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暁の歌、響け世界に 《地の巻》  作者: John B. Rabitan
第7部 夏風邪
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7 見えてはいけないものが見える

 この人たちと初めて出会った頃ならば、例の中二病な話だと片付けていただろう。いや、事実そう思っていた。

 でも今は、いろいろな体験をしている。

 今朝方まで病人だった俺が、健康体として今ここにいるのも否定しようにも否定できない紛れもない事実だ。

 だから決して、俺も中二病になったわけではない。


「小学校三年生のころかな。ある日突然夜寝ようとして電気を消すと、空中をいろいろの格好の人たちが飛んでいるのが見えるようになった。そんなはっきりとしているわけじゃなくてぼーっとだけど、なんだかミニサイズの人間が空中をゆっくり飛び回ってた」


「怖くなかったの?」


 悟が聞く。


「怖かったよぉ。泣きながら親のいる部屋に行って訴えたけど、相手にしてもらえなかった」


「みんなどんな格好してたの?」


 今度は俺が聞く。


「普通の服の人もいたけど、昔の武士とか、着物を着た女とか、血みどろの人とか。それで全然寝れなくて毎日泣いてて、やっとおお母さんに電気をつけたまま寝ていいって言われて、それで収まった」


 小学生でこの体験はきついだろう。俺なんか小学生の時はそんな心霊関係のテレビ見ただけで、夜も眠れなかった記憶がある。


「それが中学生の頃はだんだんと昼間に町を歩いていてもあちこちにいろんな霊がいるのが見えて。それだけじゃなくて、たまに電車に乗ったら、電車に乗っている人の肩に負ぶさっている老人とか、腕にぶら下がっている子供とか、蛇が首に巻き付いている人もいた。でもその本人たちは何も知らないで、普通に電車に乗ってた」


 ほんと、いやだよなあ。俺だったらたまんない。


「最初は怖かったけれど、そのうち慣れた。でもやっぱ気持ち悪いし、見たくないし、だから電車に乗りたくなくて高校は歩いていける今の学校を選んだ」


 なるほど、そういういきさつがあったのか。


「でも、学校でも結構いる。あちこちに。教室の中も廊下も、ふわふわといろんなのが飛んでる」


 俺はなんだか寒気がしてきた。俺は見えないからいいけど、でも見えなくてもいることはいるんだと思うとぞっとする。


「飛んでるだけじゃなくって、クラスの中のみんなにもいろんなのが憑いててね。肩からぶら下がってるなんてざらで、体のあちこちに卵くらいの大きさの霊が半分埋まってるって感じの人が多かった」


 ちょっと待って、まじそれ勘弁! キモさ半端ねえよ。


「なんだか私ほとんど不登校になりかけてた。中学校もだったけど、高校になるとそんな霊が見える状況がめっちゃエスカレートしてて、そんな時に一年生で同じクラスだった美貴が話しかけてきてくれた。授業中、私のことが気になってたって」


「だって、見えてはいけないものが見えてぼやいている心の中が見えたから。『やだやだやだ、またいる。こっち見てる。来ないで!』なんて声が授業中にチャコの心の中から聴こえるんだもの」


「そんであの部室に連れて行ってもらって、青木先生を紹介された。もちろん青木先生は知ってたし、私も青木先生に関して気になっていたことはあったんだ」


「あ、その前に、私の場合はね」


 チャコの青木先生に対して気になっていたということも知りたいけれど、今度は美貴がカミングアウトを始めてしまった。


「私はチャコと違って何かが見えるってことはないんだけど、さっき言ったように人の心の中が全部読めちゃう。その人が今考えていることが声になって聴こえちゃう。それが苦痛で気が変になりそうになったこともあって」


「つまりそれは」


「そう。知りたくもないことを知ってしまうってこと。そして人は外見や態度、言ってることやしてることがどんなに立派でも、心の中では実際どう考えているのか全部わかってしまうようになったのが中学生の頃からだったかな」


 これはこれでまたつらいだろうと思う。


「表面上では仲良くしてくれていると思ってた友達が、内心では私のことをばかにしていたり、時にはいわれのないことで憎まれてたり、でもみんな表面はにこにこ笑って、形だけは仲のいい友達なのよ。だから疲れちゃった」


 そりゃ、失望するよな。


「失望なんて、そんな生易しいものじゃなかったよ」


 わ、本当だ。俺が考えたことが全部わかっている。すると何も言っていないのに美貴は俺を見てクスッと笑った。やはりそうなのだ。


「で」


 美貴は真顔になった。


「学校で特に長い間連続してずっと面と向かっている人っていったら先生たちでしょ。授業の間ずっとだから」


 たしかに。


「そうしたら、ほんと、みんながわかるまで懇切丁寧に教えてくれる分かりやすいいい先生だと思っていたのに、内心は『こんな問題もわかんねえこいつらは、まじあほだ』とか、一生懸命授業やってるように見えても、内心は『めんどくせえなあ、早く帰りたい』とか、男の先生の中にはまじめに授業しているように外見は見えても、女子生徒を性的な目で見て心の中でえっちな妄想してる教師もいる。もちろん全部の先生がそんなじゃなくて、まじめで内面から尊敬できる先生もいるよ。でも、半分くらいの教師は人間的にクズね。それに」


 美貴はため息を一つつく。


「私は心の中が読めるから、本当に教育熱心で一途に私たちのこと考えて授業や指導してくださっている先生もいるけど、そんな先生に限って生徒からは嫌われていたりしてね。『こいつまじむかつく。絶対いつか殺してやる』なんて心の叫び挙げてるクラスメートもいて、そんな声もガンガン響いてくるんだ。またもやそんなやつがいい子のふりして、笑顔で先生の言うこと聞いていたりするからもう吐き気半端なかった。だから私、もうやりきれなくなった」


 そうだろうなあ。


「そんで友だちにもつい無意識に相手が考えていること言い当てちゃったりするから、友だちからも私、気味悪がられて距離を置かれちゃった」


 わかる。


「電車の中なんてひどいものよ。あちこちで互いの誹謗中傷の罵り合い。実際はシーンとしている車内での話よ。『自分の座ろうとしていた席に先に座られた』とか、『肘が当たった』だの『リュックが大きくて迷惑』だの心の中では文句ばっかり。それでいて表面的にはみんな無言でいるんだもの、SNSでの誹謗中傷よりもたちが悪い」


 たしかに、心の中は普通は他人には見えないから、悪人が善人でいられたりするよな。


「でもね」


 美貴は急に静かな口調になって、声を落とした

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