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暁の歌、響け世界に 《地の巻》  作者: John B. Rabitan
第6部 科学と魔法
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2 物質構成の原理

「ちょっと長くなるけど、いいかな?」


 俺たちはそういう先生の周りに丸くなって畳の上に座った。


「えっと、何から話そうかな。そうだ。まずは宇宙エネルギーと、それがいかに我われの体を含めた物質を形成しているのかということ」


 なんだか話が難しくなりそうだ。


「まあ、試験には出ないから気楽に聞いてくれ」


 先生は笑った。


「これから話すことは、学校での授業では話すことはないだろう。教科書にも載っていない。いわば、ここだけの話だ」


 そういうふうに言われると、ちょっと緊張してしまう。

 もっとも世の中には、「ここだけの話」をあっちこっちでする人もいるが……


「つまり、学校の授業で聞くのとは全然違う話ということですね」


 悟が尋ねる。先生がうなずく。


「学校教育という公の場では言えない話だね。授業では、違うと分かってはいても文科省の学習指導要領通り、教科書通りに授業をしないといけないからね」


 先生は、一つ咳払いをした。


「まず、うちの婆様が話していた宇宙のエネルギーのことだけど、この地球を取り巻く大気圏の外には電離層があって、さらにその外が真空界になっている。でも、真空とはいっても何もないわけではなく、そこには宇宙の『智』と『情』と『意』がある」


 そんなことを口で言っただけではわからないと思ったけれど、先生はもう一度説明してくれた。


「『智』とは智恵の智だけれど、知るという漢字の下には日が入っている智だ。『情』は感情の情、『意』は意思の意」


 そう言ってもらえればわかるけれど、でもそれがどういうことなのかはよくわからない。

 俺たち三人は顔を見合わせていた。


「そんな真空界からこの地上に燦々と降り注いでいるエネルギーが、宇宙エネルギーだ。これが地球上のあらゆる場所のあらゆるものに、肉眼では見えないけれど雨のように降り注いでいるんだ。それがどこから来るのかはわかっていない。太陽のフレアから来るっていう人もいるけれど、もっと遠くの銀河系を構成する星から来るっていう人もいて、いろんな人がいろんなことを言っているけれど決め手がない」


 分かったような分からないような……。


「その宇宙エネルギーが、この地上のすべての物質を構成しているんだよ」


 たしかにそうなると、学校で習うこととは全然違う。


「その宇宙エネルギーの中の高エネルギー分子は、分子というけれど丸い玉ではなくて一瞬的な力の発動、一瞬の波動、つまり波、バイブレーションなんだ」


 話が難しくなってきたぞ……


「それは塵よりも小さいんだけれど、それでいて五百から六百億電子ボルトに相当する力を持っている。その極微の波動が大気中の陽子ようしと衝突して中間子つまりニーゾンと光子こうし・フォトンがシャワーのように飛び散るんだ」


 ……?


「今度はその中間子が別の陽子とぶつかって、今度は中性子や電子がシャワーとなって飛び散る。そうすると中性子は陽子の方にツーッと寄って行ってガッチリと合体する。それをぎゅっと固めるのが中間子の役割」


 なんだかもろに化学の授業。いや、素粒子の動きだから物理かな? どっちであっても文系の俺にはかなりきつい。でも、授業で聞いたことはあるような気がする。それがなんで「ここだけの話」なんだ?……


「だから中間子は『宇宙の手』とも呼ばれる。中間子がなければ、この地球はいまだにガス体のままだったともいわれているね」


 ――うーん……


「この中性子と陽子を中間子が固めたもの、これを『原子核』といってね、そこに電子が飛んで来て半径の数万倍の内に来ると回転を始め、原子核の回りを楕円形の軌道で無限に回る。そうなるとそれが『原子』となる。回っている電子の数が原子の特徴を示すんだ。八個で酸素、七十九個で金になる。この辺りのことからは授業でもやったはず」


 たしかにやったのだろうか……?


「その原子が集まって分子になって、分子が集まると細胞になる。この細胞の集まり方で人間になったり植物になったり、あるいは動物になる。人間の身体は六十兆の細胞が集まったものだよ。肉体そのものがこういったものの集まりだから、実は穴だらけの波の集まりなんだ」


「でも、先生」


 島村先輩が口をはさんだ。


「『ここだけの話」っていうのは何ですか?」


 先生は少し笑った。


「まあ、そう焦りなさんな。もう少し授業の復習をすると、この原子核はいちばん小さい水素原子の場合は一・七五フェムトメートル、つまり約一億分の一センチほどの大きさだ。もしこれを一円玉くらいの大きさだとすると、電子が回転する軌道は東京ドームの外周と同じくらいになる。じゃあ、マウンドに置かれた一円玉と東京ドームの外周との間には何があるか……」

「内野、そして外野、さらにはスタンド……」


 島村先輩が答える。


「そうだね」


 先生はうなずく。


「何もないわけないよね。いろいろとある。実は原子核とその周りをまわる電子の間にもね。学術的にはそこは『真空』ということになるけれど、さっき宇宙の真空界は『智・情・意』の充満界だって言った通り、この原子内部の真空もまた『知・情・意』を持っている。真空界は生きている。この真空界こそが生命発動の根源なんだ」


 いよいよ「ここだけの話」になっていくのかなと、俺たち三人とも息をのむ。

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