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暁の歌、響け世界に 《地の巻》  作者: John B. Rabitan
第4部 回復魔法と浄化魔法
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3 実験

 パワーを放射する相手は人に限らないということでもあった、たしか。


 そこで俺は食パンをちぎって二つに分けて別々の皿にのせ、片方にだけ手からにパワーを五分ほど放射した。もう一つはそのままだ。

 それと家庭園芸用のかいわれ大根の種を夕食の食材の買い出しのついでに買ってきて、これも二つに分けて小皿に入れ、水で湿らせたスポンジにそれぞれ種をまいた。そしてその一つだけにまたパワーを五分放射した。


 その両方とも、それだけで変化があるはずもない。


 翌日から毎日、朝夕二回、五分ずつパンとかいわれ大根の種の片方にパワーを放射する。

 どっちがどっちだかわからなくなるといけないので、パワーを放射した方には付箋を貼っておいた。


 なんだか小学生の時の、夏休みの自由研究をしている気分だ。


 そのまま五日たった。


 なんとパンは片方が見事にカビが生え、明らかに傷んでいた。

 この暑さだ。それが当たり前だ。


 だけれどもそれは二つに分けたパン切れのうち、一つだけだ。もう一つは見事にそのままカビも生えず原形を保っていた。


 ところが……


 カビが生えて痛み始めたのは何とパワーを放射した方だった。

 何もしなかった方が新鮮なままなのだ。


 付箋を貼り間違えたのかなとも思うが、そんなことはない。

 おかしいなと思ったけれど、パワーを放射したのとしなかったので変化が出たことは確かだ。


 そしてかいわれ大根の方はというと、袋に書いてあった説明通りに皿の上をアルミ箔で覆って光を遮断しておいたので、しっかりと発芽している。

 でもこちらはパワーを放射したのとしなかったのとで、何ら変化はなかった。


 まあ、こんなものかなと、一応実験はしたことはしたのだしもういいにしようと俺は思った。



 だが、その二日後である。


 朝起きてみると、パンはかつてパワーを放射していた方はどんどん腐っていっていた。でももう一つはまだそのままだ。

 そしてかいわれ大根の方は、実験をやめてから毎日水を変えるのもやめてしまったので、スポンジは干上がってからからだ。

 でも、なんとパワーを放射しなかった方はぐたっとなって枯れて干からびているのに、こちらはパワーを放射した方が水もないのにシャキッと生長している。


 しっかりと変化は出ていたのだ。

 やはり何かあるのかなと、不思議な気分だ。



 そしてその日は土曜日で、親父が家にいた。


 俺らの家は部屋が二部屋あって、洋室は俺の部屋、もう一つの和室は親父の寝室だが、親父は寝る時以外はたいていリビングにいる。

 今日も親父は朝からテレビを見て休日をくつろいでいた。


 前の仕事を解雇されておふくろと別れ、俺を連れてこの町に越してきてから、親父はようやく新しい仕事を見つけた。

 そんな親父の背中に、俺は哀愁を感じた。


 俺が部屋から出てきたので、親父は振り返って俺を見た。


「そろそろ昼だよね。今、準備するから」


「康生にも迷惑をかけたなあ」


 もうこれが親父の口癖である。

 俺はそのままリビングとつながっているキッチンンの方へ行こうとした。すると親父は、しきりに肩を動かしていた。


「肩凝るの?」


「ああ、なかなか今の仕事にも慣れなくてな。もう年かな」


「何言ってるんだよ。まだ四十代のくせに」


「いや、今年五十だよ」


 俺は笑いながら親父の背後まで行って、その肩を少しもみ始めた。


「いいよいいよ、ただでさえ迷惑かけているおまえにそんなことしてもらったらばちが……あ、痛い! もう少し優しく」


 俺は苦笑して、親父の肩をもむ手を少し緩めた。

 そして閃いた。


「ちょっとおまじないな」


 俺は親父の肩の上に数十センチ離して手のひらを向け、パワーを放射した。

 あくまでそうイメージしただけである。

 俺が肩をもむのをやめたのにそのまま背後に立っているから、親父は不審に思ったのか俺を振り向いた。そして自分の肩の上の俺の両手を見た。


「何のおまじないだよ?」


 親父は笑っていた。

 でもすぐに、その笑いは消えて不思議そうな顔になった。

 そしてもう一度俺の手を見て、肩に直接触っていないことを確認した。


「触ってないんだよなあ? なんでこんなにすごい力で押されているような気がするんだ? でも痛くないし、気持ちいい。あれ? なんだか肩が熱くなってきたぞ」


 親父は自分の手を同じように数センチ離して自分の体のほかの部分に当てがって、首をかしげている。

 ほんの二、三分俺はそうしていただけで、手を放した。


「え? え? え?」


 親父は肩をぐるぐるとまわした。


「痛くない。肩凝りが消えた。楽になったぞ。嘘みたいだ」


「え? まじ?」


「おまえ、どういう力持ってるんだよ」


 親父は驚いていたけど、それ以上に俺自身が驚いていた。


 俺は心の中で「まじかよ? まじかよ?」と何度もつぶやきながらも、とりあえず昼食の支度を始めた。


 ――俺が回復魔法を? いや、あり得ないだろ。たまたま親父の肩凝りが消えるタイミングだったんだよ……


 そんな時、心の中では別の声がする。


 ――一切が必然であって、偶然なし


 俺はぶるぶるって首を横に小刻みに震わした。

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