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暁の歌、響け世界に 《地の巻》  作者: John B. Rabitan
第7部 夏風邪
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4 チャコのヒーリングパワー

 俺は何とかお粥を食べた。うまかった。


「そうそう、うつすといけないから、マスクマスク」


 俺はマスクを探しながら、チャコにも言った。


「チャコも病人の部屋に来るんだからマスクぐらいしてきた方が」


 チャコは笑った。


「やだよ。あの日本中が、ってか世界中が外出する時はみんなマスクしてた頃、電車の中も歩いてる人もみんなマスクしてた頃、あの頃思いだしてぞっとする。もうあんなのだ」


「それな。二度とあんな状況、だよな。マスクがシマウマになっている気持ち、わかる」


「トラウマ!」


 ちょっとしたボケにもちゃんと突っ込んでくれる。


「あ、ちょっと違ったか」


「だいぶ違う」


 そしてチャコは少しだけ真面目になって、でも基本は笑いながら言う。


「さっそく始めよう」


 何を始めるんだ? と思ったけれど、俺が初めてチャコに会った時、階段から落ちてけがした俺にチャコは回復魔法をかけてくれたのだ。今日もそうなのか……、そのためにチャコは来てくれたんだろうかと思う。


「とりあえずうつぶせに寝て」


 チャコに言われたとおりにする。チャコも俺がうつぶせになっているベッドの淵に座る。

 俺は横になりながらも、不思議な気分だった。


 チャコが来るって聞いて、そして実際に来るまでの間、俺は覚悟していたことがあった。

 それは、病人のお見舞いなのだから決まって薬は飲んだかとか医者に行こうなんて言いだすに決まっていると身構えていたのだ。


 だが、チャコはそのようなことは片鱗も言わなかった。


「昨日、神社でお参りしたときすごいパワーが来たから、きっとそれで溶けたんだよ」


 え? 溶けたって? 俺のどこが溶けたんだ? 俺は一応生存している。そして神社のパワーと、何の関係があるんだ?

 よくわかんね。


「あの……」


「ん?」


「下痢した?」


 俺はうなずいたチャコはにっこり笑う、


「それはよかった」


 何がよかったんだよ? どうもさっきからチャコの言っていることは腑に落ちない。

 でも嫌じゃなかった。


 心配してお見舞いに来てくれたのかと思ったけれど、チャコはあんまり心配しているふうはない。

 病人を心配する波動が病気にはよくないと青木先生も言っていたけど、チャコも先生から聞いているのかもしれない。


「そうそう、あとで美貴と悟も来るって」


「まじかよ。わざわざ連絡したんか。そんな風邪ぐらいで大げさな」


「だって昨日に続いてまた集まるいい機会じゃない」


「こら、人の病気を出汁だしにすんな」


 俺もチャコもそこでひとしきり笑った。


 そうは言ったもののみんな俺に、心配の波動は出さないまでも気にかけてきてくれるのだろう。


 二人は電車に乗ってくるから、到着は少し遅れるだろう。


 チャコはうつぶせになった俺に、寝る時かけていた薄いブランケットをかけ、背中を手のひらで探り始めた。


「やっぱ熱あるね」


 そう言ってその手をそのまま離し、回復魔法のスタイルになった。


 まずは左右肩甲骨のあたりに両方の手でそれぞれパワーを注入している……のだろう。うつぶせになっている俺からは見えないが。

 見たところで、パワーは目には見えない。


 ただ、ただでさえ熱い体なのに、背中の一部が二カ所やけに熱く感じる。

 三分くらいしたらもう少し下の、あばら骨が終わったあたりに今度はパワーを感じた。


「ここ、腎臓。排泄に関係する器官だからめっちゃ重要なんだって」


 そこは五分くらいして、今度は表向きにさせられた。


 もしこれがチャコじゃなくっていわゆる普通のクラスメートだったとしたら、女の子と二人きりの部屋で、しかもこんなに接近しているなんてシチュエーションは、それだけで興奮ものだろう。


 でも今は、なぜかチャコが病院の看護師さんみたいな感じで、あんまり変な意識はしないですんだ。


 まずは胸に三分。さらに首筋に、これは左右同時にはチャコの座っている体勢からはきついので、右を向いて左首筋に片手で、そして反対を向いて右首筋にまた片手で三分ずつパワーが放射された。


 最後はみぞおちで、これも片手で胸の上あたりから斜めに放射しているようだ。


「なあ、チャコ」


 パワーを受けながら、俺はチャコの顔を見上げた。


「このパワーってチャコの霊体から俺の霊体に放射されて、霊体に作用するんだよな。先生がそう言ってたけど」


「うん」


「でも、これが風邪を治すんかあ?」


「うーん、治すというのとはちょっと違うかな。病気を治すんじゃなくて、病気の原因を取り除いて病気をしない体にしてしまうってことかな。私も先生から聞いただけだけど」


「じゃあ、風邪の原因は? ウイルスじゃないの?」


「ウイルスは使われているだけなんだって。貯水池と蛇口のように、貯水池に水があったら蛇口をひねると水が出るけれど、水がなくなったらいくら蛇口をひねっても水は出ないでしょ」


「うん、そうだけど、それが風邪と何か関係が?」


「風邪ひくと康ちゃんだっていろいろなものが出たでしょ、鼻水、痰、下痢、寝汗とか」


「うん」


「出るってことはあるから出るわけで、なくなったら出なくなる。だから回復魔法はそういったものを溶かして排出させちゃう」


 その時、玄関のチャイムが鳴った。


「ああ、来た来た」


 チャコが立ち上がって玄関のドアを開ける。


「よぉ」


 悟が顔を出す。続いて美貴の姿もあった。どこかで待ち合わせて一緒に来たらしい。


「家族はいないから、上がってくれ」


 俺がベッドの上から玄関に向かって言う。


「おお、だいじょうぶか?」


 悟が入ってくる。でも顔はにこやかだ。美貴も同じだ。


「回復魔法は?」


「今まだ最中」


「あ、じゃあ続けて」


 悟に言われて、チャコはまたもとの体制で、俺の横にベッドに腰掛ける形で座った。


「今ちょうど、風邪の原因について話してたとこ」


「そうか。俺も先生からはいろいろ聞いているしな」


 悟も美貴も、部屋の適当なところに座った。

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