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暁の歌、響け世界に 《地の巻》  作者: John B. Rabitan
第7部 夏風邪
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6 それぞれの異能

 そのあと、みんなと話しているうちに、俺はますます熱っぽくなってきた。

 体温計で測ると、三十九度を超えていた。


「え?」と思ったけれど、不思議と体のだるさは軽減されている。

 ただ、もよおしたのでトイレに行き、さらにこれまでにないようなおびただしい下痢をした。


「なんかまた熱出たから、少し横になるよ」


 戻ってからみんなにそう言うと、チャコに止められた。


「ううん。起きてた方がいい」


 ほかの二人も同調してうなずいている。


「横にならずに起きていて、つまり縦になっていた方が宇宙の火の気がより多く入ってくるって」


 たしかにもうそんなにだるくないから、言われるとおりにした。


「熱に感謝!」


「そうだな」


 俺は笑った。


 そして例の先生の実家でのこと、湖畔の富士山や満天の星そして天の川のことや洞穴のことなどを、悟といっしょに女子二人に話したりしているうちに昼が近づいてきた。

 気が付けばあれほど食欲のなかった俺が、空腹を感じている。


 念のためもう一度熱を測ると、もう平熱だった。

 俺が驚いていると、三人とも笑った。


「やっぱね、康生君が素直だからだよ」


 美貴もうなずき、チャコも笑っている。


「素直は得だね」


 やはり女子の笑顔ほど、心がさわやかになるものはない。


「女の武器は涙なんて言うけど、あれは嘘だね。女の武器は笑顔だよ。いや女子だけじゃない。男だって、人類の最大の武器は笑顔だ」


「うまいこと言うなあ」


 悟もまた最大の笑顔を見せていた。


「じゃあ、ファミレスにでも行くか」


 俺は立ち上がった。つい今朝方まで熱を出して寝込んでいたなんて、自分でも信じられない。

 体はもうすっかり元気だし、咳もないし洟も出ない。


「よし、行くか」


 悟も立ち上がり、女子二人も同意した。


 ファミレスといえば、俺の家から歩いて五分くらいのところにDOCO'Sがある。

 でも、料理がめんどくさいときは一応そっちの方角に俺の足は向くけれどそこまでは行かず、たいていその途中のDAWSONに吸い込まれてしまう。


 学生・生徒はまだ夏休み中だけど、平日の昼間だけあって客は数えるくらいしかいなかった。

 それに、昼食の時間よりは実はまだ少し早い。


 俺たちは隅の、周りに人がいないボックス席に入った。隣の席とは高い衝立で仕切られている。


「今日は本当にありがとな、わざわざ来てくれて。みんなに申し訳ないから、今日は俺のおごりだ」


「と言いたいところだけど……って感じでしょ」


 美貴が笑う。


「確かに……今、金欠で自分の分さえ怪しい」


「どうもいつも美貴には、心の中を先読みされてしまう。読心術でもあるの」


「いや、それは」


 美貴が口ごもる。


「とりあえず注文決めようぜ」


 悟が言うのでみんなでそれぞれの写真ふんだんの大きなメニューブックを開き、俺はいちばん安そうなハンバーグにした。

 美貴とチャコはパスタ。美貴がカルボナーラでチャコはミートソースだ。

 そして悟だけなぜかかつ丼を注文した。


「それにしても、ほんと、さっきも言ったけど今朝まで俺は病人だったなんて信じられない」


「まあ、よかった。体がクリーニングされてきれいになったのとそれが早く終わったのと二重にめでたい」


 悟がにこやかに言って笑った。


「じゃあ、康ちゃんの全快祝い」


「あのねえ」


 チャコの冗談に俺は苦笑を向けた。


「たかが数時間の風邪で大げさにって思ってるでしょ」


 またしても美貴が笑う。ここまでくるとちょっとぞっとする。


「そういえば、あの部室に来る人みんな、何かしらの異能力があるって島村先輩は言ってたよなあ」


 美貴の読心術が実はそんな程度じゃなくて高次元の異能力じゃないかななんてふとひらめいたので、遠回しに探りを入れた。

 すると美貴がほかの席に聞こえないように気を使いながら小声で。


「遠まわしに探りを入れなくても、私には人の心が読めちゃう。それが異能力」


「え?」 


 それってやばくね? 俺が考えていること全部美貴に筒抜けだったの? ……美貴のカミングアウトの異常さよりも、そっちの方が気になった。異常の方はもう慣れてしまっている。


「だいじょうぶ。他人の考えていることが勝手に飛び込んでくるんじゃなくて、私が知りたいと思った時だけ相手の心の中が読めるってだけだから」


「そうなのか」


「でも、エロいこと考えてたら全部わかっちまうぞ」


 悟が茶々を入れる。


「え? それまじでガチやばい」


 美貴はただ苦笑していた。

 そして俺はチャコを見た。するとチャコの方からためらいがちに口を開いた。


「私は心が読めるんじゃなくて、見えちゃう子なの」


 それは青木先生や島村先輩から聞いてはいたけれど、本人の口から聞くのは初めてだ。


「私ね、実は小さいころからお化けが見えるそんな子だった。でもお父さんやお母さんに言っても信じてもらえなかった、それどころか、わけのわからないこと言うなって叱られた」


「小さい頃って、具体的にいつ頃?」


 なんか俺、引きずられているようにチャコの話の中に入っていった。

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