始まった作業は、展示用の模造紙のパネル作りと、ピラミッドの模型造りだった。
なにしろ文化祭まで十日くらいしかない。二学期が始まってすぐなのだ。
大がかりな準備が必要な団体は、夏休み中から学校に出てきてすでに準備を進めていたらしい。
だが我われの部は、模造紙のパネルは去年のがとってあって、それをほとんどそのまま使うことになっている。
一応内容を知っておくべきだと、本番と同様に狭い部室にその模造紙は広げられた。初めての俺や一年生に、ほかのメンバーが説明するという形だ。
一年生の何人かはクラスでの出し物もあって、そっちに駆り出されるためになかなか顔を出せずにいたけれど、この時はなんとか大人数が集まった。
顧問の青木先生はいろいろと忙しいようで、そうそう部室に来ることもできないようだ。
模造紙のパネルは……、
●ピラミッドのパワーとその効果の紹介
●ピラミッドの歴史
●本当に王の墓なのか
●世界に分布するピラミッド
●マヤでは神殿のピラミッド
●日本にもあるピラミッドと隠された超古代文明
この辺からこの「超古代文明研究会」という部活名とリンクしてくる。
でも、話が初めて聞くよな内容ばかりで、俺は面食らっていた。
●人類の本当の進化の過程
なんだかスケールが急に大きくなるぞ。
そして……
●ピラミッドパワー、ヒランヤパワー、人体のバイオパワー
え? いわゆる回復魔法まで紹介しちゃうの? 実演コーナー?
俺が戸惑っていると、島村先輩は一枚ずつパネルを示した。
「まず最初でメインのピラミッドパワー」
ピラミッドパワーというのは、俺も何となく聞いたことがあって少し知っている。
パネルで紹介されていたのは、まずエジプトでのピラミッドパワー発見のいきさつからその効果で、「腐敗の抑制」、「刃物を鋭くさせる」、「ヒーリング効果」、「植物の生長促進効果」、「食品の味をマイルドにする」など、ほとんどが某「ウィ○ペ○ィア」大先生に聞けばわかることばかりだ。
でもその某大先生はピラミッドパワーを大否定して終わるので、それくらいしか引用できない。
ピラミッドの作り方としては、正方形の上に、その正方形の一片の長さ×〇・六三倍(約三分の二)を高さにする三角形を組み合わせて四角錐を作ればOK。側面はなくてもその形に棒を組み合わせただけでも効果はあるとしている。
「ここまで説明して、ピラミッドそのものに興味がありそうな人は次の『ピラミッドの歴史』に順に進んでいってもいいし、パワーの方に興味ありそうな人はすっ飛ばして最後のピラミッドやヒランヤパワーのパネルへと飛んでもいいよね」
すでに島村先輩によって、説明のノウハウの仕方まで始まった。
「どっちにしてもこれから大きなピラミッドの模型を作るし、当日はそれを机の上に置く形で展示するから、下から潜ってもらってピラミッドの中に入ってもらって体験してもらえばいい」
なるほど本当に精神的癒しのヒーリング効果があるかどうかを感じてもらうということらしい。
次のピラミッドの歴史というのは、これもほとんど某「ウィ○ペ○ィア」大先生の言う通りという感じだが、その某大先生の解説はあまりにも詳しすぎるので、それをエジプトと中南米に分けてごくごく簡潔にまとめられている。
「来場者は別に勉強しようと思って来ているわけではなく遊びに来ているだけだから、そんな詳しい説明は必要ないよ」
先輩の言うことはもっともだ。
次に「ピラミッドは古代の王の墓」という定説に対する疑問が簡単に述べられている。
その裏付けのようにエジプト以外のピラミッドの分布図や、特にその次のパネルでは中南米の特にマヤ文明の階段状のピラミッドについて触れている。
そしてマヤのピラミッドは王の墓などではなく、神殿であったことが強調されている。
さらには「日本にもピラミッドはあった」ということで、酒井勝軍とかという昔の学者の名前が紹介されて、その学者が提唱した日本のピラミッドについて解説する。
それによると、日本のピラミッドは人工の建造物ではなく自然の山であり、山頂に方位石を置いて神を祀る場所をしつらえており、それこそがピラミッドの原型なのだという。
エジプトは自然の山がないから、仕方がなく人工の建造物としてピラミッドを造ったというのだ。
これだけでもいささか乱暴な説のように思われるけれど、「ピラミッド」という名称は日本語の「日来神堂」からきてるとなると、まあ、話としてはおもしろいが……という感じだ。
「いやいや、これが実は案外真実だったりしてね」
そんなことを言う島村先輩は大まじめだ。
酒井という学者によると広島県の葦嶽山が日本のピラミッド発見第一号で、ほかに東北や富山県、そして岐阜県の飛騨地方などにピラミッドと思われる山が多いということだ。
それがいわゆる、「隠された超古代文明」となるのだという。
ここで「タイトル回収」ならぬ「部活名回収」、すなわち「超古代文明研究会」という名称が本領発揮ということになる。
そんなふうにして俺たちは以前のパネルの内容を復習したり、破損している部分を修復したり、ピラミッドの模型を造ったりして放課後を過ごしていた。




