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暁の歌、響け世界に 《地の巻》  作者: John B. Rabitan
第4部 回復魔法と浄化魔法
24/68

2 回想

 テレビでは連日のように、あの悲惨な墜落事件のレポートが繰り返されていた。

 俺たちがこの足で歩いてこの目で見た景色が事故現場として画面に映し出されているのが、なんだか複雑な気持ちだ。


 被害者の顔写真やプロフィールも番組で次々に紹介される。

 その七人のうち、どの人があの時ピアノのところに来て、ピアノの口を借りて青木先生としゃべった人なのだろうか……さっぱりわからない。


 リーダーっぽい口ぶりだったからもしかしたら航空隊長のこの人かなとも思うけれど、その顔写真を見てもどうにも実感がわかない。


 そもそもがピアノの口は、本当にこの人たちの魂の言葉を語っていたのだろうか。

 もしかしてピアノと青木先生とで演じていた茶番劇にすぎないのではないか……。


 でも、ふだんはおちゃらけているだけの普通の女の子であるピアノに、あんな迫真の演技ができるとは思わない。

 俺や一年生に見せるためだとしても、当の一年生であるピアノに霊は降りたのだ。


 そもそも、あの一年生たちは勧誘もしていないこの部活に、どうやって出入りするようになったのだろう? 

 彼らは因縁の糸に手繰り寄せられてというけれど、何かしら具体的なきっかけはあったはずだと思う。


 俺の場合は……


 宗教に勧誘されそうになっているのをたまたまチャコに目撃されて、転んでけがをしたのがきっかけだったな。

 でも、これも「たまたま」ではないのか……。

 そもそも転校初日のあの日の朝にチャコと登校時にぶつかったのも、「たまたま」ではないということになる。


 演技といえば、あの城跡での壮絶バトルだって、みんな真剣に何かと戦っていた。

 でも俺にはその「何か」は全く見えなかった。

 あれが演技だとしたら、本当に迫真に迫っていた。


 でも、あんな迫真の演技をしたとしても誰得なんだよと思う。

 俺たちのほかに人は全くいなかったのだし、これも一年生や俺に見せるため……?


 いや、あの時だってあのバトルで最終的勝利を収めたのは天使ケルブだった。彼女も一年生だ。


 いやいやいやいや、みんな中二病なのだ。

 妄想の中で生きているのだ。

 もちろんそれでも、不思議と嫌悪感はないけれど…。


 そういえば……合宿の最後でもらった盾のバッジ……。


 パワーグッズとか言っていたけど、これも中二病グッズじゃないのか?

 どこで買ったのかと聞いたら、島村先輩は「これはどこにも売っていない」と言っていた。

 そうなると、自分たちで作ったハンドメイド?

 それにしては精巧にできている。どう見ても量産品だろ。

 裏に「Made in China」とか書いていないかと思って探したけれど、さすがにそれはなかった。


 これを付けていれば回復魔法ができるとか言っていたし、実験してみろともいわれたけれど、そのうち気が向いたらやってみるかとしか俺は思わなかった。



 翌日からまた、夏休みの日々が始まった。


 気候はどこまで暑くなるのかと思うくらいどんどん暑くなり、冷房の効いた部屋を一歩出ると空気が火に感じられた。


 遊びに行くにしても、俺は引っ越してきたばかりのこの問いで新しい友達はできていない。

 クラスの鈴木とか上田とかは夏休みになってからは会ってもいないし、連絡先交換してたわけでもなく、まだつるんで遊びに行くなんて仲にはなっていなかった。


 むしろあの中二研のメンバーの方が彼らよりもはるかに存在が近い。

 それでもまだ連絡とって遊びに行こうという感じではない。


 だからやることもなく家にこもって、毎日をだらだらと過ごしていた。

 昼近くまで寝て、それからゲームで時間をつぶし、漫画かラノベで夕方を過ごし、食事のあとネットでSNSとか見ながら親父が帰ってくるまでに親父の夕食を簡単に用意する。

 そして深夜はアニメだ。


 母について行った妹の美羽みつばは高校受験の真っ最中だ。LINEで連絡を取ろうと思えば取れるのだけど、美羽は親父に敵意丸出しだったし、そんな親父について行った俺をもよく思っていないのか全く連絡は来ない。

