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暁の歌、響け世界に 《地の巻》  作者: John B. Rabitan
第6部 科学と魔法
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6 星空

 夕食は先生はビールを飲まなかった。

 明日はまた俺たちを乗せて俺たちの住む町まで帰るので、先生にとっては今日が規制の最後の夜のはずだから飲みたいだろうにと思う。

 先生母も同じことを言うと、先生は笑った。


「いや、この後、彼らにちょっと見せたいものがあるんで車出すから」


「え、幾所いくしょまで?」


「小学校の跡地だけど」


「だったらすぐだべ。歩いても行けるし」


「でも今日は月がないから。それにどんなちょっとでも教師が教え子を乗せて運転するのに酒気帯び運転はまずい」


「そんな。この村の駐在さんがそんなのチェックするわけにゃあ。村の中は庭みたいなものだから公道じゃなくて私道だべ」


「いや、だめだめだめ」


 先生は結構律義なところがある。

 でも、学校の規則を破って俺たちをここまで車に乗せてきたのだから、本当に律儀かどうかは別として……・


 ただ、俺は先生が俺たちに見せたいものとは何かが気になった。島村先輩にアイコンタクトで尋ねたけれど、先輩も首をかしげていた。

 そんなわけで先生母の腕を振るった料理……今日は山菜や湖魚の天ぷらで、なぜかそれに交じって海のエビが絶品だった。


「冬だったらワカサギが旬だけどねえ」


「今は一年中あるべ」


 先生父が言う。先生母は笑って首を横に振る。


「いや、冬じゃねえと脂がのってにゃあ」


 この県の方言としては語尾に「ずら」とかつけるというイメージを俺は持っていたけれど、この辺りではそれは言わないらしい。


「ま、すぐに帰ってくるから、帰ってきたらまた飲み直す」


 先生はそんなことを言っていた。


 食事が終わると、さっそく真っ暗になった外に出た。

 本当に真っ暗だ。

 先生は人数分の懐中電灯を持ってきてくれた。さっき先生が「月がない」と言っていた意味が分かった。

 俺たちが住む町はどんな夜でも街灯があるので、夜道を普通に昼と同じ感覚で歩ける。いちいち懐中電灯を持つ必要はない。でも、ここは本当に真っ暗なのだ。


「月があるのとないのとでは大違いなんだよ。月があれば何とか歩ける。でも月がないと本当に真っ暗で、懐中電灯がないと歩けないよ」


 そういえば朝日ヶ峰のキャンプ合宿の時は月があったのだ。

 でも何気なく空を見た俺は、「うわっ」と思わず叫んでいた。

 そこにはいわゆる「満天の星」という言葉で表されるような、おびただしい数の星があった。


「先生。見せたいものって星空ですか?」


 俺は聞いた。先生はうなずいた。


「そうだよ。ここでは周りに民家の明かりもあるし、建物で見渡せないから周りに何もない小学校の跡地に行くんだ」


 先生はそう言ってから、俺たちに車に乗るように促した。


 車は発進し、数分で森の中の道を抜けて広々としたグランドがある小学校の跡地に着いた。

 いくら懐中電灯を持っていたとしても、また道も車一台が通れる舗装した細い道であるとしても、あの真っ暗な森の中を歩くのは結構怖かっただろうと思う。

 門は閉まってはいたけれど、先生が一度降りて重たそうに車のヘッドライトに照らされた門を開けた。わざと門にライトが当たるように先生は車を停めていたのだ。

 門には鍵は掛かっていないようだった。


「中は廃墟しかないからね。鍵をかけておく必要もないんだよ」


 先生は戻ってきてからそう言って、また運転席に乗り込んだ。


「でも、関係者以外立ち入り禁止って書いてありましたよ」


「いいんだよ、僕は関係者さ。卒業生なんだから」


 そう言って先生はグランドに車を入れた。


 グランドの真ん中で先生はエンジンを切り、ヘッドライトも消した。

 車内は完全に闇となった。俺たちは一人一人手に懐中電灯を持って、車の外に出た。

 そして空を見上げる。本当にすごい。

 こんなすごい星空は、栃木でも見たことはなかった。

 なにしろ天の川を肉眼で見ることなんて、ほとんどない。それがはっきりと中天を横切り、あまりにも多くの星がきらめいているので一等星すらその中に埋もれ、夏の大三角形も特定が容易ではないくらいだ。

 ほかにさそり座、ヘラクレス座、そして北の空には北斗七星が柄の部分を下にして立っている。

 むしろもう少し都会で星の数が少ない方が、星座の形ははっきりと分かるような気がした。


「すげえなあ」


 悟も暗くて顔は見えないまでも、おそらくぽかんと口開けて空を見ている様子が想像された。

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