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暁の歌、響け世界に 《地の巻》  作者: John B. Rabitan
第7部 夏風邪
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3 ばかしかひかない風邪

 翌朝起きると、体中の環節が痛かった。

 だるい。

 そして熱っぽい。


 親父はもうとっくに会社に行っている。


 俺はなんとか布団から這い出して、体温計を探した。体温計の音が鳴るまで、何度も洟をすすった。


 三十八度二分……


 つらいはずだ。


 それから何度も鼻をかんでいるうちに、咳も出てきた。咳のたびに痰が出る。


 そのうちトイレに駆け込む。そしておびただしく下した。


 昨日お祭りで、何か悪いもの食ったかなと思う。

 でも、それだったらお腹を壊すだけで、この発熱や倦怠感の説明にはならない。


 今、家にはちょうど常備の風邪薬も腹の薬もない。医者まではかなり歩くので、どうも行く気はしない。

 行って薬をもらわなければと思うけれど、このまま寝てた方がいいと頭の中で瞬時にひらめくものがあった。


 あのひと頃の感染症のパンデミックの時だったら、これだけ熱が出たら保健所とかに電話して大騒ぎだったろう。

 速攻でRPG検査……じゃなくって、なんだっけ? 忘れちゃった。とにかくそのナンチャラ検査を受けさせられただろう。


 スマホが鳴った。LINEの着信通知だ。

 チャコからだ。LINEグループの方ではなくて、個人のIDからだった。


[おはよう。昨日はありがとう。昨日別れ際になんか辛そうだったから、だいじょうぶかなと思って]――


 すぐに返事を返す。


 ――[だいじょばない。ばかしかひかない夏風邪ひいた]


 瞬間に「既読」がついた。


[ええーっ!? 熱は?]――


 ――[八度二分]


[かなりあるね。今から行っていい?]――


 ――[そんな、わざわざお見舞いなんて、ただの風邪くらいで大げさだよ]


[ただのお見舞いじゃないから。じゃ、あとで]


 え? まじに来てくれるの? しかも俺の部屋に女の子一人で? なんかいろいろやばいんじゃないの?と思うけど、頭がもうろうとしている。


 とにかく、まずは玄関の鍵を開けて、そのまままたベッドに入り込んだ。


 割とすぐに玄関のチャイムが鳴った。


「どうぞ! 鍵、開いてる」


 ベッドの中から叫んでも十分に聞こえるくらいの、小さなアパートの部屋だ。


「お邪魔します」


 入ってきたチャコは当然のことながら制服ではなく、合宿の時のようなジャージでもなく、ましてや浴衣のはずもない。

 ふつうのカジュアルなワンピースだ。


「あ、寝てて」


 俺がベッドから起き上がろうとすると、チャコはそう言って俺の部屋に入ってきた。


「おうちの方は?」


「親父は会社」


「お母さんは?」


 俺は黙って首を横に振った。


「あ、ごめん」


 瞬時にチャコは、俺が父子家庭であることを悟ったようだ。


「何か食べた?」


 俺が食欲がないことを告げると、チャコはうなずいた。


「キッチン借りる。それとお米とかも少し」


「え? 悪いよ」


「いいからいいから。寝てて」


 割とすぐに、チャコはお粥を作って持ってきてくれた。玉子も入っている。

 暑いときに熱いものは食べにくかったけど、文句は言えない。


「どうぞ」


「ありがとう」


 見舞いに来た割りには心配そうな顔もなく、チャコはにこにこ笑っていた。

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