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暁の歌、響け世界に 《地の巻》  作者: John B. Rabitan
第1部 ミラクル少女チャコ
2/68

2 現研のチラシ

 昼休みになった。

 

 女子たちなどは机を合わせて、向かい合って黄色い声を挙げながら食事を楽しんでいる。男子はあまりそういうこともせずに、通路越しに話をしながらそれぞれの弁当を広げる。

 俺の弁当は学校に来る途中の朝に、コンビニで調達してきたものだ、


「なあ、山下君は向こうでは部活何やってたの?」


 食事をしながら上田が聞いてくる。まだ初対面の遠慮もあってか君付けだ。


「やってたよ、帰宅部」


「え、なんで?」


「前のところ、運動部しかなくてね。俺、まじ運動はダメなんだ」


「なんだそれ、中学校みたいだな」


 上田は少し笑ったけど、鈴木がまじな顔で振り向いてくる。


「この学校は文化系も多いぜ」


「いや、でもやっぱ運動やってみたらどうだ?」


 いつしか上田も目がまじになってる。


「俺、バスケだけども、部員足りないんだ。バスケどう? バスケ」


「いや、テニス部は?」


 反対側の席の男子も話に入ってくる。こいつはまだ名前も聞いていない。


「いやいやいやいや」


 俺は愛想笑いを浮かべる。


「がちで運動部には入る気ないんだ、ごめん」


 また、鈴木が振り返る。


「文化系で探してみたらいいんじゃね? 今の時期は新歓もやってないから、自分で探さねえとだめだけどよ」


「君は文化系?」


「俺? 空手」


 体格的にはそうは見えないから不思議だった。

 結局、ここでも運動系が主流のようだ。クラスには見渡したところ、頭髪を見ればすぐにそれと分かる野球部員も何人かいるようだ。


 そんなこんなで、俺がこの学校に来て第一日目は終わった。

 部活探しはもう少し慣れてからでいいやと思い、今日は帰ることにした。


 ふと気になった例の朝ぶつかった女子は、帰りのホームルームが終わるとさっさといなくなっていた。

 結局、一時間目の前に少し話しただけで、それきりだった。

 あんな派手な出会い方をしたのに、何か呆気ないような気もした。


 俺は誰と帰るということもないので、一人でとぼとぼと昇降口に向かって歩いていた。


「あのう、山下君」


 いきなり背後から、俺を呼ぶ声がした。

 振り向くと長身のほっそりとした男子が俺に声をかけてきたのだった。

 一人ではない。その後ろには長い髪を後ろで一つに結んだ女子が、やけににこにこして立っていた。


「転校早々申し訳ないけど、部活は決まった?」


「いや、まだ」


「同じクラスの小川っていうんだけど、もしよかったらと思ってね」


「あのう、運動部だったら俺だめなんだけど」


「運動部じゃないよ」


 小川という男子もニコニコ笑って、俺に一枚のチラシを渡した。

 見ると「柏木南高校現代文化研究会」という名称のもと、いくつか説明文が書いてあった。

 学校名はこの学校だ。


 ――活動を通してよりよい社会を築こう――


 そんなキャッチフレーズが続き、その下の大部分を制服女子のアニメチックなイラストがしめている。

 その吹き出しの形で、活動内容が列記されている。


 ●地域とのボランティアを通じて、社会との触れ合いを!


 ●子供やお年寄りに潤いある生活のためのイベントを企画


 ●本校生徒対象の人生相談窓口(恋愛・勉強・友達関係 その他)


 研究会っていうから堅苦しく何かを研究しているのかと思ったけど、なんだかボランティアサークルみたいだ。


「だいたいの活動はそこに書いてあるから、見てくれればわかると思うんだけど」


 小川の隣の女子が、やけに愛想よく言う。


「はあ……」


 俺が返せる限りの反応はそれだけだ。


「でもこれだけじゃ、よくわからないよね」


 女子の方から先に言われる。

 そしてそのチラシはくれるのかと思ったら、見せるだけで引っ込めてしまった。


「で、詳しい話を聞いてもらえたらなって思うんだけど、今時間ある?」


「今?」


 たしかに、俺はこのあと何も用事はない。でも部活探しは慣れてからと思っていただけに、ためらってしまう。


「まあ、ちょっと考えておくよ」


 俺は返事は先延ばしにした。


「いやいやいや」


 小川が笑顔で遮った。


「できれば今日、説明させてくれないかな」


「そうそう、早い方がいいよ」


 なんだか俺がほかの部活にとられないようにと、焦っているのかなとも思う。でもまあ特に予定はないし、まいっか……

 それにこの女の子、めっちゃかわいいしなあ。


「わかった。部室で?」


「いや、できれば帰りがてらに外で落ち着いて話しましょう」


「?」と思ったけれど、なんだか流れでそういうことになった。


 俺は新しく割り振られていた下駄箱に上履きを入れ、三人で昇降口を出た。

 初夏の日差しがさっと俺たちを包んだ。新緑の香りってやつだ。

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