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暁の歌、響け世界に 《地の巻》  作者: John B. Rabitan
第7部 夏風邪
43/68

1 お祭りの夜

 夏休みも残り少なくなっていた。


 俺はベッドに横たわってスマホの画像アプリを指でスライドさせながら、この夏の思い出を反芻していた。

 朝日ヶ峰の二泊三日の合宿と先生の実家で過ごした同じ二泊三日が主だけど、どの画像にもこの夏の貴重な記録が刻まれている。

 後半は男子だけになってしまったので、その分少し物寂しくはあったが……。


 それにしても、なんと目まぐるしい日々だったか。

 栃木からここへ転校してきたときは、まさかこんな出会いとこんな出来事が待っているなんて思いもしなかった。

 あまりにも濃い日々を過ごした夏休みの終盤は、気が抜けたように同じような日々を繰り返していた。


 そんなころ、超古代文明研のLINEグループに島村先輩から投稿があって、町内の神社の夏祭りがあるとのことだった。

 しかも、俺が住んでいる地域だ。

 規模としてはそんなに大きくないのであまり有名ではない地元の人々だけで楽しむような祭りで、夏の締めくくりの風物詩だという。


 一応お神輿も出るし屋台も並ぶというので、いつも部室に集まるメンバーで繰り出そうということになった。

 この町の夏が初めての俺はもうその日が待ちきれずに、当日は喜々として出かけて行った。

 八月の最初にこの市では河原での大規模な花火大会もあったし、あちこちの神社で獅子舞もあったようだけど情報に疎く、また知っていたとしても特にお誘いはなかったので一人で行く気もせずにスルーしていたのだった。


 神社は、俺の通学路にあるあの妖魔騒ぎのあった神社ではなく、学校とは反対側にある少しだけ大きな神社だという。

 俺はみんなと待ち合わせの場所に、夕刻になってから勇み足で出かけた。

 親父はまだ会社から戻ってきていないので、アパートの部屋に鍵を閉めて一人で向かう。


 神社が近づくにつれて人のでも多くなり、お囃子の音なども聞こえてきていやでも雰囲気が盛り上がってきた。


 神社の鳥居のところで待ち合わせだ。

 すでに島村先輩や悟のほかにチャコと美貴はすでに来ていた。

 チャコは赤系、美貴は紺色系統の浴衣だった。

 女子たちとは朝日ヶ峰の合宿以来だけど、学校での制服姿や合宿の時のTシャツとジャージとは違って別人のように華やかに見える。


 浴衣はむしろ制服よりも肌の露出は少なく体のラインも隠されてちっともエロくはない姿なのだけど、なぜか心がときめいてしまうから不思議だ。


 そのうち筒井美穂、ピアノ(竹本ひろみ)、佐藤新司の一年生勢もやがて現れ、最後に来たのが谷口大翔(はると)と智慧の天使ケルブ(藤村結衣)だった。

 別にLINEで指示が出ていたわけではないのに、女子は見事に全員が浴衣だった。

 男子では島村先輩だけが着流しの浴衣で、あとは普通のTシャツ姿だ。


「わあ、しばらく」


 女子たちは俺たち男子勢を懐かしがって迎えてくれた。


「ねえねえ」


 チャコが島村先輩や俺と悟に、甘えたようにせがむ。


「また男子たちは青木先生の田舎に行ったんでしょ。いいないいな」


「後でゆっくり話聞かせてね」


 美貴もかわいらしく小首をかしげて言った。


「あれ、美穂、今日はクンちゃんは?」


 そして美穂をもからかう。美穂ははにかんで笑う。


「さすがにお祭りにインコは連れてきませんよぉ」


 皆でひとしきり笑った後、島村先輩は言った。


「まずはお参りしよう」


 みんなそれぞれ鳥居のところで一礼して、人々でごった返す境内へと入っていった。

 もうすっかりあたりは暗くなっていたけれど、境内はアセチレンの光に照らされて明るかった。


 俺たちは人混みをかき分けて、神社の拝殿前にたどり着く。

 境内はあれほど人でごった返しているのに、ここでお参りしている人は数えるくらいだった。


「みんな、何のための祭りかわかっていないなあ」


 島村先輩が、ぼやくように呟いた。


 拝殿からは本殿がよく見えて、いつもは扉が閉まっているであろう本殿も今日はあけっぴろげになっている。

 そして、煌々と照らされた内院では中央で神主さんが大きく祝詞を奏上しているところだった。

 その背後にはさらに何人かの色の違う神官服の神主さんが左右に並び、また、白い着物の巫女さんも参列している。

 そして、羽織袴姿のご老人たちも床几の上に整列して座っているのは氏子さんたちだろう。


 やがて祝詞が終わり、巫女さんたちが笛や太鼓で雅楽のような音楽を奏し始めた。

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