 ただ、隣の家の住人だった幼馴染の、俺と同じ高校の一つ後輩だった富永裕香(ゆか)が時々LINEくれるし、その中で美羽の様子とかも教えてくれた。

 ほかに前の学校の友達もちらほらと連絡が来たりするけれど、会おうという話にはならない。物理的距離も遠すぎる。


 結局は、何ら変化のない毎日を送るしかなかった。


 唯一の変化と言えば夏の恒例行事である大型同人誌即売会に今年も一人で出かけたことだ。

 さすがにここは東京に近く、栃木にいたころは三時間かけて会場まで来たのに、ここからだと二時間弱で行ける。

 新幹線を使えば栃木からでも二時間で来られたが、さすがにそれは贅沢だった。

 交通費も在来線でも片道二千五百円以上かかったのが、ここからなら片道千円だ。

 しかも、途中一回乗り換えればいいだけというのも楽だった。


 会場では相変わらずの汗まみれと人とのぶつかり合いだった。けど、楽しかった。


 そしてリュックに薄い本をたくさん詰め、企業ブースでは人気アニメ『アナログ彼氏とデジタル彼女』のキャラの齊藤美緒と『小野の妹萌語(もえがたり)』の朝霧姫のタペストリーを戦利品として帰ってきた。

 この二つのタペストリーは殺風景だった俺の部屋の壁に彩を添えてくれた。

 

 でもそれからというものまた単調な毎日が続き、あまりにも退屈だったので何かおもしろいことはないかなと思っていた時に、ふと思い出したのが回復魔法の実験だった。


 あの楯のバッジは一応言われたとおりに四六時中付けてはいる。

 でも回復魔法とかいうのはまだ試していない。


 ――いっちょやってみますか。


 そう思ったけれど、何から手を付けていいかわからなかった。


 自分の体で試してみたらいいと言われたけれど、一応五体満足、どこも悪いところはない。


 痛くもなんともないのだけど、とにかくいすに座ったまま自分の太ももに両方の手のひらを向けてみた。

 足からはこの間チャコがやったように数十センチ離している。

 そういえばあの時はチャコは何か詠唱のようなものを唱えていたけれど、それについては何も聞いていない。

 今度聞いてみようかとも思いながら、俺は手のひらから自分の足の太ももに向けてパワーが放射されているところをイメージしてみた。


 ただ、イメージするだけでいいと言われた。

 パワーを放射しようなどという意識は必要ないという。

 そのような意識、ましてや治してやろうなどという思いがあったらかえって効果はないも言われた。

 とにかく肩や腕、手の力は抜いて、ただイメージだけを集中させ、口などはぽかんと開けているくらいでいいという。


 力を抜けば抜くほどパワーは強く放射される。


 そう言われても、特に足に何かを感じたわけではない。


 イメージするのは簡単だ。

 なぜなら回復魔法を施すシーンは異世界アニメで何回も見ている。


 でも今は、もちろんアニメのような青い光の束など何も見えない。


 でもとにかく、しばらくそうしていた。

 手はふわっとした感じで、でもパワーは足の表面ではなくいすの下の床まで貫いているという思いでということだ。


 なんだか、太ももがむず痒くなってきた。手のひらも少し熱く感じる。でも、気のせいだで片づけてしまえばそれで終わってしまう程度だ。

 少し手のひらを空中で左右にゆっくり動かしてみる。むず痒い部分もそれにくっついて移動しているような気がする。


 だけど、あくまで「気がする」程度だ。


 それでも、やはりなんだか気になってしまうものだ。

 こんなのを信じるのは中二病だと思うけど、嫌な気はしない。ただ、先輩は無理に信じようとしなくてもいいとも言っていた。

 信じるか信じないかの問題ではなく、結果を見るか見ないかだということだ。

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