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暁の歌、響け世界に 《地の巻》  作者: John B. Rabitan
第5部 先生の実家
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6 神幽現御経綸の祈り

 先生父の祈りはまだ続く。


「ただ今より、神幽現の御経綸が示された祈りと歌をお上げ申し上げます」


 それから、懐から冊子を出して開いた。皆、同じようにしている。俺たち三人にもその冊子は渡されていた。


弥栄いやはえせい観音、此土このどれましたまいては、法身ほっしん大日如来、アミダと化し、又或時(あるとき)観世音かんぜおん菩薩となりて仏界に救いのわざをなし給ひぬ」


 皆が一斉に唱和するので、俺も目で追いながらやっとその祈りの文を言葉に出していた。

 そうしながら、何か違和感を覚えていた。

 宗教と関係のない霊界の法則によると言いながら、この文句はどうにも宗教っぽい。

 聖観音とか大日如来とかアミダとか……


 ――やはりお寺での法要と変わらないじゃないか


 それなのに、あれほど宗教嫌いの悟が平然とこの文句を唱和しているのが横眼に見える。

 ただ、坊さんのお経のようなわけのわからないものではなくて、一応意味の通じる普通の文だ。


「大慈大悲や陽と陰、タテヨコ十文字結んで堅くホドケずば、大和たいわの力天に満ち大地に溢れ、瑞雲ずいうんは空にたなびき、万華ばんげ馥郁(ふくいく)地にかおり、五風十雨の狂い地には無く、五穀豊穣(すなど)りは豊かに栄ゆるも天ヶ下(あまがした)ことほにぎわう声々は、人類エデンの花園に……」


 ――え?


 なんか突然「エデンの花園」なんてキリスト教的言葉が出たので、俺は驚いた。そのあと、しばらく続いた後、


「正観音(あま)の岩戸に押しかくし……」


 今度は天の岩戸? それって神道の神話だよなあ。


「右手に物界洗礼の 火に燃ゆコーランの剣かざし左の御手おんて大愛の、如意宝珠の玉見せ給い……」


 はあ? コーランまで?


「……ノアの洪水前夜祭 暴逆世に充ちてしてう(ちょう)世に、さも似たりな霊火()の洗礼前夜祭」


 そして……


「光にあまね人草ひとくさは、釈迦キリストも伝え得ず、惜しくも去りてふた三千歳みちとせ洗礼前夜の狂奏に、踊り狂えるものにさえ 真理の峯をに照し……」


 こうして、全部で五分くらいかかった神幽現御経綸の祈りは終わった。


 それから今度は、和歌に節をつけたものの唱和が始まった。

 百人一首の詠み人とは微妙に違うメロディーだ。

 ところどころでやたら「執着を断て」という表現があったし、「天国」という言葉も何度も出てきたのが気になった。


 それが終わってから、いよいよ仏壇に供えられたお膳の上の食器の蓋が明けられる。

 そして先生父によっておりんが二回鳴らされる。


「青木恭平・則子家の総てのご先祖の皆々様。ただいまよりお食事のご供養をさせていただきます。皆々様でどうぞお召し上がりください」


 こうして十五分ほどで、お盆の法要の儀式は終わった。

 かなり足はしびれたが、思っていたほどでもなかった。かろうじて立ち上がれる。


「さあ、下に行って昼食にしよう」


 先生父がにこやかに言う。


 また、婆様を抱えて階段の下に降ろして、みんな続々とテーブルに着いた。そこには昨日の夜以上のご馳走が並んでいた。

 先生は、この時はビールを断った。


「午後に彼らを車でいろいろ案内しますから」


 俺たちを示してそう言ってくれた。

 そこで俺は手を挙げた。


「先生、質問!」


「なんだよ、授業中じゃあるまいし」


 先生も笑っていた。


「宗教とは関係のない法要って聞きましたけど、あの時みんなで唱えた祈りの言葉は、かなり宗教ぽかったんですけど」


 宗教ぽいだけでなく、仏教、キリスト教、神道、果てはイスラム教までがごちゃ混ぜになったような感じだった。


「あれは婆様が超高次元のエネルギー体とコンタクトして得たんだ」


「それはな……」


 名指しされた婆様本人がニコニコと口を開いた。


「宗教用語を使った方が地上の人々にはわかりやすかろうと、超高次元からのメッセージじゃった」


 なんだかこのお婆様までも、言うことが中二病じみている。

 でももうかつてのように、何でも中二病で片付けてしまえない状況になっている。


「でもね」


 先生が言葉を受け継ぐ。


「あくまで一宗一派に偏ってものではなく、宗教を超越した霊界の掟が綴られていたんだよ」


 俺は悟を見た。悟もうなずいている。


「うん、俺は地上の宗教が嫌いなのであって、霊界の法則は否定しない」


 なんか悟が言うと、妙に説得力がある。


 そういえば昨日、婆様はムーの国章がどうのこうのと言っていたのを思い出した。

 俺はTシャツの下の下着のランニングシャツにつけている例のバッジに手を当てた。

 下着につけているから外からは見えないはずなのに、婆様は俺がこの国章をつけていると言い切った。


「あのう、このバッジもお婆様が?」


「そうだいねえ」


 婆様はにこにことうなずく。また先生が言葉を続ける。


「これも超高次元からのメッセージによるそうだよ。宇宙からは地上に燦々とエネルギーが降り注いでいるけれど、このバッジを身につけるとその宇宙エネルギーをレンズのように凝縮してその人の霊体に充満させる。そして対象物に手のひらを向けると、その霊体に満ちたエネルギーが放射される。それが浄化魔法と回復魔法の正体だ」


 見事なまでのアニオタにありがちな中二病話……でも俺は、その効果をすでにリアルに体験してしまっている。

 なんだか全身にぶるっと震えが来た。


「ま、とにかく食事にしよう」


 先生父が笑いながら言った。



(「第6部 科学と魔法」につづく)

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